大阪府と大阪市が大阪湾の埋め立て島で「世界最高水準」とうたい誘致を進めるカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の構想が、新型コロナウイルスの感染拡大で難しいかじ取りを余儀なくされている。ビジネスモデルの変容も予想され、アフターコロナの需要への対応が鍵となりそうだ。一度は同時開催で「相乗効果」を狙った2025年大阪・関西万博との兼ね合いや、インバウンド(訪日外国人客)が期待される一方で日本と摩擦を強める中国の外交政策など注意が必要な点も浮上する。現状を追った。(共同通信=三村泰揮)

 ▽規模縮小に向けての動き

 「MICE(マイス)を取り巻く環境がコロナで変化し、今後のビジネスモデルの見極めが必要。国の(最低)基準で開業し、常に最先端のサービスを提供する成長型IRを目指す」。3月の大阪市議会で、MICE施設(大型展示場や会議室)の開業時における施設面積を当初の方針から縮小した理由を問われた松井一郎市長は、こう答弁した。

 IRはカジノやショッピングモール、MICE施設が一体となった複合観光施設。米ラスベガスやシンガポール、マカオが本場で、18年7月にカジノを解禁するIR整備法が成立したことで、国は候補地から最大3カ所の整備地域を選ぶ予定だ。大阪府市に加え横浜市、和歌山県、長崎県が誘致を進めている。

 誘致を目指す自治体は事業概要を記した実施方針を作成する必要があり、府市の共同設置部署「IR推進局」は19年11月に案を発表した。しかしコロナ禍を受けて今年2月に修正し、MICE施設のうち展示施設の面積を「10万平方メートル以上」から「2万平方メートル以上」に減らした。

 イベント誘致の競争相手と想定するアジア各国は10万〜40万平方メートルの施設を有するが、構想によると、すぐそばにある関西最大の展示施設「インテックス大阪」の約7万平方メートルよりも小さくなる見込みだ。府市は開業後に面積を増やす計画だが、ビジネスモデルの状況次第で見直すとしている。

 ▽コロナ後の見極めが大事

 運営事業者の公募には、米カジノ大手MGMリゾーツ・インターナショナルとオリックスの共同事業体1組のみが応募した。府市は追加公募しているが、コロナ禍で集客もままならなくなっているIR業界から手を上げる事業者が出るかは不透明だ。

 新型コロナの感染拡大は、国際的な展示会や大規模な会議の開催を困難にさせた。一方で、オンライン開催や、オンラインと会場参加を組み合わせる「ハイブリッド方式」開催が広まっている。府市幹部は「オンライン会議は移動費などもかからず、参加も気軽だ。人々が新しい生活様式を経験しており、アフターコロナでのMICEの需要動向が見通せない」と苦しい胸の内を明かす。

 一方で、事業の課題などを有識者が議論する大阪のIR推進会議では、「対面できないと伝わらない部分もあり、オンラインの不便さも知られた。リアルへの揺り戻しもあるのでは」との強気な見方も挙がっている。

 IRに詳しい三井住友トラスト基礎研究所の大谷咲太主任研究員は「小規模な国際会議や展示会はオンラインに取って代わる可能性があるが、ロビー活動が伴う大規模なものの需要は変わらないだろう」と指摘する。

 その上で「その誘致には大規模な施設が好ましいが、大阪IRは比較的小さいという弱点を抱える。それをどう克服するかが重要だ」と話した。

 ▽経営悪化、鉄道延伸の体力残るか

 インフラ整備にも暗雲が立ちこめる。IRの開業予定地である「夢洲(ゆめしま)」は大阪湾に浮かぶ三つの人工島の一つ。北側にある「舞洲(まいしま)」とは夢舞大橋で、南側の「咲洲(さきしま)」とは夢咲トンネルでつながっている。先に挙げたインテックス大阪がある島だ。計画当初より夢洲へのアクセスの悪さが指摘されており、集客のためにはインフラ整備が欠かせない。

 夢洲には「夢洲駅(仮称)」が置かれる。大阪メトロは25年の万博も見据え、開催前の同年春までの夢咲トンネル経由での夢洲駅までの鉄道延伸を目指している。他にも鉄道各社が線路の敷設を検討するが、コロナ禍の直撃を受けて経営が悪化しており、整備計画に影響が出かねない状況だ。

