森友学園との国有地取引に関する資料から安倍晋三元首相の妻昭恵氏や、政治家に関する記述を財務省が削除した改ざん問題。その作業を強制されたことを苦に自殺した近畿財務局の元職員赤木俊夫さん=当時(54)=の妻、赤木雅子さん(51)は、国と改ざんを指示した当時の理財局長の佐川宣寿氏に損害賠償を求める訴訟を大阪地裁に起こし「私は真実が知りたい」と訴え続けてきた。国がとった予期せぬ「奇策」にくじけそうになりながら、夫に報いるため真相解明の戦いを続けてきた雅子さんだが、安倍元首相の突然の死は彼女に追い打ちをかけた。今、残ったものは何だったのか。25日に言い渡される判決を前に、提訴から2年8カ月に及ぶ日々を雅子さんが振り返った。(共同通信=助川尭史)

 ▽喫茶店で書いて安倍さんに渡した手紙

 ―今年7月8日、改ざんのきっかけを作った安倍晋三元首相が遊説中に銃撃される事件が起きました。

 本当にびっくりしました。実は事件の前日に会っていたんですよ。7月7日、たまたま用事があって神戸市内にいたら、「今日の夕方、安倍首相が応援演説にきます」っていう告知が聞こえたんです。それで思い立って近くの喫茶店で改ざん問題の再調査をお願いする手紙を書きました。安倍さんの演説は周りが異様な熱気で、ちょっと聞いているのが苦しくなってしまって。もう帰ろうとする矢先に演説が終わって、安倍さんが選挙カーから降りてきてグータッチしながら目の前に来たんです。それで安倍さんに「手紙です」って渡したら「手紙!」って喜んでくれました。名前も書いてないし、ファンレターかと思われたかもしれない。その時が安倍さんに直接会って、言葉を交わした最初で最後になりました。

 ―安倍晋三元首相が亡くなったことで、永遠に本人の口から真相を聞くことはできなくなりました。

 答えを聞けなくなったのはすごく残念でしかないですね。私は安倍さんが直接改ざんを指示したとは思っていません。だけど、国会で「私や妻が関係していたら総理大臣も国会議員も辞める」と話したことがきっかけにはなったと思うので、それについてどう思っているのか、話してほしかったですね。自分の発言とか奥さんの存在がきっかけになった問題であるのは間違いないし、関係してないなんて軽々しく言ったことを反省してほしかったです。

 ―銃撃事件直後に大阪地裁であった訴訟の本人尋問で雅子さんは「黒い疑惑のまま国葬されることは本人も望んでない」と訴えましたが、国葬は予定通り9月27日に開かれました。

 国葬の日はたまたま用事ができて東京に行って、知り合いの記者の人に連れられて会場の近くに行きました。でも会場までの道は通行止めになって見に行けませんでした。それで代わりに献花台の近くまで怖かったけど行ったんです。そしたら祭壇に花を持って向かっていく行列がずっと続いていて、世の中の人はもう全部許すんだなと思ってちょっとショックだったんですよ。
 どうしても夫の時と比べてしまって。同じ人間なのに、夫のお葬式のときには、もう本当に寂しいお葬式で。財務省の人も来ていたけど、記帳もせずに帰って行きました。ただね、すぐ近くでは国葬反対のデモがすごかったんです。あんな反対されている中で送られるって、ご本人も不本意だと思うし、昭恵さんだってそんなうれしくないじゃないですか。あんな反対されるぐらいだったらやらない方がいいと思われると思う。ちゃんとグレーのものを白くしてから国葬されるんだったら良いけど、うやむやなまま国葬されるのもご本人もうれしくなかったんじゃないかと今でも思います。

 ―森友問題のキーパーソンでもある安倍昭恵さんは、安倍元首相が亡くなってから口を閉ざしたままです。

 私も昭恵さんも理不尽な死を夫が遂げている。1人ぼっちになったときに、私の気持ちがやっとわかるんじゃないのかなとか思いました。事の真相を話せるのは昭恵さんしかいない。私はそう思います。以前昭恵さんは夫に一回は手に合わせたいとおっしゃっていました。ぜひ実現してほしいです。

 ▽佐川さんも国の被害者だと思う

 ―裁判の経過を振り返ります。2020年3月に提訴した訴訟は、赤木さんが改ざん作業時に作成した「赤木ファイル」が昨年6月に国から開示され、経緯の一端が明らかになりました。雅子さんは黒塗りとなった部分のさらなる開示を求めていましたが、国は昨年12月、請求を全面的に受け入れる「認諾(にんだく)」の手続きによって一方的に訴訟を終了させてしまいました。

