スタートアップ(新興企業)への融資で成長してきた米シリコンバレー銀行(SVB)が10日、経営破綻した。債券運用の失敗による巨額損失を8日に発表して信用不安が顧客の起業家や投資家を駆け巡り、資産規模で全米16位の銀行がわずか2日で行き詰まり、世界の頭脳が集まる米西海岸に激震が走った。破綻劇に端を発した市場の疑心暗鬼は欧州に飛び火。波乱の1週間を追った。(共同通信=松尾聡志)

 ▽米新興IT、ヘルスケア企業の半分に融資
 SVBは1983年に創業。米西部カリフォルニア州サンタクララに本社を置く。半導体大手インテルをはじめ高度な技術の拠点が集積する都市だ。SVBは新たな事業やサービスを生み出し続けるシリコンバレーで「経済の中核を担っていた」と、新興企業の事情に詳しい米投資会社ペガサス・テック・ベンチャーズのアニス・ウッザマン最高経営責任者(CEO)は指摘する。

 米CNNによると、SVBはITやヘルスケアを手がける米新興企業のほぼ半分に融資していた。そこまでの存在感を発揮できたのは、SVBが持つさまざまな「顔」に理由がある。

 まずコンサルティング会社のようなマッチングの役割だ。アイデアや夢を持ってシリコンバレーにやってくる起業家を他の起業家や投資家、弁護士、会計士らとつなぐ。繊維くずの再生を手がける新興企業リファイバードのサリカ・バジャジCEOは、米ブルームバーグ通信に「誰もがSVBと取引した方がいいと言う。そうしないとみんなから浮いてしまう」と話した。

 SVBは「ベンチャーデット」と呼ばれる融資手法の先駆者としても知られた。新興企業の経営陣の顔ぶれや事業性、市場性を評価し、きちんと成長して次のステージに進めるかどうかを重視して融資実行の判断を行う。不動産や売掛金、在庫といった担保を重視する一般的な融資とは考え方が大きく異なり、ビジネスや技術の目利きが問われるのが特徴だ。

 ウッザマン氏によると、SVBは投資家側の事情にも精通していた。新興企業への投資を手がけるベンチャーキャピタルは出資者の都合で資金調達が予定より遅れることがあるが、そういった場合でも投資機会を逃すことがないよう、機動的に融資していた。

 ▽パニック広がり公的管理下に
 新型コロナウイルス禍で、米連邦準備制度理事会(FRB)をはじめ世界各国の中央銀行は大量に国債を買い入れて金利を押し下げる金融緩和に走った。超低金利のマネーがあふれ、ベンチャーキャピタルを通じて成長への期待が高い新興企業に流れ込んだ。手元資金が厚くなった新興企業が余剰分をSVBに預けた結果、SVBの預金残高は2021年に86%増加して1890億㌦(25兆円超)になり、2022年3月末には1980億㌦とピークに達した。SVBは満期まで保有するのを前提とした米国債や住宅ローン担保証券(MBS)を中心に預金を振り向け、運用益を稼ごうとした。

 ところがFRBが歴史的な物価高騰を抑えるため2022年3月に政策金利の引き上げを開始したことで暗転した。国債は金利が上昇すると価格が下がるという逆関係にある。FRBの急ピッチの利上げで、将来的に金利が上がると見込んだ投資家が保有国債を一斉に売却し、債券価格は下落。SVBは多額の含み損を抱えた。

 金利上昇で株式市場も変調し、新規株式公開(IPO)が停滞したことで投資家が慎重姿勢に転じた。新興企業は資金調達に窮するようになり、冬の時代に突入した。新興企業のほとんどは赤字のため、運転資金を確保しようとSVBからの預金の引き出しが急増した。

 SVBは預金の減少を乗り切るため、含み損を抱えた保有債券の売却や、22億5千万㌦の増資計画を3月8日に発表。これが逆に信用不安の引き金となり、SVBの持ち株会社の株価は9日に暴落した。

 米紙ウォールストリート・ジャーナルによると、マタニティーケアを手がける新興企業ルース・ヘルスのアリソン・グリーンバーグ共同創業者は「会議中に投資家から切羽詰まった様子のメールを受け取った。SVBは崩壊しつつある。預金を引き出すことが急務だという内容だった」と明かした。CNNは、ベンチャーキャピタルがパニックを起こし、預金を他の銀行に移すよう投資先の新興企業に促す動きが広がったと報じた。

 金融機関の破綻時に預金を保護する米連邦預金保険公社(FDIC)による1口座当たりの預金保護上限は25万㌦(約3400万円)。対応が遅れたら、預金の多くを引き出せなくなる。

 ▽「技術革新が10年以上遅れる」との声も
 FDICは10日午前、SVBを管理下に置いた。金融規制強化を唱える非営利団体、ベター・マーケッツのデニス・ケラー共同創設者は「FDICが週末に秩序だって対応したくても、典型的な取り付け騒ぎによってSVBは日中の閉鎖が避けられなかった」と解説した。

 金融システム全体への影響はないのか。キングス・カレッジ・ロンドンのイェンス・ハーゲンドルフ教授はCNNに「気まぐれな預金者を抱えているという意味でSVBは特別だ」と述べ、全体として健全な状態にあるとの認識を示した。

 ただ、米著名投資家のビル・アックマン氏はツイッターで「懸念されるのは資本力の乏しい銀行が預金流出に直面し、ドミノ破綻が起きることだ」と指摘した。米紙ニューヨーク・タイムズは、市場が経営状況に懸念を強めているとして米国の銀行を複数列挙した。それによると、シグネチャー銀行はSVBのように新興企業への融資が多く、IT業界の富裕層の資産管理業務を手がけるファースト・リパブリック銀行は最近、金利上昇で収益力が低下していると表明した。ウエスタン・アライアンス銀行も同じような問題を抱えている。

 ファースト・リパブリック銀は米証券取引委員会(SEC)に10日付で提出した資料で「強固な資本と流動性を有している」と説明。懸念払拭に追われた。

 新興企業や市場に広がる動揺を鎮めるため、米財務省とFRB、FDICは12日、SVBの破綻を巡り「全ての預金者を完全に保護する」との共同声明を出した。FRBが金融機関の資金繰りを助ける新たな仕組みをつくる。12日にはシグネチャー銀が預金流出で営業を停止して連鎖破綻となり、当局は休日返上で異例の対応に動いた。SVB、シグネチャー銀とも預金は全額保護される。新興企業には預金を引き出せずに資金繰りに窮するケースが続出し、手元に現金が少ない場合、従業員への給与支払いが遅れるといった混乱が広がる恐れがあった。

 だが15日には、かねて経営や財務基盤が脆弱だと指摘されていたスイスの金融大手クレディ・スイスの株価が急落。クレディ・スイスは16日、スイス国立銀行(中央銀行)から異例の支援を受け、最大500億スイスフラン(約7兆1千億円)を調達する意向を表明した。米国では16日、預金流出が加速したファースト・リパブリック銀に対し、バンク・オブ・アメリカなど米大手金融機関11社が総額300億ドルの資金を預け入れ、資金繰りを支える方針を発表した。

 SVBの破綻を巡り、起業家支援を手がけるアクセラレーターとして著名な米Yコンビネーターのギャリー・タンCEOはツイッターで「新興企業を壊滅させるような出来事で、技術革新が10年以上後退するだろう」と訴えた。今後はSVBの事業や機能がどこに引き継がれるのかが主な焦点だ。インフレ退治のため金融引き締め一辺倒だった欧米中銀の様相は一変した。世界的な金融危機に発展する事態を食い止められるのか、当局の手腕が試されている。