猛暑のために屋外のプールが、使用禁止になっている。そんなニュースが流れていた。楽しみにしていた夏休み中の子供たちは、さぞやがっかりしていることだろう。

 12歳未満の選手で構成されるチームで構成する「東京都少年サッカー連盟」は、今年から7、8月の公式戦を全面的に禁止にした。その理由について、同連盟の吉実雄二委員長は「試合をこなすよりも、子供の命、安全が大切」と説明している。

 日本の夏は、今年だけが取り立てて暑いのではない。それゆえ、来年も間違いなく暑い。そして、来年のこの時期は東京で五輪とパラリンピックが開催される。屋内ならまだしも、屋外で競技を行うなど正気の沙汰ではない。

 招致活動の際、国際オリンピック委員会(IOC)に提出した大会開催計画である「立候補ファイル」には、大会期間の気候について、次のように記されていた。

 「この時期の天候は晴れる日が多く、かつ温暖であるため、アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候である」

 目を疑った。この東京のどこが「温暖」なのだろう? 何らかの利権も絡んで、こんな大うそがまかり通ったのだろう。しかし、来年の大会が終わった後に、日本のスポーツ界は大きな代償を支払うことになるだろう。これまで築いてきた世界的な信用を失うに違いないからだ。その責任は、誰がとるのだろうか。

 スポーツや大会よりも大切なものがある。わざわざ記すまでもないが、「健康」と「命」だ。サッカー界には、悔やんでも悔やみきれない悲しい思い出がある。それは2003年6月26日、フランスで開催された各大陸の王者が争うコンフェデレーションズカップの準決勝、カメルーン対コロンビアで起きた。

 リヨンで行われたその試合を筆者は会場で取材していた。後半25分過ぎにその事故は何の前触れもなく発生した。カメルーン代表のフォエがピッチで倒れ、そのまま帰らぬ人となったのだ。死因は心臓疾患と発表された。あの日のリオンも「記録的暑さ」に見舞われていた。

 それでも、近年の東京に比べればまだ涼しかったと思う。来年の東京五輪では、とにかく犠牲者が出ない事だけを願う。選手だけでなく、観客やボランティアなどを含めた全ての関係者が対象だ。偉い人は冷房が利いた所にいるので関係ないだろうが…。

 毎年感じるが、夏場のJリーガーはさぞや辛いのだろう。試合後の表情を見ていると、ゲッソリと☆(順の川が峡の旧字体のツクリ)がこけている選手が他の季節より多い気がする。当然、フィジカル面でのリカバリーも遅くなるだろう。

 アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)出場で試合数の少なかった4チームが7月31日に第16節を消化した。その影響で、鹿島、広島が中2日、川崎と浦和が中3日で第21節を戦うことになった。勝利を収めたのは広島だけ。鹿島が敗れ、川崎と浦和は引き分けだった。特に4位の鹿島が敗れたのは12位の湘南。3位の川崎が引き分けたのは16位の松本というのは意外だった。現在の力関係だけを考えれば圧倒的に優位だったはずの上位陣が苦戦を強いられたのはコンディションの影響が少なからずあったはずだ。

 四季それぞれに特徴があるのが日本の良さだが、屋外スポーツに関してはそぐわない時期もある。その代表格である、過酷な夏場をどのように過ごすかで、Jリーグのタイトルは行方が決まるといってもいい。昨年も酷暑だったが優勝した川崎は、7、8月の7試合に6勝1分け1敗と圧倒的な強さを見せた。

 チームそれぞれに、戦術やスタイルの違いがあるので一概にはいえない。だが、夏場のサッカーで大切なのはいかに体力をセーブして効率的なサッカーをやるかだ。その意味で現在首位を走るFC東京が第21節C大阪戦で見せた戦い方には、巧妙さを感じた。

 キックオフ直後からペースを握ったのはC大阪だった。C大阪はここ5試合で3勝2分けと負けなしと好調。加えて、今季の失点はリーグ最少の12と堅守のチームだ。最初に決定機を迎えたのは、そのC大阪だった。前半11分にブルーノメンデスがGK林彰洋との1対1を作り出す。しかし、林が巧みなポジショニングと鋭いセーブでこれを弾き出した。これが決まっていたら展開は変わっただろう。

 ナイターなのに、給水タイムが入る。それくらい暑い試合。FC東京がギアを上げたのは後半からだ。後半2分に左サイドの東慶悟のクロスを永井謙佑がヘディングで決めて先制。一気にペースを握った。

 それにしても絶妙なラストパスだった。東のチップキック気味で送られたラストパス。ノーステップで蹴られたのは「タイミングが(守る)相手からしたら難しい」からという計算しつくされたものだった。

 「1点を取るとうちはすごい勢いが出る」

 そう語った永井の言葉通り、後半23分には右サイドの三田啓貴の左足FKから追加点。記録では森重真人の得点になったも。それでも、キッカーの三田が「(自分の)ゴールですよね」と胸を張った完璧なキックは、チームとして今季初となるセットプレーからの得点だった。そして、終了間際にはディエゴオリベイラがダメ押し点を決めた。

 内容を見ればシュート8本。ポゼッションは39パーセントだった。試合を支配していたとは言えないにもかかわらず、結果は3―0の完勝だ。夏場は命と体を労わる省エネで、いかに効率的なサッカーを展開するか。今シーズンのFC東京リーグ制覇に必要な大切なものが備わっている。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。