税金を納め、法律を守って営業していても、国が性風俗業を差別するのはなぜなのか。この問いを正面から訴える裁判が、東京地裁で始まる。国を相手に提訴するのは、関西地方でデリバリーヘルスを運営する企業だ。新型コロナウイルスで経営に打撃を受けた事業者を救済するため、政府が中小企業に最大200万円を支給する「持続化給付金」。性風俗事業者は一括して対象から除外された。原告の企業は、この対応が法の下の平等を定めた憲法に反すると主張している。(共同通信=三浦ともみ)

 ▽明かされぬ理由

 原告側の弁護団によると、この企業は確定申告し、風営法や売春防止法を順守して営業している。コロナ感染拡大に伴う自治体の休業要請に従い、4月半ばから休業。売り上げは4月が通常より8割減、5月も7割減だった。

 経営者の女性は、他の性風俗事業者や支援者らと6月、中小企業庁の担当者と面談し、給付金の対象に含めるよう陳情した。賛同する約400人分の署名も提出した。女性はその場で「きちんと確定申告した事業者も、業種ごと除外するのは職業差別だ。業界自体が社会から分断され、偏見も強まってしまう」と訴えた。同じく除外されたラブホテル業者も「どんな業界も背後にいるのは働く人。このままでは困窮する。全部外すとは、われわれ全員死ねということか」と迫った。

 一方、中小企業庁の担当者の回答は「災害時など、これまでも公的支援の対象外だった。過去の対応を踏襲した」というものだった。では、過去も除外してきた理由はなんなのか。

 面談に同席した国会議員が「もともと対象外にしていた理由は何なのか」「誰がどんな理由で性風俗を支援することに反対しているのか明確に説明すべきだ」などと追及したが、中小企業庁の担当者は同じ回答を繰り返すのみで、具体的な理由は最後まで明かさなかった。

 ▽繰り返される除外

 性風俗業が除外されたのは今回だけではない。コロナ禍の中で、たびたび国の支援策から外れたことが判明し、問題視されてきた。

 当初、明らかになったのは、政府が決めた全国一斉の臨時休校により、自宅にいる子どもを世話するために働けなくなった保護者への支援金についてだ。この時も性風俗で働く人は当初、対象外とされた。

 ただ、当事者団体がこの措置に反対を表明したことをきっかけに、世論からも国の対応を批判する声が上がり、国は一転して支給するようになった。

 持続化給付金については、性風俗で個人事業主として働く人々は支給対象に含まれることになった一方、企業側は除外された。家賃支援給付金でも対象外だ。

 国会でも議論となったが、国の回答は基本的に変わらず「過去の対応を踏襲した」。

 ただ、5月の参院財政金融委員会で、麻生太郎財務相は「日本維新の会」の音喜多駿議員の質問に対し、「社会通念上、公的資金を投入して誰も文句言わないかという話」と述べた。麻生氏は「所管外」としつつも、「区別には正直な疑問を持った」とも述べている。

 中小企業庁に取材し、改めて理由を尋ねたところ、担当者は従来の見解を繰り返したのに加えて「政治家の中にもいろいろな考えがある。行政だけでは決められない」と答えた。性風俗業を対象に含めるかどうかを巡って、政府内や議員らに賛否両論があるようだ。

 ▽国民感情と人権

 性風俗の除外問題が報道されるたびにインターネット上では「納税してから言え」など、「性風俗業イコール税をきちんと納めていない」というイメージや決めつけによって国の対応を正しいとするコメントが相次いだ。

 原告企業と弁護団は、提訴する方針を明らかにした8月27日、訴訟費用を調達するため、「CALL4」というサイトを通じてクラウドファンディングを呼び掛けた。すると、賛同者は予想以上に多く、わずか4日間で当初の目標だった300万円が集まった。さまざまな分野の関係者から「人権問題だ」などと支援する声も上がっており、大きな反響を呼んでいる。現在は訴訟が長期化する可能性などに備え、追加のクラウドファンディングを続けている。

 訴訟では、原告側は国に対し、持続化給付金と家賃支援給付金の支払い、慰謝料や弁護士費用の賠償などを求める予定だ。平裕介弁護団長によると、持続化給付金や家賃支援給付金は、行政法上の「給付行政」にあたるため「公益的な観点から、憲法14条の平等原則を守ることが強く要請される」。それにもかかわらず、性風俗業を除外した国の措置については「合理的根拠がなく、あいまいな理由による除外は憲法違反であり、かつ行政の裁量権の逸脱乱用だ」とみている。

 平団長は今回の除外について、性風俗業だけの問題ではなく、ほかの「給付行政」でも起きている分野だと指摘する。給付行政では国が給付対象に含めるか否かを巡り、たびたび争いになるという。

 最近では、文化庁所管の独立行政法人が、麻薬取締法違反で執行猶予付き有罪判決が確定した俳優出演の映画「宮本から君へ」に対する助成金の交付を内定した後に取りやめた異例の決定が問題となった。映画の製作会社は、表現の自由などを定める憲法に反し、行政の裁量権の逸脱乱用だとして決定の取り消しを求める訴訟を起こしている。平団長はこの訴訟の原告側弁護団にも参加している。「行政の判断が、ある対象に抱く嫌悪感や忌避感といった憲法や法律などの趣旨に反する国民感情ばかりを優先してなされている傾向がある」と話す。

 今回の持続化給付金の支給除外も「社会が性風俗に抱く差別意識に国が便乗し、偏見を助長している。今回のケースを許せば、『アリの一穴』となり、憲法上の権利を軽視した施策が実行されてしまう」と警鐘を鳴らす。

 「コロナ禍において、給付金の支給除外はそこで働く人たちの命に関わること。法律を守って営業し、納税し、休業要請にもきちんと従ったのに裏切られた。国による差別の歴史を断ち切りたい」。デリバリーヘルス経営者の女性は、訴訟の意義についてこう訴えた。

 コロナ禍で困難を抱えたのは、どんな職種の事業者も同じ。「職業差別」との批判に、司法の場で国は何を主張するのか、注目される。