菅政権の女性大臣は2人…。女性活躍や多様性の推進に関心が高まる中、政治の世界の「遅れっぷり」に肩を落とした人も多いはずだ。こうした日本の現状をどう考えたら良いのか、ジェンダーと政治を専門とする2人の識者に話を聞いた。

【辻由希・東海大教授】

◎ジェンダー平等政策「周縁化」に懸念  

Q 菅内閣の女性大臣は2人、副大臣と政務官はいずれも3人でした。

 A 大臣のポストは限られているので、入閣待機組を考慮するなど従来の慣習通り組閣すると、なかなか女性を登用することは難しい。経験のない女性議員を急にあてると、少しの失敗でも批判され、つぶされてしまう。副大臣や政務官に女性を任命し、大臣登用に向けて育成することも必要だと思う。菅義偉首相に人材を育てようという気持ちがあるなら、副大臣や政務官にもっと多くの女性をあてたはずです。それぞれ3人というのはとても残念。

 Q 経験を積むポストに意図的に女性を増やす必要性があるのですね。

 A 菅首相や自民党の有力者はが依然として立脚するのは、「メリトラクシー」と呼ばれる「能力をつけて、自分で勝ち上がれ」という考え方。でも、議員に問われる「能力」とは何かを問い直さないままでは、従来通りの男性優位な価値観から外れるような人は登用されにくくなってしまいます。

 Q 菅内閣は、従来の価値観からみれば能力があると認められた「手堅い」布陣とも言えるかもしれません。でも、そもそも政治家に必要な能力とは何かを見直さないといけないのですね。

 A そうです。社会の多様な声を吸い上げるためには必要です。

 Q 菅首相はジェンダー平等や安倍晋三前首相の掲げた「女性活躍」にどれだけ本気なのでしょうか。

 A 安倍前首相は、「女性活躍」を中心政策の一つにしました。「労働力不足の解消」が主眼ではありましたが、国際援助など外交の場でも女性支援や登用をアピールし、自身のプレゼンスを高めるためにジェンダー平等をうたっていた側面はあります。一方で、菅首相からはあまり本気度が伝わってきません。そもそも、どんな国家像を描いているのかが分かりづらい政治家です。

 Q 不妊治療の保険適用や携帯電話料金の値下げ、デジタル化推進など一つ一つの政策は分かりやすいですが。

 A それぞれの政策の根底にある課題を掘り下げて解決するところまで至っていない。ジェンダー平等で言えば、性差別など人権の問題や社会のあり方をどうすべきかという観点で議論していく必要がありますが、そこまでする気があるようには見えません。安倍前首相を必ずしも評価する訳ではありませんが、曲がりなりにも政治の中心課題の一つになったジェンダー平等が、菅政権では再び「周縁化」するのではと懸念しています。

 Q 有権者は今後、どんな点に注目していけばよいでしょうか。

 A 経済財政運営の指針「骨太方針」などに女性活躍やジェンダー平等がどう盛り込まれていくのか、見ていく必要があります。(聞き手 共同通信=三浦ともみ)

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 つじ・ゆき 奈良県出身。専門はジェンダーと政治。東海大准教授を経て、4月から現職。

 

【申琪栄(シン・キヨン)・お茶の水女子大教授】

◎男性ばかりの政治の世界で女性は「異物」

  

 Q あれだけ女性閣僚が少ない、なんとかしないといけないと言われ続けていたのに、今回も19人中2人でした。

 A 予想の範囲内です。女性議員の数が少ないので〝永田町基準〟で閣僚になれる人材が少ない。ただ、首相が本気になれば増やせたはず。民間から登用もできるのだから。

 Q 地方議員は人材のプールにならないのでしょうか。

 A そもそも都道府県議会も女性が少ない。特に自民党は。また、都道府県議会の女性議員にとって国政が必ずしも魅力的ではない。地方議会で実力を身につけてせっかく実現できる政策が国政に出たらかなわなくなる場合も多いと思う。意見を通すには雑巾がけをして上って行く必要があり、女性には厳しい。政党が背中を押し、地方から国政へのキャリアパスを示せば、目指す人も増えるのではないでしょうか。

 Q 組閣に先立つ自民党総裁選に女性候補者はいませんでした。

 A 正直、21世紀にこういう昔ながらのリーダー選びが堂々となされているのには驚きました。野田聖子さんも稲田朋美さんも、意欲は口にしていたけれど、出馬には至らなかった。派閥で全てが決まる状況で、女性では支持が得られない。

 Q なぜ派閥政治に参画できないのですか。

 A あうんの呼吸でコミュニケーションをとれる、男性だけの均一な集団の中で女性は「異物」だからです。野田さんも「日本の国会では、女性議員はマイノリティーどころか異物に近い」と発言しています。派閥は閉ざされた集まり。その中で、汗をかいた者だけが認められる。女性は入れない。均一だとコミュニケーションにかける労力が最小限で済むので楽です。男性は女性を受け入れたがらないし、女性の方も居心地が悪いから入りたがらない。

 Q 合流新党・立憲民主党の代表選も女性候補がいませんでした。

 A リーダー選びの場に女性が出てきて、女性や若者に響く議論をしていれば多様性をアピールできたのに。自民党と違うところを見せるせっかくの機会を逃してしまった。

 Q コロナ渦での施策は、女性議員が多ければ変わっていたのでしょうか。

 A 緊急経済対策の柱だった10万円の特別定額給付金。全員に配るという発想は良かったが、世帯主の口座に家族全員分が振り込まれる仕組みが壁となって、実際は受けとれ取れない人がいました。世帯主のほとんどは男性。家庭内暴力(DV)を受け、住民票を移さないまま家を出た妻や子どもが受け取れなかったのですいケースがありました。世帯主の立場の人たちばっかりで施策を決めているので、想像力に欠けている。違う立場の人、つまり女性がもっといればチェック機能が働き、より実態に合った支援になったのではないでしょうか。(聞き手 共同通信=宮川さおり)

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 しん・きよん 韓国・釜山生まれ。専門は政治学。一般社団法人「パリテ・アカデミー」共同代表