旧日本国有鉄道(国鉄)時代に登場した伝統ある特急用電車の運用が、約2年後に幕を閉じる見通しになった。1987年の国鉄分割民営化から35年を迎えた今年は、花形だった485系が全て引退。JR西日本の岡山―出雲市(島根県出雲市)間の特急「やくも」で使う381系が2024年度中に置き換えられ、国鉄型特急用電車が一掃される見通しだ。(共同通信=大塚圭一郎)

 【国鉄型特急用電車】国鉄時代に特急向けに開発、製造された電車。485系や381系などは登場時に先頭部の運転台を高い位置に設け、車体はクリーム色を基調にして赤色のラインを入れた「国鉄特急色」に塗っていた。一方、非電化区間向けにディーゼルエンジンを搭載した特急用気動車では国鉄末期の1986年に登場したキハ185系があり、JR九州は博多(福岡市)と別府(大分県別府市)などを結ぶ特急「ゆふ」などに用いている。

 ▽代表格は12月で運用終了

 国鉄型特急用電車の代表格は、最初の東京五輪が開かれた1964年からシリーズ全体で計1453両が製造された485系だ。交流と直流の両方の電化区間を走れる特性を生かし、本州と九州を中心に幅広い地域を駆けた。唯一運用しているJR東日本が今年12月で485系の運用を全て終えることを複数の関係筋から確認できたため、共同通信で10月24日に報じた。

 485系を改造した観光列車「リゾートやまどり」が上尾(埼玉県上尾市)―長野原草津口(群馬県長野原町)間で12月11日に往復するのが485系の最終営業運転になることをJR東日本関係者が明らかにした。JR東日本グループが募集するツアーとして運行し、11月17日に発表されて翌18日に募集を始める。午前7時55分ごろに上尾駅を出発し、午前10時35分ごろに長野原草津口駅に到着。午前11時前には出て、上尾駅に午後2時ごろに着く行程になる。(11月17日に追記:JR東日本は上記ツアーの実施を11月17日のニュースリリースで正式発表した。参加費は2万円)
 これに先立ち、同じく485系を改造したお座敷列車「華(はな)」は旅行会社、クラブツーリズムの団体旅行として品川(東京)―伊豆急下田(静岡県下田市)間を10月30日に往復したのがラストランとなった。ツアーの終了時に到着した品川駅のプラットホームにはカメラを構えた大勢の鉄道ファンが押しかけ、返却回送のため出発した際には「ありがとう」「お疲れ様」といった歓声が送られ、拍手がわき起こった。 
 JR東日本関係者はこれらの列車を「保存する予定はない」とし、郡山総合
車両センター(福島県郡山市)へ運搬して解体することを明らかにした。華は1
1月10日、廃車にするため郡山総合車両センターへ回送された。

 ▽原形車両とは“全く別の顔”

 ともに高崎車両センター(群馬県)に所属してきたリゾートやまどり、華はともに先頭部に1枚の大きな窓を備えている。運転士からの眺望を良くするために運転台を高い位置に設けていた原形車両とは“全く別の顔”だ。
 というのも、これらの列車は485系の床下機器や台車などを流用しているものの、新たに造った車体を載せているためだ。JR東日本は新型特急用車両への置き換えに伴って使わなくなった485系の一部を「ジョイフルトレイン」と呼ぶ列車に改造し、旅行会社のツアーで貸し切り運行したり、行楽客向けの列車として走らせたりした。
 しかし、車内をお座敷と座席の両方にできる“二刀流”の「ニューなのはな」が2016年、カラオケも備えた「彩(いろどり)」が17年、お座敷列車の「宴(うたげ)」が19年にそれぞれ営業運転を終えるなど引退が相次いでいた。
 1997年デビューの華は旅行商品などに使う団体列車として走り、乗客が靴を脱いで畳敷きの車内でくつろぐことができた。机を並べた掘りごたつにしていることが多かったが、畳敷きの床の一部を電動で上下に動かせば車両全体を平らの畳空間に転換できた。
 2011年に登場したリゾートやまどりは、群馬県の県鳥ヤマドリにちなんで命名。背もたれを倒せる座席を設け、足元空間も広い。まるでグリーン車のような空間ながら、乗車券のほかに指定席券を買えば乗車できる臨時の快速列車として運用される機会が多い“お買い得列車”だった。車内には子どもが遊ぶことのできるコーナーや、乗客同士が談笑できる畳敷きのいすを設けた一角もあった。

 ▽一線を退く理由

 国鉄型特急用電車が一線を退いているのは、車体が鋼鉄製の485系ならばさびが出るほか、搭載した機器類や装備品の具合が悪くなるなど老朽化が進んでいるためだ。JR旅客6社はさびにくく、比較的軽量なステンレスやアルミ合金を採用して省エネルギー化した新型車両への置き換えを進めてきた。
 中でもJR東海は国鉄時代に製造された通勤用電車「211系」を今年3月に引退させ、JRで最初に国鉄製車両を一掃した。
 JR主要企業の保守点検担当者は「国鉄時代に造られた車両は故障が起きやすいなどメンテナンスが大変で、部品も入手しにくくなっている」と指摘。中でも細かい部分まで検査する重要部検査や、全般検査を通すのは手間がかかるため「大規模な検査の前に置き換えることが多い」と説明する。
 485系以外で国鉄時代に造られ、特急を中心に活躍したJR東日本の電車には1981年登場の185系がある。昨年3月までは東京と静岡県の伊豆半島を結ぶ特急「踊り子」の定期列車として走り、その後も臨時列車や団体列車で走ってきた。JR東日本は今年9月に185系を5編成並べた様子を撮影できる参加費5万円の“超高額”撮影会をさいたま市で開催し、話題を呼んだ。ただ、順次解体されており「先は長くない」(事情通)とされる。

 ▽始まりは終わりの時…

 JR西日本は10月20日、特急「やくも」で活躍している381系を置き換えるため、ブロンズ色を基調とした次世代電車273系を2024年春から順次導入すると公表した。やくもは国鉄型特急用電車が定期運転する唯一の列車だけに、273系の営業運転の始まりは国鉄型特急用電車の役目が終わって“最後の砦”が崩れることを意味する。
 JR西日本は273系の4両編成、計11編成を導入して381系の置き換えを完了するのは「24年度中の予定」と話しており、遅くとも25年3月末までに消えることを明らかにした。運用を外れる381系は「現時点で波動用としての継続使用の予定はなく、順次廃車、解体を進める」と説明している。
 1973年に登場した381系は、曲線を通過する速度を上げるために日本で初めて振り子方式の車体傾斜装置を採用した画期的な車両だ。今年3月にはやくもの運転開始50年を記念し、国鉄特急色の塗装を復元した編成の運転も始まった。
 ただ、曲線を走る際の振り子方式の揺れを心地よくないと感じる乗客もいるため、車内の洗面所にはいざという場合のためのエチケット袋も用意している。改善に向け、273系は地図データを活用し、カーブする際に車体を自動で傾ける車上型制御付き振り子方式を初めて採用する。
 技術革新を伴う世代交代により、利用者の乗り心地が良くなるのは確かだ。ただ、それと引き換えに国鉄型特急用電車の乗り心地を体験できなくなる日が刻一刻と近づいている。

 ※「鉄道なにコレ!?」とは:鉄道と旅行が好きで、鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」の執筆者でもある筆者が、鉄道に関して「なにコレ!?」と驚いた体験や、意外に思われそうな話題をご紹介する連載。2019年8月に始まり、ほぼ月に1回お届けしています。ぜひご愛読ください!