政府の観光支援事業「Go Toトラベル」の対象に東京発着が追加された昨年10月に東京都心部にある15の主要シティーホテルの平均客室稼働率が23・1%、昨年11月は31・0%となり、追加前の昨年9月(14・6%)から大きく上昇していたことがホテル業界の内部資料で分かった。宿泊代金の最大で半額相当が割引になる効果が顕著に現れ、15ホテル全ての稼働率が10、11両月にそれぞれ上がった。

 だが、新型コロナウイルス感染拡大を背景に昨年12月28日から「Go Toトラベル」が全国で一時停止となり、東京と埼玉、千葉、神奈川の首都圏一都三県の緊急事態宣言発令によってホテル幹部は「再び奈落の底に突き落とされた」と悲鳴を上げる。(共同通信=大塚圭一郎)

 ▽開始前の京王プラザ稼働率は7%

 筆者が入手した内部資料は、ホテルの稼働率や1室当たりの客室単価、宿泊売上高、宿泊者のうち外国人や団体の比率をまとめている。この資料によると、新型コロナ感染者数が多かったのを受けて東京発着が「Go Toトラベル」に含まれていなかった昨年9月の15ホテルの平均稼働率は前年同月の76・5%から61・9ポイント低下した。最も低い京王プラザホテル(新宿区)は7・0%に落ち込み、最高だったパレスホテル東京(千代田区)も27・2%にとどまった。

 京王プラザホテルは2019年9月の外国人比率が79・7%と15ホテルで最多で、新型コロナによる入国制限で外国人宿泊者が急減したのが大きな要因。昨年9月の外国人比率はわずか1・2%だった。また、客室稼働率は販売可能な客室数のうち何%が売れたのかを集計しているため、1455室とホテルニューオータニ(1479室)に次いで多い京王プラザホテルは「今回の新型コロナのように需要が急減すると、どうしても客室を埋めるのが難しくなる」(関係者)のも不利に働いた。

 昨年9月は京王プラザホテルを含めて4ホテルの稼働率が一桁にとどまり、ホテルグランドパレス(千代田区)が7・7%、ハイアットリージェンシー東京(新宿区)は8・2%、第一ホテル東京(港区)は9・4%だった。ホテルグランドパレスは日本武道館や東京ドームに近いためコンサートやスポーツ関連行事の参加者や観客の宿泊が多く、新型コロナでそうしたイベントが相次いで中止になったのが足を引っ張ったようだ。

 ▽宿泊が前年を上回るホテルも

 「Go Toトラベル」に東京発着が加わった昨年10月と翌11月は回復が続き、昨年11月で最高だったホテル椿山荘東京(文京区)は67・2%となり、前年同月(73・7%)との差が6・5ポイントに縮まった。昨年9月は22・6%と前年同月の60・7%を大きく下回っていたが、昨年10月は54・2%に上昇して前年同月の23・6ポイント差まで詰めていた。

 さらに、ホテル椿山荘東京の昨年11月の宿泊売り上げは2億82万3900円となり、前年同月より12・5%増えた。つまり宿泊売上高では新型コロナ禍前の水準を超えたのだ。15ホテル全体の宿泊売上高は27億4100万8237円と62・6%減っており、前年超えは15ホテルで唯一だ。

 ホテル業界関係者はこの要因を「新型コロナの感染防止のため旅行会社などが大人数での団体旅行を催行しにくくなり、代わりに予約している個人客は団体客と比べて宿泊料金の単価が高いためだ」と打ち明ける。確かに昨年11月の15ホテルの全体に占める団体の割合は5・6%と、前年同月の27・9%から大幅に下がった。

 ホテル椿山荘東京の1室当たりの客室単価は3万7309円と、前年同月より7078円上昇した。団体の割合は1・2%と、前年同月の35・9%より格段に低く、単価がより高い個人客を取り込んだのが売り上げ増に寄与したのがうかがえる。

 昨年11月にはほかにホテルニューオータニの客室単価も2万8970円と2186円上がり、ザ・プリンスパークタワー東京(港区)も3万1599円と401円上昇した。ホテルニューオータニは団体の割合が前年同月の30・6%から8・6%へ、ザ・プリンスパークタワー東京も24・7%から7・9%へそれぞれ低下した。

 昨年11月に稼働率が最も低かったのはホテルグランドパレスの17・9%。ただ、一桁だった昨年9月、京王プラザホテルと並んで最も低かった昨年10月の13・1%からは上昇した。京王プラザホテルの昨年11月の稼働率は18・5%、ハイアットリージェンシー東京は19・3%で、ホテルグランドパレスを含めた3ホテルが2割に届かなかった。

 ▽「御三家」も大きく改善

 昨年11月は「御三家」と呼ばれる名門ホテルでも「Go Toトラベル」の押し上げ効果が目立った。帝国ホテル東京(千代田区)の稼働率は39・3%、オークラ東京(港区)は32・3%、客室単価が前年を上回ったホテルニューオータニは30・2%となり、昨年9月のそれぞれ13・4%、15・7%、17・6%から大きく改善。

 これらのホテルからは「特に週末にはレジャー客による比較的高額な1泊8万〜10万円の客室や宿泊プランの利用が好調だった。この価格帯だと『Go Toトラベル』のメリットが大きいからだ」という声が聞かれた。中には「新型コロナ禍でずっと自宅に巣ごもりをしていると飽きるので、『たまにはぜいたくをしよう』と泊まりに来た」と話した東京都在住の母親と娘の宿泊者もいたという。

 帝国ホテルの1室当たりの客室単価は3万8897円と前年同月を1582円下回り、オークラ東京は7898円下がったものの5万3331円に達した。オークラ東京は旧本館を建て替えて19年9月に開業したのが高い客室単価に寄与しており、ホテル幹部は「建て替え後のオークラに泊まりたいと思っていた顧客がかなりおり、今年10月以降は『Go Toトラベル』を利用して宿泊する動きが出た」と指摘する。

 オークラ東京を抑えて昨年11月の1室当たり客室単価が最高額だったのは、建て替えて12年に全面開業したパレスホテル東京(千代田区)の5万9387円だった。

 ▽「Go Toトラベル」一時停止で暗転

 新型コロナ禍による旅行者数低迷が直撃し、昨年9月まで「Go Toトラベル」の恩恵を受けられなかった東京のホテル。昨年10月にようやく対象に加わった「Go Toトラベル」が干天の慈雨となったのが内部資料で明らかになった。

 しかし、昨年12月28日から「Go Toトラベル」の全国一時停止と、首都圏一都三県の緊急事態宣言発令によって再び暗転した。「Go Toトラベル」に対しては新型コロナの感染拡大の一因になったとの批判もあるが、各ホテルは感染防止策のために入館者に対する体温測定、手指の消毒の徹底、レストランの収容人数の削減といった施策で細心の注意を払ってきたのは確かだ。

 大手ホテル幹部は「『Go Toトラベル』に対する批判があるのは承知しているが、私たちホテル業界が事業を続けるのに大きな効果があり、そのおかげで雇用も守ってこられた。一時停止で客室稼働率は再び下がっており、2020年度の決算は多額の赤字は避けられない」と厳しい事情を吐露する。赤羽一嘉国土交通相は今月7日、11日までとしていた「Go Toトラベル」の停止期間を2月7日まで延長すると発表した。政府は新型コロナ感染者数を抑えながらホテル業界を含めた旅行関連業界の業績悪化をできるだけ食い止めるため、どのように針路を取るのか難しい判断を迫られている。