大阪市をなくして4特別区に再編する「大阪都構想」の賛否を市民に問う住民投票が11月1日に迫る。可決された場合、何がどう変わるのか。争点は。いちから解説する。(共同通信=山本大樹)

 ▽政令市廃止は史上初

 大阪都構想は全国で初めて政令指定都市を廃止する試みだ。住民投票で可決されれば、ごみ処理から都市開発まで、大阪市が担ってきた多種多様な業務は新設する特別区と、大阪府に引き継がれることになる。

 都構想の制度案によると、市から4特別区に移行するのは2025年1月1日。それぞれの名称は、現在の24行政区の名前を生かし「淀川」「北」「中央」「天王寺」となる。

 行政区は市の内部部局に過ぎないが、各特別区は市町村と同様の独立した自治体だ。保育、生活保護、ごみ処理など住民に身近なサービスを受け持ち、小中学校を指導・監督する教育委員会も個別に設置される。

 中核市と同規模の権限があり、保健所、児童相談所の運営やパスポートの交付なども独自に行う。介護保険は特別区間の調整が必要になるため、新設する一部事務組合が担う。

 ▽4大駅は各区に分散

 府は成長戦略、都市計画などの広域行政をつかさどる。これまで府市の権限が重なる「二重行政」が指摘されていた分野だ。大阪市域の消防や水道事業も府に移管される。

 前回15年の制度案との大きな違いは特別区の区割り。前回は五つの特別区を設置する計画だったが、今回の制度案は特別区間の人口や財政力の格差を縮小するため、一つ減らして四つとした。

 地下鉄やJR、私鉄のターミナルになっている新大阪、梅田、難波、天王寺の4主要駅は各特別区に分散。1区当たりの人口は約60万〜75万人となり、制度移行から10年後の推計でも、人口格差は前回の最大2.05倍から1.33倍に縮小した。自主財源の格差も最大1.54倍から1.19倍に平準化された。

 特別区が他の市町村と大きく異なるのが財政制度だ。市の税収のうち、多くを占める固定資産税や法人市民税などは、特別区と府の「財政調整財源」としていったん府が徴収する。これを、市から引き継ぐ業務の量に応じて特別区と府に再分配する仕組みだ。特別区と府の配分割合は、おおむね8対2と見込まれる。

 ▽市のままなら「赤字」

 今回の制度案を巡って、賛成派と反対派が真っ向から対立する争点が「特別区の財政が成り立つかどうか」だ。

 賛成派は、制度案の設計を担った府市の共同部署「副首都推進局」の財政シミュレーションを根拠に「特別区になっても収支不足は発生しない」と太鼓判を押す。一方の反対派は「前提が甘すぎる。実際には成り立たない」と主張している。

 そもそも、副首都局の財政シミュレーションは、市の財政局が今年3月に発表した「粗い試算」という29年までの将来推計がベースだ。推計は市の存続が前提になっており、向こう10年間の見通しを「毎年49億〜181億円の赤字」としている。

 ▽「都合のいい」数字

 では、なぜ特別区になると、赤字が発生しないのか。

 財政シミュレーションで収支改善の大きな要因になっているのが、民営化された地下鉄「大阪メトロ」からの税金と株主配当だ。同社は市の完全子会社で、19年4月版の中期経営計画では、18〜25年度の間に、税金と配当で「市への財政貢献1千億円を目指す」と記した。

 副首都局はこの目標値を根拠に、メトロからの税金と配当の合計額を積算。特別区への移行初年度となる25年度は計154億円、26〜39年度はさらに増額して毎年計 172億円を歳入として計上した。

 その結果、特別区への移行に伴う人件費の増加などを織り込んでも、25〜39年度までの4特別区の収支は「毎年計17億〜77億円の黒字」になると結論付けた。

 特別区になったからといって、メトロの経営状況が大きく改善するわけではない。同社が19年度に支払った税金と配当はシミュレーションより少ない計約130億円にとどまる。最近は、新型コロナウイルスの影響で利用客が大幅に減っており、20年4〜6月期は純損益が39億円の赤字に転落した。

 同社がコロナ禍を受けて見直した20年5月版の中期経営計画では「先行きが見通せない」として、市への財政貢献を含め目標額は一切示されていない。大阪メトロは取材に「財政シミュレーションに関する事前調整はなかった」と説明しており、市都市交通局からも「毎年170億円の税収や配当が約束されているわけではない」との声が上がる。市財政局の幹部は「赤字が続けば無配当になることもあり得る」と懸念する。

 市議会でも、コロナ禍以前に作成された目標値を前提にしたことに「都合がいい数字を使っており、楽観的すぎる」と批判が集中したが、大阪維新の会代表の松井一郎市長は「メトロは成長する会社。長期的には成り立つ」と一蹴した。

 ▽「区外」で働く区職員

 財政試算と並ぶもう一つの大きな争点が、災害対応だ。今回の制度案では、制度移行に伴うコストを圧縮するため、各特別区の本庁舎は新設せず、既存の市役所や区役所を活用することとした。

 その結果、「淀川区」と「天王寺区」の職員の一部は「北区」のエリアにある現在の市役所本庁舎まで「越境」して勤務することに。とりわけ淀川区では、区政全体に携わる職員のうち、区内で勤務するのは253人にとどまり、3倍以上の878人が北区へ出勤する見通しだ。

 府の13年の試算によると、南海トラフ巨大地震が発生した場合、津波や火災、建物倒壊による府内の死者は最大約13万4千人。その大半が大阪市エリアに集中している。

 大型台風の被害想定でも、高潮で淀川が氾濫すれば広範囲が浸水する恐れがある。淀川区と北区は淀川で隔てられているため、反対派は「川が氾濫したら分断されてしまい、淀川区内の初期対応が遅れる」と警鐘を鳴らす。

 これに対し、松井市長は「特別区ごとに四つの災害対策本部が立ち上がるので、対応能力はむしろ向上する」と胸を張る。ただ、市危機管理室の担当者は「新型コロナの対応に追われ、特別区移行後の防災面の詰めは進んでいない」と話した。