中国新疆ウイグル自治区で指摘されるイスラム教徒の大規模収容。人権団体などは性別や年代、職業を問わず、イスラム教徒が拘束されていると指摘してきた。収容施設では何が行われているのか。今回、施設で中国語教師として勤務した経験があるという女性が取材に応じた。彼女は日中国交正常化50年に合わせ、中国大使館前で抗議するために亡命先のオランダから来日した。証言によると、収容された人々は髪をそられ、手足に鎖を巻かれるなど悲惨な状況に置かれているという。「いたって普通の人たちが自由を奪われていた」と明かしている。(共同通信=上松亮介)

 

 ▽巨大な建物
 女性はケルビヌル・シディクさん(53)。新疆ウイグル自治区ウルムチ市出身。ウイグル族と同じく、多くがイスラム教徒のウズベク族。多数のウイグル族が収容された施設で、2017年に二度、計約9カ月にわたって中国語を教えたという。
 初めに赴任したのは男性用の施設。ウルムチ郊外にあり、巨大な建物だった。男性は一様に髪を刈り上げられ、灰色の下着にオレンジ色のベストを着用。両手足には細い鎖が巻かれていた。教室に近接し、鉄格子で囲まれた刑務所のような個室で生活しているようだった。「数え切れない人がおり、ベストに付けられた通し番号から8千人はいたと想像できた」
 教室には複数台の監視カメラがあり、大型の銃を手にした男たちが目を光らせている。字をやっと読めるくらいの薄暗い照明の下、所狭しと並べられた子供用の椅子に約100人が鎖につながれたまま座り、ひたすら習近平国家主席をたたえる中国語の文言を音読していた。

 

 

 ▽家族への伝言
 ある時、20代の男性が監視の隙を突いて早口で話しかけてきた。「新婚でもうすぐ赤ちゃんが生まれる。家族に何とか自分の無事を伝えてもらえないか」。収容された人たちとの会話は禁止されている。押し黙るしかなかった。消息を家族に伝えてほしいと頼む人は、ほかにも数人いたという。
 女性用の施設では男性同様に髪の毛をそられ、痩せた若い女性が担架に乗せられ施設を後にするのを目撃。警備員の知り合いからは「何かの薬を飲まされ、生理が止まらず死亡したようだ」と聞かされた。
 ケルビヌルさんは夫に施設での体験を話したが、身の危険を案じてか「絶対に口外するな」と言われた。施設での経験から精神的なショックを受けて体調不良が続き、女性用施設の任期途中で勤務を中断した。
 2019年、出国を決意し、娘が暮らしていたオランダに亡命した。オランダの空港に到着後も混乱状態に近く、3時間ほど体を動かせなかった。「忘れることができない恐怖で、もう自分の体はオランダなのに、まだ中国にいるという感覚だった」と涙ながらに当時を振り返る。

 ▽続く恐怖
 ただ、亡命後も恐怖は続いた。ウイグル弾圧に注目が集まり、施設内部のことを欧米メディアに証言し始めた2020年以降、新疆ウイグル自治区で顔見知りだった当局の男が、現地に残した夫や姉の電話番号などを使い、ビデオ通話をかけてきた。
 「2021年2月18日」という日付が残るビデオ通話のスクリーンショットを見せてもらった。画像には、ケルビヌルさんと会話する警察官のような制服を着た男が写っている。4枚のスクリーンショットを時系列で見ていくと、2人の会話する様子が変わっていくのが分かる。
 「身の回りにいるウイグル人の知り合いがいたら、教えてくれないか」。男は最初、笑顔でこう情報提供を求めてきた。ケルビヌルさんが協力しない姿勢を見せると、表情を硬くして「施設内のことは口外するな」「家族のことを考え行動しろ」と忠告してきたという。
 男は最初の画像で着ていた制服を、途中から脱いでいる。その理由について、ケルビヌルさんは「画像が公開されることで、もし自分が当局の人間だと知られればまずいと思ったのではないか」と推測している。
 ケルビヌルさんは現在も証言を続けている。脅迫のような電話は既に途絶えたというが、家族の身を案じる日々は続く。不眠症などの体調不良にも悩まされるが「施設にいた人たちの顔が今も思い浮かぶ。生きている限り、彼らのために名前と顔を出して証言を続けたい」と声を振り絞った。