2007年1月、大阪府八尾市の近鉄八尾駅前で3歳の男の子が歩道橋の上から男に投げ落とされた。男児は一命を取り留めたが、不可解な犯行は社会に衝撃を与えた。逮捕、起訴された森田大介(仮名、54)には軽度の知的障害がある。通所先の施設で人間関係に不満があったことが犯行の動機とみられた。森田は4年余りの服役後、府立の訓練施設を経て、以前と同じ障害者施設に戻った。(敬称略、共同通信=真下周)

 ▽手厚い見守りが裏目に

 施設の運営元は同市の社会福祉法人「ゆうとおん」。再犯しないよう細かなルールを定め、手厚い見守り態勢をつくったが、森田はかえってストレスを募らせた。戻って1年足らずの16年3月、施設を飛び出すと、路線バスに乗り込んで高齢女性の首を絞め、再び服役した。

 「本人に寄り添った支援ができず申し訳なかった。本人が望むなら何度でも引き受ける」。同法人の理事長、畑健次郎(72)は再度受け入れを表明。森田も愛着がある同法人に帰りたいという強い希望を持っていた。

 だが、障害のある刑務所出所者を福祉につなぐ大阪府の「地域生活定着支援センター」や保護観察所は、再犯を防げなかった法人の支援力を疑問視した。「被害者の気持ちも無視できない」。ゆうとおんを帰住先に認めず、刑務所も畑ら同法人の関係者に面会を許可しなかった。

 ▽精神科病院に入院

 約1年後に出所した森田は、いったん精神科病院に入院した。その間、定着支援センターは新たな受け皿を模索。行政や研究者、協力関係にある障害者施設と勉強会を重ねた。「再犯は本人にとっても最大の不利益」との観点から、犯罪学の最新知見を踏まえて森田の成育歴や行動原理を分析。再犯防止の手だてを探った。

 ただ、森田は希望がかなわない状況にいらだち、病院内の物品を壊すなど問題行動を繰り返した。「本人の自己決定がないがしろにされ、支援者側の事情で入院させられている」。見かねた畑が大阪弁護士会に対応を要請すると、センターは一転、「ゆうとおん」に帰す方針を決めた。森田は入院から半年後、18年3月に退院した。

 定着支援センターの山田真紀子所長は「ゆうとおんに戻れば、地域で『犯罪者が戻ってきた』と後ろ指を指されかねない。彼にとってどこで暮らすのが最善か、私たちなりに検討していた。こちらの考えを押しつけるつもりはなかった」。何が正解か簡単に答えを出すことができなかった苦悩をにじませた。

 ▽本人参加のもとリスク管理

 「元気にやってますよ」。19年10月下旬、ゆうとおんが運営する通所施設を訪ねると、森田は穏やかな表情で話した。商品の袋詰めなどの作業に取り組み、夜はグループホームで世話人と過ごす。気に入らない利用者がいると落ち着かなくなるなどの心配も残るが、深刻なトラブルは起こしていない。

 ゆうとおんの職員は無料通信アプリLINE(ライン)を使って情報を共有し、何かあれば迅速に対応する態勢を築く。森田の体調やメンタルの状態を青黄赤の信号になぞらえ、対応策を示した「クライシスプラン」も、森田と一緒に作成した。週1回の支援チームの会合には森田も参加し、その都度、自身の生活上の困り事や気持ちを伝えている。

 本人の幸福を追求する福祉と、社会防衛的な側面がある司法は、時に相いれない。しかし、16年に施行された再犯防止推進法は、罪を犯した障害者や高齢者への生活支援が「再犯防止」を目的に進められるリスクをはらむ。

 「人は生きているだけで大なり小なり過ちを犯すリスクを抱えているものだ。再犯防止ばかりを優先して、本人の思いを中心に置かない支援はおかしい」。ゆうとおんの畑はそう訴えている。(続く)

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