守備固めのために投入した選手が、予想もしなかった決勝点をたたき出す。これがワールドカップ(W杯)の本大会だったら「絶妙の名采配」という見出しが立つのだろう。

 日本代表にとって今年初となったオランダでの国際親善試合。10月13日のコートジボワール戦は、9日のカメルーン戦から7人のメンバーが入れ替わった。堅い内容の試合は第1戦に引き続き、0―0のスコアレスに終わるかと思われた。しかし、後半43分に投入された植田直通がアディショナルタイムに鮮やかなダイビングヘッドで決勝点をたたき出した。室屋成と交代してから、わずか3分後のことだった。

 そう多くはないチャンスのなかで、この場面で代表が見せた駆け引きは見事だった。遠藤航が倒されて得た右サイドのFK。キッカーを務めた柴崎岳の視線の先には、三つのターゲットがあった。189センチの吉田麻也、187センチの冨安健洋、そして185センチの植田だ。

 「アフリカのチームにありがちなのが、ボールウオッチャーになってファーサイドが空くこと。タフな試合で残り時間が少ないこともあって、集中力を欠く可能性が高いかなと思った。正直、僕がファーに行きたかったんですけど、直通(植田)の方が可能性があると思った。そこで、僕がニアでオトリになって、トミ(冨安)と直通にファーに入ってもらって、ガク(柴崎)にファーに蹴ってくれと言いました」

 そう語った吉田の言葉通り、ニアポスト目がけて走った吉田にDF2人がつられた。結果、ファーサイドをケアしていたDFコッスヌは1人で冨安と植田の2人を見なければならなくなった。そのコッスヌの背後を取り、うまく回り込んだのが植田だった。

 「自分の使命としては無失点に抑えることと、セットプレーでチャンスがあれば1点狙うことと思っていた。そこで良いボールが来たんで、ガク君に感謝です」

 記念すべき代表初ゴールは、得意とするヘディングだった。日本協会公式YouTubeチャンネル「JFATV」にアップされた映像を見ると、全体練習が終わった後に黙々とヘディングの個人練習をしている植田が登場する。努力は必ずしも結果に結びつくとは限らない。しかしながら、努力なしにあのヘディングは生まれない。

 しかも、キッカーは鹿島時代の同僚である柴崎。自分の特徴を知り尽くしている頼れる先輩だ。それを考えれば、生まれるべくして生まれた決勝ゴールだったのかもしれない。

 カメルーン戦とコートジボワール戦は、このように有意義な内容に終わった。だが、本来ならば同じ日程で、W杯カタール大会アジア2次予選のミャンマーとモンゴルとの試合が行われるはずだった。この2試合は新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、21年に延期されたのだ。

 図らずも行うことになったオランダでの代表戦を観戦して次のようなことを感じた。

 今回と同等レベルの試合が日常的にできるようになれば、日本代表の強化にどれほど資するだろう―。

 今回の日本代表は、いわゆる海外組だけで構成された。国内組は帰国後に待機措置が必要なことなどから招集されなかったからだ。日本代表は今や欧州でプレーする選手が中心となっている。それでも欧州で強化試合をすることで得られるものが多数あることが分かった。

 欧州は広い。そんなイメージを多くの人が持っているだろうが、移動は意外と簡単だ。例えば、今回試合を行ったオランダのユトレヒトからスペインのマドリードまでの距離は約1500キロ弱。これは札幌から福岡までとほぼ同じだ。

 時差や移動距離によるマイナス面がないということは、コンディションの良い状態で試合ができることを意味する。それは日本代表だけでなく対戦相手にもいえる。欧州には世界中の代表選手が集まっている。今回対戦したカメルーンやコートジボワールなどアフリカ各国の代表選手に加え、ブラジルやアルゼンチンを始めとする南米の有力選手は、ほぼ全てが欧州でプレーしている。

 このことを踏まえると、今回のように欧州を拠点に試合を組めばより質の高い戦いが期待できる。W杯本大会を見据え、日本代表を強化するためにはコンディションが整ったレベルの高いチームと、真剣に対戦しなければならないのだ。

 確かに日本での代表戦が組まれなければ、マイナス面もある。サポーターは当然試合を自国のスタジアムで観戦することを望み、スポンサーは広告効果を気にするだろう。ただ、2年前から欧州ネーションズリーグが始まったことで欧州各国代表のスケジュールはほぼ埋まっている。それゆえ、日本へ招待するのは困難になっている。

 南米やアフリカから代表を呼んでもコンディションが整わないチームは残念なことに多いのが現状。中には観光気分でやってくる選手もいる。日本代表の選手も中心となっている欧州組は常に時差に苦しめられることになる。ならば、国内組が欧州に行く方が良いのではないか。

 「われわれが強くなるためにはアウェーでコンディションの良い相手と戦える。そして、勝つという自信を得られる」

 コートジボワール戦の後、森保一監督はこう語っていた。まったくその通り。代表強化の軸足を欧州に移すことを真剣に考える時期に来ているのかも知れない。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。