9月23日に武雄温泉(佐賀県武雄市)―長崎で部分開業する西九州新幹線の一番列車の指定席がわずか10秒で完売し、関心の高さを示した。だが、新幹線区間に乗るのはわずか最短23分。真価を発揮するのは、いつになるのか見通せない博多駅(福岡市)までの全線開業後だ。当初目指していたフリーゲージトレイン(軌間可変電車、FGT)の導入が「非常に困難」と主張する国に対し、佐賀県は最高時速200キロのFGT導入を提案した。果たして西九州新幹線の全線開業の「近道」になり得るのだろうか。(共同通信=大塚圭一郎)

  【フリーゲージトレイン】台車の車軸に付いている車輪の幅を変えることで、線路幅が異なる区間を直通運転できる電車。軌間可変電車の英語の「Free Gauge Train」に由来し、略して「FGT」とも呼ばれる。欧州で既に実用化されている。日本では西九州新幹線と、北陸新幹線の未着工区間の敦賀(福井県敦賀市)―新大阪(大阪市)向けに標準軌(線路幅1435ミリ)のフル規格の区間と、JR在来線の狭軌(線路幅1067ミリ)を直通運転できるFGTの開発を目指していた。新幹線と在来線を直通できるFGTの開発は取りやめたものの、関西私鉄大手の近畿日本鉄道は京都―吉野(奈良県吉野町)の直通特急をFGTで運転することを目指している。

 ▽「なかなか理解できない」と佐賀県

 「FGTについてはいろいろと問題もあるので選択肢としてこれ以上議論するのは難しいのかなと思っており、ご理解をいただければと思う」。国土交通省鉄道局幹線鉄道課の川島雄一郎課長は今年2月10日、佐賀県とのオンライン会談で切り出した。

 佐賀県の山下宗人地域交流部長は「なかなか理解ということにはならない」と反論し、FGTを選択肢から外すのを認めなかった。

 佐賀、長崎両県知事やJR九州社長、国土交通省鉄道局長ら関係6者は2016年3月、西九州新幹線をFGTで開業することで合意した。ところがFGTの導入が見送られたため、今年9月23日に部分開業する武雄温泉―長崎は標準軌だけを走れる新幹線車両N700S「かもめ」で運行し、博多―武雄温泉は狭軌の在来線特急「リレーかもめ」を走らせる。武雄温泉駅をまたいで移動する場合、同じプラットホームに止まる両列車を乗り換える。

 新鳥栖(佐賀県鳥栖市)―武雄温泉を「フル規格で整備するのが最適との思惑がある」(関係者)とされる国交省は、事態打開に向けて「幅広い協議」と銘打った佐賀県との会談を2020年6月に開始。今年2月で6回目となったが、議論は平行線をたどっている。

 ▽総額500億円投じてストップ

 国による新幹線とFGTの本格的な技術開発は1997年度に始まり、これまでに3種類の試験車両を開発して走行試験を進めてきた。第2次試験車両は2009年12月に目標だった最高時速270キロを九州新幹線で達成した。

 しかし、2014年に登場した第3次試験車両を使った耐久走行試験で、累計約3万キロ走った2014年11月に台車部分にある車軸の摩耗を確認。2015年12月の軌間可変技術評価委員会で「不具合は高速域(時速260キロ)での耐久走行により新たに確認された事象に起因するもの」と評価された。

 国は2018年7月、FGTの導入を断念すると表明。開発に約20年をかけ、総額約500億円投じた新幹線と在来線を直通できるFGTの開発はストップした。

 ▽九州新幹線に乗り入れられない?

 だが、車軸の摩耗が確認されたのは時速260キロでの高速域だったことに佐賀県は着目。「最高時速200キロで走るFGT」の可能性を突き付け、国交省は今年2月の会談で回答となる資料を提示した。

 この資料には不可解な点がある。博多―新鳥栖は九州新幹線の線路を走る計画にもかかわらず、資料ではFGTの場合は博多―武雄温泉の在来線を経由すると明記されている。

 国交省の川島氏は背景を「(博多―新鳥栖は)最高時速260キロで鹿児島ルートの新幹線が走っているという状況になっており、そこに最高速度の違うFGTが乗り入れることでダイヤ調整が非常に難しくなると聞いている」と説明した。

