児童生徒に1人1台端末を配備する政府の「GIGAスクール構想」で、先進国の中で遅れていた日本の教育現場の端末整備は今や「世界トップクラス」(米グーグル幹部)に改善した。授業内容や教員の働き方が大きく変わる中、端末やソフトウエアを提供しているアップル、グーグルの両社幹部に情報通信技術(ICT)を使った教育の在り方を聞き、学校の授業の様子をのぞいてみた。(共同通信=吉無田修)

 ▽「小さい頃から親しむと違ってくる」【アップルの教育事業責任者、スーザン・プレスコット氏】

 ―アップルが考える教育の柱は何ですか。
 「一つ目は創造性です。プロジェクトベースの学びによって実現します。二つ目は協働。複数の生徒がアイデアを出し合い、複雑な問題の解決に当たります。三つ目は、生徒一人一人に個別化された学びです。四つ目は、オンラインというバーチャルな学びや、他の国の人とつながることです」
 ―日本の学校に275万台以上導入されたタブレット端末、iPad(アイパッド)の特徴は。
 「テクノロジーに慣れていない学習者にも、高度な技術を駆使できる方のどちらにも向いていて、創造性に満ちた学びを実現できます。生徒は学校の外に出かけて録画や録音機能を使って記録を作成しています。プログラミング教育にも対応しています」
 ―プログラミング教育の必要性や課題は何ですか。
 「プログラミングは、21世紀の必須の言語として学ぶことが重要です。問題解決や協働といった力を身につけられます。ハードルが高いのは教員です。当社は無償カリキュラムを用意しており、教員らも学べるようにしています」
 ―日本はものづくりが得意です。一方でソフトウエア分野は世界的なIT企業が育っていません。
 「(iPadを使った教育で)小さい頃からソフトに慣れ親しむと本当に違ってきます。(民泊仲介サイト大手の)米エアビーアンドビーといった新しい事業のアイデアも浮かんできます。ソフトの力を通じて世界を変える機会も増えるでしょう」

 ▽「活用して初めて変化が起きる」【グーグルの教育事業でアジア太平洋地域のマーケティング責任者、スチュアート・ミラー氏】

 ―グーグルが教育事業に力を入れる理由は。
 「誰もが素晴らしい学習体験を享受すべきであると考え、教育と学習の変革を支援するツールを開発しました。一人一人に最適化された環境を提供できるし、共同作業を通じて創造性も高められます」
 ―政府の「GIGAスクール構想」で、自治体が調達した端末の基本ソフト(OS)別のシェアは、グーグルの「クロームOS」が首位でした。
 「(教育機関は)ITの分析・表現力が高い人ばかりではありません。教員の不安に応えるため、無償研修を手厚く提供しました。海外での成功事例を伝えたことも好評でした」
 ―グーグルの収益源は広告だが、教育事業は。
 「教育向けツールでは広告を表示しません。無償版のほか、有償版があります。端末の『クロームブック』はメーカーから一定のライセンス収入を得ています」
 ―日本の課題は何でしょうか。
 「教育現場での端末普及は、日本が世界首位になったと言ってもいい。ただ、経験は浅いです。端末があるからと言って何かが変わるわけではなく、活用して初めて変化が起きます。学校の先生による端末やツールの活用アイデアを公開し、共有できるようにしました」

 ▽採点時間が5分の1に短縮

 東京都墨田区立錦糸中学校で社会科を教える古賀隆一郎教員は「端末を使う授業は生徒の意欲が高まる。自分で調べたり、他の生徒と対話したりして学びも深まる」と効果を語った。
 筆者が今年3月に見学した地理の授業では、生徒が南米の地域経済などの特色を紹介するニュース番組をアイパッドで作っていた。キャスター役の生徒は原稿を文書作成ソフトで表示しながら読み上げ、他の生徒が別の端末のカメラで録画する。教員が一方的に話をする授業ではなく、生徒が共同作業で課題に取り組んでいた。
 教員側の負担も軽くなった。千葉県の船橋市立飯山満中学校では、グーグルのアンケート作成や分析サービスを定期試験に活用。試験の採点時間が「5分の1程度に短縮し、早く帰宅できる」(理科教員)。生徒に間違えた問題だけ個別に解説などを示すことができ、試験後の授業で全問を解説しなくて済むようになった。
 グーグルの端末が配備された高知市立浦戸小学校の藤田由紀子校長は「端末を使えないと、今後は学校教育をやっていけない」と話す。20代の若手教員が講師役となって研修会を毎週開き、授業での活用方法を共有している。
 文部科学省は端末1台当たり最大4万5千円を補助。昨年7月末時点で96%の自治体で整備が完了した。端末の基本ソフト(OS)別のシェアは台数ベースでみると、グーグルが4割と最大で、マイクロソフト、アップルが各3割だった。日本を参考にしたとみられる端末の整備政策はシンガポールや韓国などにも波及している。

 ▽万能だから難しい

 グーグルは今年4月、教育関係者向けに「1人1台の環境と、これからの教育」とのテーマで、日本の専門家を招きオンラインセミナーを開いた。東京学芸大の高橋純教授(教育の情報化・情報教育)は「生徒それぞれが際立ち(授業が)楽しくなったとの(前向きな)アンケート結果が出ている」と評価した。
 東京大の越塚登教授(コンピューターサイエンス)は、端末について「新しい万能文房具だ。どんなことにも使用できるから、逆に難しい」と述べ、何をしたいかを考えることが大事だと指摘した。

 東京大の山内祐平教授(教育工学・学習環境のデザイン)は「いろいろなものをコピーして加工すれば、それなりの発表になってしまう。学習をどれだけ深められるかがポイントだ」と強調した。生徒の話し合い内容をソフトで共有し、教員が適切に介入することで議論の質が高まるとも説明した。

 ▽取材を終えて

 ファミコン世代の私にとって、小学生のころからパソコンは憧れだった。クリスマスにサンタさんに手紙を書いて頼んだが、高価すぎたのか、翌朝、届けられたプレゼントは本だった。進学した山口県の中学校のコンピューター室には、アップルコンピューター(現アップル)のデスクトップ「マッキントッシュ」があった。マウスを使って絵を描いたり、ファイルを捨てる際に「ゴミ箱」までドラッグしたりしたことを鮮明に覚えている。
 今回の取材で、生徒たちが各自に配備された端末を笑顔で使っている様子を見て、うらやましく思った。複数の学校関係者が「生徒の方が使いこなすのが早いので、分からないことは逆に聞いている」と話していた。
 今後、型通りの仕事は機械に任せる流れが加速するだろう。人間に求められるのは発想力とされる。将来を担う子どもたちの可能性を広げられるように、「万能文房具」の端末をフルに活用できる環境を整えるべきだろう。ファミコン世代の大人たちも子どもたちに負けないように学び直す必要がありそうだ。