今だけ特別!牛肉が実質2倍―。ふるさと納税のポータルサイトで始まった期間限定の返礼品増量キャンペーンが波紋を広げている。返礼品競争を防止するために法規制が強化されたばかりのふるさと納税で、また競争をあおるような事態が起きている。なぜ通常では認められない分量の返礼品を送ることができるのか。取材を進めると、国が新型コロナウイルス禍で売り上げが落ち込む特産品の支援を名目に、制度の「抜け道」を用意した構図が浮かび上がってきた。(共同通信=助川尭史)

 ▽ニコニコエール品

 「みんなで特産品を食べて生産者を応援しましょう!」。ふるさと納税ポータルサイト大手「ふるさとチョイス」の特設ページには、和牛、ホタテ、メロンなどの返礼品が、通常の2〜3倍に増量された「ニコニコエール品」として掲載されている。紹介画像ではグラム数が大きく表示され、通常の品と比べたお得さが目につく。キャンペーンは今年7月から始まり、1カ月ごとに増量されるお礼の品は入れ替わる。参加している大多数は、ふるさと納税の返礼品として人気を集める肉、米、カニの「三種の神器」を扱う北海道や九州地方の自治体だ。

 キャンペーン開始のきっかけは売り上げが落ち込む生産者からの声だったと、サイトを運営するトラストバンク(東京)は説明する。新型コロナで百貨店や飲食店からの注文が激減していた。担当者は「複数の自治体から外食需要の落ち込みで特産品が行き場を失っていると相談を受け、ふるさと納税の枠組みを使って支援を始めた」と話す。

 各地の返礼品を紹介して寄付を受け付けるふるさと納税ポータルサイトは、寄付を集める返礼品の提案やPRも担い、寄付額の約1割が相場とされる自治体からの利用手数料が主な収入源だ。百貨店や航空会社などさまざまな業種が参入して飽和状態の業界で、通常以上の返礼品がもらえるキャンペーンの存在感は大きい。ネット上でニコニコエール品を検索すると寄付に対する還元率の高さを調べたサイトや、お得さを強調するブログが数多くヒットする。関係者によると、他の仲介サイトでも同様の企画を検討する動きがあり、すでに寄付金の拡大が見込めるとうたい、複数の自治体に掲載を呼び掛けている運営会社もあるという。

 ▽新型コロナ禍の支援が名目

 ふるさと納税は2007年、当時総務相だった菅義偉氏が構想を打ち出し、翌08年に始まった。応援したい自治体に寄付すると、上限額を超えなければ自己負担の2千円を除いた額が住民税などから差し引かれる仕組みで、当初は都市部に集中する税収を地方に還元する目的で始まったが、次第に寄付のお礼に肉や海産物などがもらえるお得な制度として定着。自治体間の競争が過熱したことを受け、昨年6月に法改正により自治体の返礼品の調達費を「寄付額の3割以下」と規制する新制度に移行した。この影響で、返礼品は全国的に以前より量が減少するか、必要な寄付金額が引き上がる傾向にある。それなのになぜ、返礼品の増量ができるのか。鍵となるのが、農林水産省がコロナ支援の一環で打ち出している補助事業だ。

 事業はコロナ禍で飲食店が苦境に立たされるなどして、売り上げの減少や在庫の滞留が起きている高級食材などの販売促進策として今年5月に受け付けが始まった。対象となるのは和牛や魚介類の他、マンゴーやそば粉なども含まれる。JAなどの生産者団体や地域協議会が生産者から対象の農水産物の販売キャンペーンを目的に仕入れた際、かかった費用の半額を農水省が補助する仕組みで、補助対象の品を自治体が返礼品にした場合、結果的に調達費を低く抑えることができる。キャンペーンごとに補助される金額の上限は2億円。対象期間は通常2週間だが、ふるさと納税の返礼品のように自治体と連携すると1カ月間まで延長が可能だ。実施主体は広告会社の博報堂で、事業計画の審査や補助金の交付を担っている。

 ▽「競争につながらない」

 事業を活用すれば、寄付額の実質3割を超える品を贈ることができるが、総務省は「制度の規定はあくまで自治体の返礼品に対する支出を規制するもので、国の補助金は規制されていない」と静観する姿勢だ。農林水産省も「目的は生産者の支援。参加する事業者や仲介サイトの運営会社には過度にお得さを強調しないよう指導している」と返礼品競争にはつながらないとしている。

 だが実際はそうなっていない。国がコロナ支援を名目に制度の抜け道をつくったひずみは、既に各地に広がっている。

 九州地方のある自治体は、1万円の寄付に対する返礼品の牛肉を通常の300グラムから600グラムに増量。寄付件数は10倍以上に跳ね上がった。担当者は「寄付額が伸びたのはありがたいが、国が返礼率を操作するような施策が本当に良いのか」と複雑な心境を語る。「お得感が増して注文が増えるのは一時的。寄付者も自分の懐が痛まないから注文してくれるのであって、商品として競争力が付いているわけではない。事業が終わって寄付が減った時に本当に困るのは生産者だ」と困惑する。

 寄付で税収を取られる側の都市部の自治体でも反発は強まる。新制度の下で寄付額が前年の半分以下に落ち込んだ近畿地方のある自治体ではコロナの影響で地元企業の業績が悪化。今後の税収の大幅減は避けられない見通しだ。自治体幹部は「苦しい状況はどこも同じで、農産物が豊富な一部の地域だけが優遇され、寄付金が流れるのは納得いかない」と憤る。

 専門家は一連の問題をどう見るか。早稲田大の小原隆治教授(地方自治)は「農水省の補助事業の目的自体に問題はないが、ふるさと納税制度に活用されることによって、不当な寄付獲得競争が再燃する恐れがある」と指摘。「自治体間で寄付金を取り合うことが前提の制度で対象品目を扱う地域だけを優遇すれば、別の地域の品も対象にする要望が出てくるだろう。補助の期間や対象品目が今後さらに広がれば、返礼品の規制は骨抜きになる可能性が出てくる」と懸念を示した。

 一度は収束したかにみえたふるさと納税を巡る自治体間競争の火種はいまだくすぶり続けている。一度できた制度の穴はどのように広がるのか、今後も動向から目が離せない。