 近畿日本鉄道は、大阪メトロの中央線と乗り入れる形で夢洲駅と奈良駅を直通で結ぶ新型車両の開発・運行を万博開催までに目指す。しかし、業績悪化で19年度に7200人だった社員数を600人減らす計画を発表。万博前の目標は維持するが、担当者は「コロナやIRの動向を考慮し見直す可能性もある」とする。

 京阪電気鉄道は、大阪メトロとの接続方式を想定する。またJR西日本はUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)がある桜島駅から延ばすルートの整備を検討しているが、具体的な計画はこれからだ。両社とも長引くコロナ禍の打撃を受けており、延伸事業に取り組む体力が残るか懸念する声も上がる。

 ▽インバウンドの行方

 IR施設の延べ床面積のうちカジノが占める割合は3%に制限されるが、収入面はカジノが軸となり、その利用の中心はインバウンドが担う見通しだ。

 しかし今後も注意が必要な感染症や自然災害だけでなく、政治・外交的なリスクも浮上する。

 富裕層などの旅行客が期待される中国は昨年8月、海外カジノが自国民の安全と財産を脅かしているとして、カジノがある海外都市への渡航を制限するブラックリスト制度を明かした。リストは公開されていないが、同国が政治利用する恐れが指摘されている。

 立憲民主党の江田憲司衆院議員は先月に政府への質問主意書で、外交問題が生じた際に日本がリストに加えられる懸念を示した。中国は17年、米軍の「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の韓国への配備を巡って同国への渡航を制限した。

 尖閣諸島や南シナ海での航行の自由などを巡り、中国への警戒が強まる日本で、同様のリスクを指摘する声が大きくなっている。しかし、政府は「ブラックリスト制度の具体的な内容は公表されておらず、答えを差し控えたい」と言及を避けている。

 松井市長、吉村洋文知事という「大阪維新の会」のツートップがかじ取りをする府市は、観光業を経済成長の柱と位置づけ、IR構想も含む施策を推し進めてきた。だが目下、コロナの直撃でそれがあだとなった形だ。府市が立ち上げた公益財団法人の大阪観光局は「現在は反転攻勢の準備時期」として今後もインバウンドに期待するが、外交面でのリスクにも注視する必要がありそうだ。

 ▽万博との足並みは?

 開業時期について府市は当初、25年の万博との「相乗効果を狙う」として同時期の開業を目指していた。だがMGM側からの要望もありスケジュールが遅れ、現在は「20年代後半」と繰り下げた。具体的な開業時期は未定で、万博閉幕後になることは確実だ。

 万博開催の熱気が途切れた後にIRが開業する事態に対し、経済界からは対応を求める声が上がる。関西経済同好会の幹部はIR推進会議で「世界的に注目させるようなコンテンツの準備など、IRが開業するまでに空白期間をうまく使わないといけない」と府市に注文をつけた。米ラスベガスの家電IT見本市「CES」など、最初は小さかったが徐々に世界的なイベントになった事例を紹介し「開業前から仕込んでおくのが必要だ」と述べた。

 また同時期の開業ができなくなったことで、万博開催とIRの整備期間が重なる可能性が高い。どのように両立するかは定まっていないが、関西経済界は「国家プロジェクトである万博ファースト」との立場を示しており、関西経済連合会の松本正義会長は昨年末の記者会見で「万博の隣で工事なんてやってもらっては困る」と念を押した。府市は万博の来場者が多い時期や時間帯を避ける検討もしているが、調整がうまくいかないとIR開業がさらに遅れかねない。

 日本政策投資銀行などが昨夏、アジアや欧米の在住者を対象に実施した意識調査によると、コロナ終息後に観光旅行したい国のトップは日本だった。吉村知事や松井市長はこのデータを挙げてインバウンド復活を目指すが、長期化するコロナ禍でインバウンドを受け入れるはずのIR計画は大きく狂わされている。府市が目指す「国際観光拠点の核 経済成長のエンジン」になれるかどうか。長く苦しい道のりが待ち受ける。