次世代の再生可能エネルギーとして期待される洋上風力発電を巡り、関係者が「国内有数の適地」と評価する秋田県沖に注目が集まっている。国が整備促進区域に指定した3海域に対し、2021年1月までに計10事業体が参入を表明。公募締め切りの5月まで、さらに増える可能性もあり、激戦は必至だ。人口に占める65歳以上の比率が全国トップで、人口減少や産業の先細りに直面する秋田県にとっては明るい話題。地元自治体や経済界は「千載一遇のチャンス」(県幹部)とみて洋上風力を起爆剤とした経済振興、雇用創出をもくろむ。一方で住民からは景観悪化や騒音を不安視する声も上がっている。 (共同通信=安藤和也、兵平尚大)

 ▽適した秋田沖

 洋上風力発電は、直径160メートル以上にもなる巨大風車を海上に設置し、海底ケーブルで陸上へ電気を送る。土台を海底に固定する「着床式」と、海上に浮かべる「浮体式」がある。コスト面では着床式が優位とされ、海外の導入実績や商用化でも先行している。

 着床式の設置は、水深50メートル以内の海底が適している。深海が多い日本列島周辺では珍しく、秋田沖は沿岸に水深30メートルまでの海底が広がっている。

 沖合では洋上風力に適した毎秒7メートル以上の風が年間を通じて吹いており、安定した風況も多くの事業者を引きつける。

 地元の人々にはおなじみだった地形と気候が、思いがけず新たなエネルギー資源となった。秋田犬、温泉、日本酒、竿灯(かんとう)まつり、大曲の花火―などと並び、沖合に立ち並ぶ巨大風車が秋田の新名所となる日も近いかもしれない。

 ▽欧州で導入進む

 洋上風力発電は欧州で導入が進んでおり、世界の発電能力の約75%を占める。遠浅の海域が広い英国、ドイツ、デンマークなどの海に着床式の施設が多く設置されている。19年に英国の洋上風力発電は年間で1千万キロワットに迫ったが、日本は2万キロワット程度と後れを取っている。

 日本では、事業者が長期的な発電計画を立てて投資資金を集めやすくするため、2019年に洋上風力発電普及法を施行。事業者に最大で30年間、海域の利用を認める促進区域の指定を進めている。洋上風力による発電能力を40年に原発45基分に相当する最大4500万キロワットとする目標も掲げた。

 現在の促進区域は秋田沖3海域のほか、長崎県五島市沖、千葉県銚子市沖の全国5海域だ。

 秋田の3海域は能代市・三種町・男鹿市沖と由利本荘市沖北側、由利本荘市沖南側。事業者の公募は20年11月に始まった。ほかに八峰町・能代市沖、潟上市・秋田市沖の2海域でも指定に向けた準備が進んでおり、県は早期指定を国に要望している。

 ▽争奪戦

 秋田沖での参入を目指す各社は複数企業による事業体を作り、地元期待の「一大プロジェクト」実現を目指す。大企業も多く名を連ね、洋上風力の世界最大手オーステッド(デンマーク)は日本風力開発(東京)など3社での参入を表明した。

 レノバ(東京)や東北電力(仙台市)など4社でつくる「秋田由利本荘洋上風力合同会社」の担当者は「風況も良く自治体も導入に積極的」と秋田沖を高く評価する。地元経済界などから期待の声も多く寄せられているといい「地域の未来に貢献できる事業計画をまとめ公募に臨みたい」と意気込む。

 ▽1兆円に迫る事業費

 県も洋上風力を後押しする。13年以降、関係団体を巻き込みながら先進事例の研究や技術者の育成支援などに着手。14年度には洋上風力に適した「候補海域」を独自に設けて国や事業者にアピール。県民にも広報紙を通じて事業への理解を求めてきた。

 佐竹敬久知事は、政府が50年までの温室効果ガス排出実質ゼロを打ち出したことについて「政府目標は秋田のためにあるようなもの」と強調する。温室効果ガスを吸収する森林、海にも恵まれており「投資が進めば雇用も生まれる」と期待を込める。

 県が20年6月にまとめた試算によると、促進区域に指定された3海域に加えて、準備中の2海域でも発電施設を建設すれば、総事業費は9469億円と1兆円に迫る。うち県内受注額は2434億円を見込む。担当者は、関連産業や関係者の宿泊、観光なども入れれば「経済効果はさらに広がる」と胸を高鳴らせる。

 県は21年度に新エネルギー産業の推進態勢を強化する方針だ。日本国内の大資本や世界大手がしのぎを削る中、地元経済にもたらされる果実をいかに膨らませるかが目下の課題となっている。

 ▽深刻な人口流出

 洋上風力に期待する背景には、厳しい県内事情がある。17年3月に100万人だった県人口は21年1月に95万人を割った。全国で最も高い人口減少率の背景には、転出が転入を上回る「社会減」があり、20年は3千人近くとなった。

 県政への満足度調査では「若者に魅力的な働く場の確保」で厳しい評価が続く。由利本荘市商工会の村岡淑郎会長は「洋上風力を世界に発信する場所になれば人口も増える」と、地域活性化に期待を寄せる。

 ▽景観、騒音に懸念

 一方で、陸上の風力発電施設が300基以上も稼働している秋田県内では、景観や騒音への懸念から、風力発電への反対運動も起きている。住民団体の佐々木憲雄さん(74)は「騒音や低周波音による健康被害の声が相次いでいる」と主張。「故郷の風景も台無しだ。もうこれ以上いらない」と訴える。

 県担当者は「反対する団体からは説明会に来てほしいとも言われている。出向いて丁寧に説明したい」と話す。秋田由利本荘洋上風力合同会社の須山勇代表も「健康被害が出るような事業だったらやめる」と言い切る。

 洋上風力の旗を振る佐竹知事は「今のまま温暖化が進むと景観はもっと悪くなる」と指摘。「50年、100年のスパンで考えた時に何が一番の選択か考えるべきだ」と粘り強く訴える姿勢だ。