大阪市が昨年度から始めた、競争原理を取り入れた教員への新人事評価制度。市立工業高校の男性教諭が、授業力査定につながる授業アンケートのデータを管理職に改ざんされ、低い評価を付けられたと訴えていた問題を5月に詳報した。今回、その後の経過について続編リポートをお届けする。(共同通信=真下周)

【教員の人事評価書き換えか 大阪市立の工業高、授業力査定で】 (https://this.kiji.is/501663476475053153?c=39546741839462401)

【 教育現場に相対評価なじむか 「教育の劣化進む」】 (https://this.kiji.is/503136016883909729?c=39546741839462401)

 教諭は〝不正〟の真相解明のために公益通報し、市教育委員会にも評価のやり直しを求めて苦情を申し立てたが、いずれも「不適切だったが、改ざん行為は確認できなかった」「評価ルールの逸脱は認められない」と退けた。問題は市議会でも3度取り上げられたが、市教委側が不可解な説明に終始した印象がぬぐえない。

 ▽事実上おとがめなし

 5日の大阪市議会教育こども委員会。一連の問題を追及してきたのは自民党の木下吉信議員だ。市教委は、東淀工業高校(大阪市淀川区)の当時の校長と教頭を口頭注意処分にしたことを明らかにした。処分の理由は「管理職の行為が教諭に不信感を与えたことは軽視できず、(市職員基本条例でうたう『職員は市民の疑惑や不信を招くような行為はしてはならない』とする)倫理原則に抵触するため」。だが口頭注意は訓告などの懲戒処分ではなく、事実上のおとがめなしといえる。木下市議は「やったらあかんでー、気ぃつけーやという程度の処分」と表現した。

 山本晋次教育長は「管理職がやったことはずさんな対応だったと私も認識する」と指摘しつつ、故意性は認められず人事評価にも影響はなかったとの認識を改めて示し、「評価自体に問題がないならこういう処分がありえる」とのリーガルチェックの専門家の意見に沿った処分であることを明らかにした。

 ▽見解変えた市教委

 問題をおさらいしたい。生徒や保護者が受けた授業についてマークシートで評価する授業アンケートは、年度末の授業力評価の査定に使われる。

 今年3月、男性教諭は5段階評価の下から2番目の「(勤務成績がやや良好でない)第4区分」であると通知された。その際の面談で、校長と教頭が「(数値が)低いですね」と示したのがアンケート結果の個人票だ。9項目のうち8項目で、教諭は学校平均を下回っていた。

 実はこの個人票は1学期のアンケート実施後まもなく全教員に配られており、教諭はきちんと保管していた。それによると逆に9項目中8項目で学校平均を上回っていた。のちに面談で示された個人票は各項目の学校平均が一律に上方修正(底上げ)されていたのだった。

 授業力に自信を持っていた教諭は、管理職が下位評価を納得させるためにデータを都合よく書き換えて示したと疑った。アンケートを管理していたのは教頭だ。教頭は問題発覚前、取材に「(面談で示した2枚目がデータとして)正しい。(当初配った)1枚目は評価対象でない先生のデータが交じっていた可能性がある」と答えた。

 その後の木下市議や組合「なかまユニオン大阪市学校教職員支部」の追及に、教委側は「2枚目は教頭が全く別の分析に用いる関数などを加えて作成したデータを、誤って教諭に渡してしまったものだ」と説明した。

 市教委は、2枚目を真正でないと認めたものの、教頭が別の関数を加えた行為は、教頭の説明をそのまま認定する形で「故意ではなかった」とした。教諭は納得していない。一方、1枚目を真正と認めてしまうと、学校側は本来評価対象ではない講師などのデータが含まれたものを、評価の指標として活用したことを認めることになる。

 市教委教務部の岡崎史恵担当係長は、問題発覚前には教諭に対し、「アンケートは評価を正しくするため、評価対象外の講師を入れずに統計を取らなければいけない」と断言している。市教委が定めたアンケートの手引きも、実施の対象者は「授業を行う教諭」となっており、講師などは除外されている。

 ところが、6月の委員会で山本教育長は「学校運営上、講師を入れ込んだ分を使うか、除外して使うかは校長の裁量に任されている」とひっくり返した。岡崎係長も「私の方が間違っていた。申し訳ない」と続いて訂正した。

 新人事評価制度では、上位区分は相対評価で決められている。授業力の高低をより正確に把握するためには、評価対象者だけのデータ分布を用いるべきだろう。市教委が見解を変えたのは、評価対象外の教員が含まれる1枚目をもとに行った人事評価が「手続き上の誤りで無効」と批判されることを回避するための苦肉の策とみるのが自然だ。

 ▽代休日に「授業観察」?

