全国で空き家が増え続けている。「高齢の親が施設に入り、住み手がいなくなった実家をどうしよう…」。こんな悩みを抱えている人も多いのではないだろうか。人が住まなくなった家屋は劣化しやすく、地震で傾いたり、動物がすみ着いたりして周囲に悪影響を及ぼす恐れがある。放置したままにせず「売る」「貸す」「解体する」といった早期の方針決定が大事だという。空き家率が全国1位の高知県では、空き家がたくさんあるのに移住者の住める空き家が見つからないという問題が浮上。ワースト返上に向け、地域の人間関係を生かして空き家の解消を図る取り組みが始まった。(共同通信=江浪有紀)

 ▽空き家数は20年間で約1・9倍、西日本で割合高く

 5年ごとに行われる総務省の住宅・土地統計調査によると、2018年時点で空き家の総数は約849万戸。このうち賃貸や売却を目的としたものや、別荘などとして定期的に利用されているものを除いた「その他」の空き家は約349万戸に上る。これが、管理が不十分となりがちな空き家の数だ。1998年からの20年間で約1・9倍に増え、社会問題化している。
 住宅総数に占める「その他」の空き家の割合が最も高いのは高知県の12・8%。次いで鹿児島県の12・0%、和歌山県の11・2%、島根県の10・6%、徳島県の10・3%と続く。全国平均は5・6%で、西日本で高い傾向がある。住宅政策を担う国土交通省によると、空き家の増加は人口減少が背景にあるが、西日本で空き家率が高い理由はよく分かっていないという。

 適切な管理をせずに空き家を放置すると、屋根や外壁の建材がはがれ落ちたり、建物が傾いて倒壊する危険性が高まったりする。また、ごみが不法投棄され衛生面や景観上の問題も引き起こす。周辺に住む人にとっても人ごとではない。
 年間2千戸のペースで空き家が増えている高知県では、空き家の数が多いのに活用できる空き家が少ないというミスマッチが起きている。県によると、県内への移住希望者で空き家を探したものの見つからずに諦めたケースは2019年、20年にそれぞれ200件以上あった。こうした事態を解消しようと高知県は今春、庁内に空き家問題の対策チームを新設した。空き家の売買や相続手続きなどについてワンストップで相談できる窓口を設置したほか、空き家の所有者に今後の扱いを考えてもらう「空き家決断シート」を作成。県内6市町村をモデル地域に指定して対策を進めている。

 ▽「思い入れあるが、解体も決断しなければ…」

 モデル地域の一つ、県中西部にある人口約5500人の津野町で8月上旬、空き家対策のワークショップが開かれた。418人が住む船戸地区の各集落の代表者ら11人のほか、県の空き家対策チーム、津野町の職員ら約20人が集まった。各集落の代表者らは、どこの家が空き家となっているかを熟知しているのが強みだ。「ここは月2回は帰ってきている」「盆と正月に帰ってくるだけで、あとは住んでないね」。参加者はこんな会話を交わしながら、人が住める場合は赤色、所有者が施設などに入所していて時々帰る場合は黄色、老朽化が進むなどして住めない場合は青色の付箋を、それぞれの集落の地図に貼っていった。集計すると、地区全体では66戸の空き家があることが分かった。

 ワークショップの結果を受け9月下旬、町から「集落支援員」の委嘱を受けている竹崎美栄子さん(62)らが船戸地区の空き家の持ち主を訪ねた。1軒目の西森益栄さん(88)は、自宅のすぐ近くに築約70年の3階建ての空き家を所有する。先のワークショップでは赤色に分類されていた建物だ。妻の絹恵さん(85)によると、19年まで約30年間、1人暮らしの女性に貸していた。女性が大阪府に住む娘のもとに引っ越したため、空き家となった。室内はきれいに保たれている。竹崎さんはすぐに人が住める物件と判断し、絹恵さんにアドバイス。貸し出すことを決めた絹恵さんは「空き家にしておくよりも誰かに住んでもらった方がうれしい」と、地域に人が増えることを期待した。この直後の10月には、新たな借り手が見つかった。

 もう1軒の訪問先は、竹崎さんの実父の松岡一幸さん(89)宅だった。松岡さんが所有する2階建ての空き家は以前、松岡さんの両親や弟が住んでいたが、15年以上前に空き家になった。敷地内に農機具を収納する小屋があり、現在は松岡さんの家族が農作業をする際に休憩で使うのみだ。室内には使わなくなった物がそのまま置いてあり、水回りなども修理しないと使えない。竹崎さんと話した松岡さんは「思い入れがあるが、借り手に巡り合えないのなら早めに解体することも決断しなければならない」と一言。老朽化が進んでおり、借り手が現れる見込みがないため空き家バンクへの登録もしないつもりだ。竹崎さんは今回のケースを念頭に「親が生きているうちに家の処分をどうするか決めておいてほしい。『こうしてくれるであろう』という思い込みはいけない」と、自分に言い聞かせるように話した。

 ▽あくまで住民が主導、行政はサポート役

 高知県では中山間地域の活性化のため、各集落の実情に詳しい人が集落支援員に委嘱されている。船戸地区では、竹崎さんら支援員2人が空き家対策の旗振り役を担う。引き受けた理由を「自分が生まれ育った町に恩返ししたいから」と語る竹崎さん。町内への移住者らのために空き家を探すと「住めそうで住めない家」がたくさんあることに気付き、放置されている空き家は早めに対策を講じなければならないと痛感した。「当初は町がどうにかしてくれないかと思ったが、それでは解決にならない。私たちがやる強みは、長年知っている人だから空き家の所有者と簡単に込み入った話ができるところだ」

 県の空き家対策チームの藤田直チーム長も、取り組みの意義をこう強調する。「県職員が外から言っても聞いてもらえない。自分事として考えてもらうには、付き合いのある人から伝えてもらうのが有効だ。県はサポート役であって、あくまでも住民が主体で動いてもらう」
 福井県美浜町のNPO法人「ふるさと福井サポートセンター」は2011年に設立後、「空き家決断シート」の作成や所有者の意思決定の緊急度の診断など、さまざまな空き家対策を実践してきた。こうしたノウハウを全国に発信しており、高知県の空き家対策チームも支援を受けている。サポートセンターの北山大志郎理事長は「全国で空き家が多くあるのに、住める空き家がないという問題が起こっている。高知の例は、県が音頭を取れば全市町村に対策が広がるというモデルケースになるだろう」と期待する。