大津市の市立保育園に通う園児(6)が、性別に違和感を抱えていることを許可なく市のウェブサイトに掲載されたとして、昨年12月、市に削除を求める訴えを両親と共に大津地裁に起こした。園児は性別違和が原因でいじめを受け、昨年10月ごろから不登園状態に。戸籍上は男だが、自分の心と身体のずれに悩み続けている。母親(35)がインタビューに応じ、園児の状況や社会への思いを語った。(共同通信=福田亮太)

 ▽「特定されてしまう」

 「ねえ、これってA(園児の名)ちゃんのことじゃない?」

 園児の母親のもとに、知人から連絡が来たのは昨年10月のことだ。伝えられたとおり、大津市のホームページからたどっていき、市立保育園の「保育園評価書」を見て、驚いた。

 「今年度入所した4歳児が、自分の身体の性別に違和感を感じる訴えをしたことをきっかけに、11月に受診」。氏名は伏せられているものの、自分の子どものことが書いてある。「LGBTに対する知識や認識を職員が高めていくようにする」と、園の取り組みに関する文脈の中での記載だが、園や市から事前の連絡は全くなかった。

 母親は子どもが抱える性別違和を少しでも理解してもらおうと、園児の様子や行動を逐一、園に報告してきたが、公表を許可した覚えもない。

 「入園年度や状況の記述から、分かる人には特定されてしまうのではないか」「これから通う小学校にまで知れ渡ったら、またいじめられてしまうのではないか」

 不安が募った母親は夫と話し合い、弁護士に相談。本人が認識する性別(性自認)や好きになる相手の性別(性的指向)を、了解なく第三者に暴露する「アウティング」に当たるとして、昨年12月25日、削除を求めて提訴に踏み切った。

 アウティングを巡っては、2015年6月、一橋大法科大学院の男子学生が同級生に同性愛を暴露された後、校舎から転落死したことをきっかけに社会問題化。両親が大学に賠償を求めた訴訟の判決で、東京高裁は昨年11月、アウティングについて「人格権やプライバシー権を著しく侵害する、許されない行為」と認定している。

 大津市は昨年7月からサイトに評価書を掲載していたが、提訴を受け、今年1月18日に削除。両親側は29日に訴訟を取り下げた。

 ▽ピンクの服が好き

 園児の性別違和について、両親も最初は「かわいいものが好きなのかな」と思う程度だった。ピンクの服を好み、しきりに妹の服を着たがる。「自分は女の子」「髪も伸ばしたい」と言う園児と接する中で「この子の心は女の子かもしれない」と思うようになったという。

 周囲は「妹に焼きもちを焼いている」「今だけ」と園児の行動を一時的なものとして扱った。

 「なぜ男の子の格好をさせないのか」。両親は時に白い目を向けられたが、無理やり男の子らしくさせることは人格否定になると思い、強制はしなかった。

 「女の子の格好をしていると、周りに変な目で見られることになる」と話したこともあった。しかし、園児はそれでも女の子として振る舞うことをやめなかった。「それなら本人の思うように、親としてできる限りのことをしよう」。悩んだ末、両親はそう決めた。

 ▽「ママが間違えて産んだ」

 19年4月、年中クラスに途中入園した園児は時々、女の子の格好で登園した。だが、他の園児から「なんで女の子の格好してるの?」「おとこおんな」などとからかわれた。

 「女で生まれたかった」「1回死んで女になりたい」。園児は家に帰ると泣いて訴えた。「ママが間違えて産んだ。ママが悪い」と口にすることも。母親は「なぜちゃんと産んであげられなかったのか」と自分を責めた。

 両親からすれば、園の対応にももどかしさが募った。他の園児に対し「心と体の性にずれがある人がいる」「お友達の気持ちを大事にして」といった話をする一方、園児が身体測定で「間違った体を見られたくない」と裸になるのを嫌がると、「我慢する力も付けないと」などと言われたという。女の子としての振る舞いをわがままのように扱われていると感じたこともあった。

 「ここまで分かってもらえないものなのか」。母親は性的マイノリティーへの理解が広がっていないことを痛感した。

 ▽円形脱毛症に

 他の園児からは持ち物を取られたり、仲間外れにされたりしたほか、暴言や暴力のいじめも受けた。ストレスからか、園児は円形脱毛症になった。

 両親は園や市に改善を求めたが、園は「(加害園児の)成長過程での行為」「じゃれあい」などとして、「いじめとは思っていない」と回答。園児が覚えたてのひらがなで「なかまはずれ」「ぼこぼこ」などと書いたメモを握りしめて市に相談に行ったこともあった。両親が継続して対応を求めた結果、市は最終的にはいじめがあったことを認め、園の対応が不十分だったと謝罪した。しかし、それは園児が年長になった後の昨年11月のことだ。いじめはその後も解消せず、園児は現在も不登園状態が続いている。

 園児は今春、小学校に進学する。女の子として生きたいが、いじめの心配があるため、性別違和のことは隠して入学する。「これからも壁はたくさんあると思うが、子どもと一緒に考えていく」と母親。「性に悩む人が多くいることを知ってもらいたい。みんなが自分らしく生きられる世の中に早くなってほしい」と願っている。

 ▽取材を終えて

 「性的マイノリティー」や「LGBT」という言葉を頻繁に目にするようになったのはここ数年のことだ。一昔前は同性愛者を「気持ち悪いもの」と差別する風潮が当たり前だった。その状況が少しずつ変わっているのは確かだ。しかし、今回の園児のように、周囲から理解を得られず孤立し、苦しむ人はまだまだたくさんいる。幼少期の子どもたちが園児のような子を受け入れるには、まず大人が性的マイノリティーの人々について理解を深め、受け入れる必要があると思う。人間は肌の色から好きな食べ物まで、誰でも何かしらマイノリティーになり得る要素を持っている。彼らはその中の性自認や性的指向が少数派だっただけ。「みんなちがって、みんないい」。金子みすゞの詩のように、誰もがそれぞれのマイノリティーな面を認め合える世の中になればいい。取材を通じ改めて感じた。