 授業力の査定には、授業アンケートとともに管理職による授業観察が重要な要素として位置づけられている。教諭は「1年間で校長による授業観察は一度もなかった」と主張してきた。だが校長は「廊下から10分ほどの授業観察を7回行った」と反論した。

 木下市議の求めに応じて市教委が12月の委員会の約1週間前に出してきた「平成30年度 校長による授業観察状況」というタイトルの1枚紙。校長の申告に基づいて市教委事務局が作成した資料という。

 この資料によると、校長は昨年10―12月に教諭を含む評価対象者の34人に計142回もの授業観察(各回10―20分間)を実施したことになっている。ところが読み込むと、代休日だったはずの「10月29日」(月曜日)に3人の授業観察をしたことになっていた。

 数日後、市教委は木下市議に「(10月29日の記述は)誤りだった」として削除訂正を申し出て、急きょ新しい資料に差し替えた。筆者が訂正の経緯を市教委に尋ねると、「校長が記したメモを転記する際に間違えたのではないか。一般論だが、そういう転記ミスはよくあること」(前出の岡崎係長)との答えが返ってきた。

 「代休日に授業観察」は転記ミスだったとの説明を誰が信じるのだろうか。してもいない授業観察をでっち上げたからこのようなうっかりミスが起きたのではないか。この他にも、例えば11月26日には18人、計22回の授業を観察したことになっていた。うち1限目には10回の授業を見たというのだが、1コマ50分しかないのに物理的に難しい。

 校長は「普段の授業に近い状況を観察したいと考え、教室後方のドア付近の廊下で見ていた」という。一方、教諭は「新制度が始まることもあり、校長の動きは注意して見ていた。廊下を通り過ぎることはあっても、授業観察は一度もなかった」と話す。教諭は当時の生徒や同僚の教員らにも聞き取りをしたが、校長が授業観察している光景を覚えている人はほぼいなかったという。

 校長は、授業観察を実施した日付を、授業アンケート結果や授業観察の内容を記録する「授業力」評価票の隅にメモしていたという。この評価票も木下市議に開示されたが、教諭の授業力の評価を「◎○△」などで囲む欄に記載はなく、授業観察を行った日付と所感が読めないような字で書き殴られていただけだった。

 この「授業力」評価票は、運用の手引きで「評価結果に対する(評価対象者の)納得性を高めるために資する資料であり、本人の求めに応じて開示する」扱いになっている。だが下位評価の理由を説明するよう求めた面談で、教諭が開示を求めたにもかかわらず、校長らは「できない」と拒んでいた。

 ▽本年度も評価者として…

 新人事評価制度は、大阪市が一般職員に対して実施してきた評価制度を教員にまで拡大する形で昨年度から導入している。評価の厳正化をうたい、学校現場に対して一定の割合で下位評価をつけるよう促している形だ。

 新制度を推し進める市教委を相手に、教諭は「自分は下位評価を出すためのスケープゴートにされた」と評価のやり直しを求めて戦ってきた。共同通信は報道した5月末、松井一郎市長に見解を尋ねている。市長は「もし改ざんがあれば大問題」としつつ、「結果を出している教員に対して恣意的に下位評価を付けたとは考えにくい。市教委としては『あなた、さらにがんばってよ』ということだったのではないか」と擁護する姿勢をにじませた。

 行政トップの意向をなぞるように、市教委は評価の過程で管理職による不適切な行為があったことは認めながら、「不適正ではないから」として評価そのものは頑として変えようとしなかった。

 校長は4月に他校に転任したが、教諭と教頭は依然、同校に残る。評価者と被評価者の関係は変わらないまま、公正さに疑義が持たれている教頭が新制度2年目に突入する本年度も、教諭の第1次評価者を務めるというのだろうか。

 木下市議は12月の委員会の最後にこう投げかけた。「校長、教頭は口頭注意で終わったのに、教諭はずさんな評価で昇給停止になり、実質的に減給処分を受けている。教員を育成し、スキルアップしてもらうために導入した制度だったはずで、あなた方が守るべきは管理職じゃない。なにか間違っていないか」