東京・池袋で、87歳だった男性が運転する乗用車が暴走し、母子が死亡した昨年の事故を巡る初公判が8日、東京地裁で開かれました。事故は、高齢ドライバーによる事故を防ごうという機運を高め、運転免許証の自主返納数が急増するきっかけになりました。今年6月には高齢運転者対策を盛り込んだ改正道交法が成立しました。Q&Aにまとめました。(47NEWS編集部)

Q どんな事故だったのですか。

A 昨年4月19日昼、暴走した乗用車が交差点に進入し、自転車で横断歩道を渡っていた松永真菜さん(31)と莉子ちゃん(3つ)をはねて死亡させ、乗用車を運転していた飯塚幸三被告や同乗の妻を含む10人が重軽傷を負いました。乗用車は自転車に衝突したとき時速96キロになっていました。飯塚被告も負傷して入院したことなどから警視庁は逮捕せずに在宅で捜査。昨年11月、暴走は故意ではないとして、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の疑いで書類送検し、東京地検が今年2月、過失致死傷罪で在宅起訴しました。事故当時、飯塚被告は87歳。高齢ドライバーによる重大事故を防ごうという取り組みが急がれるきっかけになりました。

Q 裁判はどのように進みそうですか。

A 地検は、飯塚被告が「ブレーキとアクセルを踏み間違えて交差点に進入、事故を起こした」と主張しています。一方、飯塚被告は初公判で「アクセルペダルを踏み続けたことはないと記憶している。車に何らかの異常が発生し、暴走した」と、起訴事実を否認しました。今後の公判で、事故で妻子を亡くした拓也さん(34)が被害者参加制度を利用して被告人質問などをする予定です。

Q 高齢者による事故は多いのでしょうか。

A 警察庁によると、2019年の交通事故死者数は3215人でした。これらの事故につながった過失を見たとき、バイクや車を運転していた人の過失が重かった死亡事故は2780件。このうち、75歳以上の高齢者が運転していた事故は401件で14・4%でした。また、運転免許保有者10万人当たりの死亡事故件数では、75歳以上が6・9件で、75歳未満の3・1件に比べ2倍以上高かったのです。ハンドル操作のミスやブレーキとアクセルの踏み間違いが目立ちました。

 Q 池袋の事故の後、どのぐらいの人が運転免許を返納したのですか。

 A 警視庁によると、事故の翌日から今年3月末までに東京都内で7万786件。前年同期は3万8808件でしたので約1・8倍に増えました。全国でも、警察庁の統計によれば、昨年の返納は、前年から18万件近く増え、過去最多の60万1022件。このうち58%、35万件余りが、75歳以上の高齢者でした。ちなみに75歳以上の免許保有者は、2019年は約580万人。今後、団塊世代も加わる24年には約760万人に達する見込みです。

 Q 事故を起こさないように、という気持ちから返納した高齢者が多かったのでしょうか。

A 歌手で俳優の杉良太郎さんは74歳だった昨年6月に返納しました。「事故で人を死なせてしまったら取り返しが付かない」と思ったといいます。70歳のときに受けた免許更新の講習で「目や手の反応が若い頃と違う」と感じたのがきっかけだそうです。「車がないと不自由な高齢者が大勢いる。返納してとは呼び掛けづらいが、反応が鈍いなと感じたら人を傷つけないうちに返すのが賢明かと思う」と話していました。

Q 車がないと不自由な高齢者は多いですね。車が頼りという地域もあります。

A 高齢ドライバーの事故を防ぐための方策を議論する中で、ポイントの一つになったのが、公共交通機関が網羅されていない地域で運転できなければ、日々の買い物や通院にも支障が出るなど生活が立ちゆかなくなる恐れがあるという点でした。議論を踏まえて今年6月に成立したのが、改正道路交通法です。22年6月までに施行されます。

Q どのように変わるのでしょう。厳しくなるのですか。

A 現在も記憶力や判断力を調べる「認知機能検査」は75歳以上の免許保有者を対象に行われているのですが、その前にまず、一定の交通違反歴がある75歳以上は、免許更新時に実際に車を運転する「運転技能検査」を受けなければなりません。自動車教習所で運転してもらい、右左折や一時停止がスムーズにできるかどうかなどを採点評価し、合格しなければ免許更新ができません。繰り返し受検することができますが、何度受けても不合格なら公道上の運転は困難とみなし、免許更新はあきらめてもらうことになります。合格したら「認知機能検査」を受け、「認知症の恐れなし」と判定されれば「高齢者講習」に進み、「認知症の恐れあり」と判定された人は医師の判断を仰ぐことになります。 ほかに、自動ブレーキなどの先進技術を搭載した「安全運転サポート車」、サポカーに限って運転できる限定免許も創設されます。「サポカー免許」などと呼ばれそうですね。

Q 自動ブレーキ搭載が広がるのは、高齢者に限らず助かります。

A 国土交通省は、2021年11月以降に販売する新型乗用車やモデルチェンジする車に、自動ブレーキの搭載を義務付けました。既に販売されている車種も25年12月以降の販売分から導入し、輸入車にも24年7月以降に適用される見通しです。