 本当に想像してなかったことが突然起きて、夫の死の真相に近づくという目標がいきなり失われてしまいました。夫が亡くなって人生変わったけれど、また人生が変わったような気がします。
 認諾された直後には、財務省に抗議文を持って行って「絶対に返事をください」って念押ししたんですけど、いまだに返事はありません。あれから体調も優れないですし、戦うぞという気持ちが段々減ってきた気がします。

 ―国との訴訟は強制的に終了したわけですが、残った佐川氏に対する訴訟で改ざんの動機や経緯を直接ただしたいと、改ざんに関わった佐川氏や財務省職員の証人尋問を申請しましたね。しかし、佐川氏側は「職務で損害を与えた公務員個人は責任を負わない」とする最高裁の判例を盾に訴訟の早期終結を求め、地裁も申請を認めませんでした。

 やっぱり今でも佐川さんが改ざんを発案したのか、もしくは誰か別に彼に改ざんを指示した人物がいるのかについて一番聞きたいです。佐川さんは同じ国の被害者でもあると思うんです。だって表舞台にも出てないですし、どこにも就職できてないんじゃないかと思いますよね。ご家族もつらい思いをされてらっしゃると思います。私は別に佐川さんが夫を殺したいから改ざんなんか発案したわけでないのはもちろん分かっています。安倍さんに良いところを見せたいと思ったのか、何か面倒くさいことにならなきゃいいぐらいに思って気軽な気持ちで改ざんを発案したのか、それとも誰かに指示されてやったのかは分かりません。それが夫の死につながるっていうことを本当に感じずにやったとしたのだったら、反省してほしいし、謝罪してほしいし、夫に手を合わせてほしいです。

 ―昨年の9月に「聞く力」を掲げて首相に就任した岸田文雄首相にも、当初は期待していた部分があったと思います。

 岸田さんは当初、決裁文書改ざん問題について「さらなる説明をしないといけない」というのをちらっとおっしゃったことがあったので期待していました。ですが、ある時からもう一切再調査はないとかじを取られてしまった。首相就任後には再調査を求めるお手紙も渡したんですけど、その結果が「認諾」。残念でならないです。

 こないだ知り合いの高校生の子に会ったら、もう森友問題のことを知らないって言うんですよ。ネット上でも「終わった話」「いつまでやっているんだ」と書かれて、だんだん世間の記憶から改ざん問題のことが薄れていく感じがすごくして。時間がたてばたつほどもう昔のことになってしまっているのをすごい感じます。

 ▽信念持った人が組織につぶされることのないように

 ―雅子さんは、今年9月に改ざんに関わった佐川氏らを虚偽有印公文書作成容疑などで東京地検特捜部に告発しました。大阪地裁では財務省が大阪地検特捜部に提出した資料の情報公開請求の不開示決定取り消しを求める訴訟が係争中です。司法に何度も裏切られているのに、それでも司法の場で真実を明らかにしたいという思いの原動力はどこにあるのでしょうか。

 いやあ、夫は本当に私のことを大事にしてくれていたんです。お返ししたいその一心でしかないかなと。亡くなったことは残念だけど、戦えるだけの力を残してくれてたので。誰が改ざんを発案して、指示したのか。その人が夫みたいな人間が出てくることを想像できなかったのか知りたいですね。だってそれを明らかにしないとまた同じことがきっと起きちゃうと思います。信念を持った人が組織につぶされることのないようにしてほしいです。

 ―25日には佐川氏に対する訴訟の判決が出ます。2年8カ月の裁判を経て残ったものは何だったのでしょうか。

 一番は赤木ファイルが出てきて、夫が財務省に対して改ざんみたいなことをやるべきじゃないというメールを出していた事実があったことです。私はそれがすごく夫らしく頑張っていたんだなっていうのを知れてうれしかったです。裁判を続ける中でたくさんの方から応援もいただきました。夫のように犯罪行為をさせられてしまって亡くなるまでいかなくても、政府組織の中にいたら理不尽なことが多々あることを訴えることができたのであれば良かったと思います。

 ―判決にはどのような内容を望みますか。

 裁判長がどういう書きぶりをしてくださるのか私も想像できないです。何が正義なのかという思いから逃げないでほしいなと思います。