俳優の伊勢谷友介さんが逮捕されて有罪判決を受けるなど、大麻による有名人の逮捕報道が相次ぐ。そんな中、弁護士の亀石倫子さん(46)はツイッターで「日本の大麻規制は不合理だ」と声をあげ続けている。その様子は一見すると孤軍奮闘。バッシングのリスクを冒してまで主張するのはなぜだろう? 疑問に思って取材をすると、伝わってきたのは特定の分野で日本社会に根強く残る「偏見」と闘い続ける弁護士としての自負だった。(共同通信=武田惇志)

 ▽日本と世界のギャップ

 亀石さんが大麻の現状に興味を抱いたきっかけは、約3年前、米国へ大麻合法化の現状を調べに行った知人の精神科医がインターネット上に動画でアップした調査結果だった。

「大麻を売るおしゃれなディスペンサリー(売店)がロサンゼルス中の様々な場所にあったり、敷居が高そうなパーティーでも大麻が身近にあったりする様子が分かって、新たな潮流だと関心を持つようになりました」

「それから海外での医療用・娯楽用での合法化の流れや有害性を否定する医学データ、国連の動向などを知るにつれ、次第に日本とのギャップに気づくようになって」

「日本では、捜査機関が大麻所持容疑で有名人を逮捕して、さらにそれをメディアが何ら批判的見方をせずに報じることで、危険な薬物を使用した悪質な犯罪者だと烙印(らくいん)を押して社会的にスポイルしてしまう事態がずっと続いていますよね」

 国連は12月、ヘロインなど「医療的価値がなく有害な薬物」をリストアップしたスケジュール4から大麻を削除。米国でも下院が大麻合法化法案を可決し、連邦レベルでの合法化への機運も高まっている。

 一方で日本は取り締まりを強化しているのが現状だ。犯罪白書によると、2013年に1616人だった大麻取締法違反での摘発人数は、19年には4570人と3倍近く増加。20年9月には俳優の伊勢谷さんが逮捕され、大々的に報道されたことは記憶に新しい。

 また、世界の現状を知って関心を持つようになる以前から、刑事弁護を通じて大麻取締法には違和感を抱いていたと亀石さんは語る。

 「私が弁護した事件でも、大麻の使用者は覚醒剤のように自身が廃人のようになるわけでもなく、薬物の影響から2次犯罪を起こすようなこともありませんでした。犯罪の原因でいえばむしろ、アルコールの場合がほとんどだったのです。大麻に関しては自己や他者への害もほとんどないのに、なぜ持っているだけで罰せられるのかと疑問で。処罰根拠が分からないなとは感じていました」

 同法は、大麻を所持などした際の罰則について「みだりに所持し、譲り受け、または譲り渡した者は、5年以下の懲役に処する」と規定し、罰金刑はない。違反すれば、裁判で執行猶予が付かなければ刑務所での服役以外に選択肢はないということだ。同等の罰則を持つ罪には刑法の横領罪、建造物損壊罪があるが、大麻取締法と異なっていずれも被害者が発生する犯罪である。

 なお、麻薬取締法や覚醒剤取締法は薬物の使用罪についても規定しているものの、大麻取締法にはない。理由は判然としないが、戦前に米国で成立していた、使用罪のない「マリフアナ税法」の影響があったとみられる。

 ▽敗戦から見直しなく

 「大麻取締法は戦後すぐ、米国に押し付けられて成立しましたが、その後は罰則の強化以外に見直す動きがありませんでした。明治時代にできた民法の夫婦同姓規定もそうですが、今の時代と合わない法律は検証が必須なのに、法的には大麻取締法の違憲性が争われた揚げ句、有害性を認めて下級審の有罪判決を支持した1985年の最高裁決定以降、議論がストップしている状態です。世界的に大麻の医学的研究は90年代以降、飛躍的に進んだにもかかわらず、法律の規定のせいでいまだに医薬品としての処方もできず、臨床研究も進まないまま。大麻が非常に有害な薬物だというイメージのままで思考停止状態が続いているんです」

 大麻取締法のルーツは敗戦直後、1945年10月の連合国総司令部(GHQ)による「マリフアナ」の使用や栽培を禁ずる指令にさかのぼる。戦前から大麻栽培が盛んだった日本では当時、全国的に大麻農家が多かった。そのため農林省(当時)は農家の廃業を防ぐべくGHQと交渉。なんとか条件付きの大麻栽培が認められたと同省の資料には記されている。また厚生省(当時)も規制の必要性を疑問に思った上、大麻農家も大反対していたが「占領中のことであるから、そういう疑問や反対がとおるわけもなかった」と元内閣法制局長官の林修三氏は法律雑誌で振り返っている。

 こうした経緯から48年7月、農作物の大麻とその他の薬物を切り離す形で、大麻取締法と麻薬取締法が別々に制定されることになった。当時の日本では大麻を嗜好(しこう)品として吸引することが全く知られていなかったためか、国会会議録には大麻の有害性や医薬的な側面について論じた場面はない。しかし同法は4条で「大麻から製造された医薬品の施用」を禁止しているため、諸外国のように大麻を医療目的で用いることはできないままだ。

 過去には同法の違憲性を争う刑事裁判もあったが「大麻の有害性はアルコールやニコチンと比べて極めて低く、その規制は憲法が規定する法の下の平等や幸福追求権に違反する」とする被告側の主張に対し、最高裁は85年に「有害性が極めて低いものとは認められない」と判示。以後、判例は改められていない(続く)。

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 亀石倫子(かめいし・みちこ)1974年北海道生まれ。民間企業に勤務後、大阪市立大法科大学院へ。司法試験に合格し、2009年弁護士登録(大阪弁護士会)

【後編】[日本社会の偏見、仕事や居場所奪う ](https://this.kiji.is/715938914898755584?c=39546741839462401)

https://this.kiji.is/715938914898755584?c=39546741839462401