 佐賀県の山下氏は「実は博多―新鳥栖間は26・2キロを12分で走っている」と食い下がり、FGTに賛成する人から時速200キロでも運行できるとの手紙をもらったのを踏まえて現地で確認した結果を紹介した。「新鳥栖に停車する列車で時速170キロから180キロ、新鳥栖を通過する列車が1時間に1本ぐらいあるが、それでも時速220キロから230キロしか出ていない」

 国交省の資料は、FGTを在来線経由で博多駅に乗り入れさせる場合に「博多駅での新幹線と在来線の乗り換えにおいては、階段またはエスカレーターなどを3〜4回上り下りする必要がある」とも指摘。「一般的に幹線鉄道間の乗り換えは25〜30分程度の心理的抵抗感に相当するとされている」とマイナスイメージを訴えるのに必死だ。

 しかしながら、ダイヤを調整してFGTを九州新幹線の博多―新鳥栖に乗り入れさせることができれば、博多駅の同じホームで山陽新幹線と乗り換えられる可能性も生まれる。

 ▽山陽新幹線直通は「前提」?

 一方、国交省の川島氏は最高時速200キロのFGTの場合、最高時速300キロで走る列車が大部分を占める山陽新幹線に「乗り入れはできない」と問題視した。確かに与党の検討委員会は2018年7月の中間取りまとめでFGTについて「高速化が進む山陽新幹線への乗り入れが困難であることから、新大阪までの直通を前提とする西九州ルートへの導入は断念せざるを得ない」と切り捨てた。

 ところが、山陽新幹線の新大阪駅までの直通は6者合意に盛り込まれていない。つまり全ての関係者にとっての「前提」ではなく、FGTを却下する理由にはならない。

 さらに山陽新幹線に直通運転するとしても、新大阪と長崎の間で停車駅の少ない優等列車を走らせるには課題がある。山陽区間の優等列車には九州新幹線直通の「みずほ」のように8両編成の輸送能力は必要だが、西九州新幹線のN700S「かもめ」は6両編成(全長約150メートル)しかない。増結用に1編成当たり2両の中間車生産や、いずれもホーム長が160メートルしかない武雄温泉―長崎の計5駅の延伸工事が必要となり、多額の費用がかかる。

 山陽新幹線のダイヤも混雑しているため、新大阪―長崎の列車をどれくらい運転できるのかも未知数だ。西九州新幹線のFGTを博多駅の新幹線ホームに乗り入れさせ、山陽新幹線の「のぞみ」などと乗り換えられるようにするほうが効率的とも考えられる。

 ▽「70年前の技術か、技術革新か」

 西九州新幹線に最高時速200キロのFGTを導入するには、あくまでも最優先すべき安全性が万全なのを改めて検証する必要がある。武雄温泉―長崎の所要時間は最高時速260キロで運行するN700Sより長くなる。車両製造コストも、メンテナンス費用も通常の新幹線車両より高い欠点があるのも事実だ。

 一方、新鳥栖―武雄温泉のフル規格建設に固執した場合、たとえ佐賀県が同意したとしてもその時点から環境影響評価の手続きや建設などで開業まで12年程度を要する。このため、全線開業は最短でも2030年代半ばだ。

 以前お目にかかった佐賀県幹部は、30年代半ばにフル規格で全線開業すると仮定すれば1964年の東海道新幹線開通から「70年たった技術になる」とし、「FGTという技術革新に挑み、改良して外国にも売り込めるようにすればいいのに」とつぶやいた。FGT技術が進化すれば新幹線を要望する声がある山陰や四国、東九州にも福音となり得る。西九州新幹線の全線開業だけではなく、日本が技術立国として一段と輝くのに「近道」となり得る選択肢として再考してもいいのではないだろうか。

 ※「鉄道なにコレ!?」とは:鉄道と旅行が好きで、鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」の執筆者でもある筆者が、鉄道に関して「なにコレ!?」と驚いた体験や、意外に思われそうな話題をご紹介する連載。2019年8月に始まり、ほぼ月に1回お届けしています。ぜひご愛読ください!

筆者プロフィール: https://www.47news.jp/47reporters/author-detail?authors=373

第32回はこちら: https://nordot.app/923093219299540992?c=39546741839462401

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