国際社会で厳罰方針の見直しが進む薬物政策だが、日本では厚生労働省が大麻取締法の罰則強化を議論する方針と報じられたばかりだ。危機感を抱いた亀石倫子弁護士らは、電子署名サイトChange.orgで、厳罰主義から治療や支援へと薬物政策の転換を訴え始めた。(共同通信=武田惇志)

 ▽国際的な非犯罪化の流れに反し…

 近年、世界中で急速に規制緩和が進む大麻。約20カ国で合法化され、約50カ国で非犯罪化(法律では規制されているが、少量の所持は取り締まりがなされない状態)されている。1990年代以降に科学的研究が発展し、国際的規制が始まった20世紀半ばに想定されていたほど大麻が有害であると考えられなくなったことや、高い医療的価値が認められたことが背景にある。

 戦後、日本の大麻規制を形づくった米国では90年代以降、州レベルで大麻解禁が進行。50の州のうち現在、医療目的のみで33州、娯楽目的も含めると15州の計48州で合法化されている。

 まだ連邦レベルでは合法化されていないものの、ワシントン・ポストによると、次期大統領に就任するバイデン氏は大統領選で大麻の非犯罪化を提唱。元検察官で副大統領に就任するカマラ・ハリス氏も同様の主張をしており、副大統領討論会では「(バイデン=ハリス政権は)大麻を非犯罪化し、大麻で有罪判決を受けた人々の記録を抹消する」とまで述べた。

 加えて昨年、連邦議会下院で大麻合法化法案が可決。上院は共和党優勢のため法案成立は難しいとみられていたが、今年1月のジョージア州での決選投票で民主党が勝利したことで、共和党と同数の50議席を獲得。連邦レベルでの大麻合法化が一気に現実味を帯び始めたのだ。なお、食用や衣料品用などの産業用大麻(ヘンプ)は2018年に連邦レベルで解禁され、市場拡大が進んでいる。

 また国連でも動きがある。昨年12月にはヘロインなど「医療的価値がなく有害な薬物」をリストアップしたスケジュール4から大麻が削除された。

 しかし、日本政府はこうした国際的な動きに逆行するような動きを見せている。若者の摘発増加を理由に、1948年の成立から大麻の所持や譲渡のみを規制してきた大麻取締法を巡り、新たに「使用罪」を加える可能性があるというのだ。

 厚労省は1月から、「大麻等の薬物対策のあり方検討会」を開催すると発表。医学、薬学、法学の専門家を委員に招いて薬物対策の見直しを図るとしているが、使用罪についても議論の俎上(そじょう)に上るとみられている。

 ▽薬物政策の転換求める声

 厚労省の発表を受け、亀石倫子弁護士ら6人の刑事弁護人は「厳罰化は誰も幸せにしない。薬物政策をハームリダクションへ転換を!大麻等の薬物取り締まり強化と『大麻使用罪』創設に反対します!」(http://chng.it/PhLvKzvr)と題した電子署名をスタートさせた。

 署名では、欧米を中心に広がる「ハームリダクション」の考え方を紹介。ハーム(害)をリダクション(減少)させるという意味で、薬物使用での健康や社会へのダメージを減らすことを主眼に置いた薬物対策のことだ。具体的には、違法薬物の依存に対しては刑罰で規制するのでなく、支援や治療につなげることで依存者を減らす取り組みとなる。

 そうした発想の根底にあるのは、薬物使用者を刑務所に入れても依存や乱用は治らず、むしろ違法薬物が反社会的組織の資金源となって社会的な害を増加させてしまうという認識だ。各国で進む大麻の非犯罪化もその一例である。

 2011年には世界の元首脳や有識者からなる国際薬物政策委員会が「国際的な薬物戦争は、世界中の人々と社会に対して破壊的な影響を与え失敗した」と直言。14年にはWHOが、HIV感染防止のガイドラインで各国にハーム・リダクション政策を推奨しているほか、日本政府代表も参加した16年の国連麻薬特別総会でも「薬物依存を健康障害と認識し、ケアやリハビリを強化する」としてSDGs(持続可能な開発目標)と関連づけた文書が採択されている。

 「厳罰化によって『犯罪者』のレッテルを貼られ、肩身の狭い思いをし、家族や友人が離れ、学校や職場に居場所がなくなり、社会から孤立する。厳罰化は、誰も幸せにしません」。亀石弁護士らは署名で、薬物政策の転換を訴えている。

 大麻の非犯罪化や処罰の軽減については、国内の法学者間でも奇異な主張とは見なされていない。実は大麻取締法は成立当時、「違反者は3年以下の懲役または3万円以下の罰金に処する」として罰金刑があったものの、法改正で削除されて懲役刑のみになった経緯がある。そのことについて、法学の専門書は以下のように書いている。

 「大麻の有害性が従来考えられていた程のものではないとすれば、立法政策として罰金刑を復活させる余地はある」(伊藤栄樹ら編「注釈特別刑法 第8巻」立花書房、1990年)

 「大麻の有害性がかつて考えられていた程のものでないとすれば・・・選択刑として罰金刑を復活させることが考慮されてよいと思う」(平野龍一ら編「第2版 注解特別刑法5 医事・薬事編2」青林書院、92年)

 ところが、日本政府はハームリダクションの潮流にも、「薬物の乱用防止には、徹底した取締りと乱用者を発生させない対策のバランス、および各国特有の薬物事情を踏まえた施策が必要である」と慎重な姿勢を崩しておらず、国際社会に「わが国の考え方への理解を求める」(第5次薬物乱用防止5カ年戦略)と説明するのみだ。市民の声は事態を動かすきっかけとなるのだろうか。

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