優れた鉄道旅行商品を選ぶ「鉄旅(てつたび)オブザイヤー」(鉄旅オブザイヤー実行委員会主催)の第10回となる2020年度の四つの部門賞が7日発表され、20年7月の豪雨で大きな被害を受けた九州を訪れて復興を応援する旅行が2部門を獲得した。今回は新たな試みとして最高賞の「グランプリ」を、四つの部門賞の中から審査員らが決選投票で決め、21日に発表する。審査員の一人である筆者は、4部門の審査で受賞した商品にそれぞれ最高得点を付けており、推したツアーが「100%的中」。本稿で各部門の受賞商品をご紹介するとともに、どの商品がグランプリに輝くのかを予想したい。(共同通信=大塚 圭一郎)

 【鉄旅オブザイヤー】国内の鉄道旅行に贈られる賞の代表格で「鉄道旅行のアカデミー賞」と紹介されたこともある。旅行会社がその年度の10月までに催行または開催を決めた国内の鉄道旅行を対象として応募を募り、日本一となるグランプリなどの賞を選ぶ。旅行業界でつくる鉄旅オブザイヤー実行委員会が主催し、後援にはJR北海道、東日本、東海、西日本、四国、九州のJR旅客6社全てと、私鉄でつくる日本民営鉄道協会、日本旅行業協会といった鉄道・旅行業界の主要企業・団体が入っている。

 東日本大震災で落ち込んだ旅行需要の回復を目指して2011年度に始まって毎年実施。旅行会社に贈る賞は実行委員会の一次審査で候補を選び、審査員は委員長の芦原伸・日本旅行作家協会専務理事や筆者ら計11人・1団体が務めている。企画力や独創性、乗車する列車や路線の魅力度などを採点して評価している。

 一方、JR旅客6社と地元自治体が開催する大型観光企画「デスティネーションキャンペーン」(DC)が翌年度に開かれる地域への旅行企画を一般消費者から募り、「ベストアマチュア賞」を選ぶ一般部門も16年度に加わった。20年度は、鉄道に詳しいフリーアナウンサーの久野知美さん、南田裕介ホリプロマネージャー、お笑い芸人「ダーリンハニー」の吉川正洋さんの3人が最終審査員を務めた。

 ▽豪雨被害の三セク鉄道を訪問

 10回目の節目となる20年度は旅行会社からの応募が45件と、前年度の85件から半減した。20年度の応募対象となったのは旅行会社が20年10月までに催行または実施が決まっている日本国内を目的地とする企画旅行で、20年度は新型コロナウイルス流行によって企画見直しを迫られたり、催行中止に追い込まれたりしたのが響いた。

 表彰式は例年開かれている鉄道博物館(さいたま市)で21年2月3日に予定していたが、新型コロナ対策特別措置法の緊急事態宣言が首都圏などで出されていたのを受けて延期。現段階では4月21日に開催し、グランプリを発表する予定だ。

 添乗員が案内をするツアーを対象にした「エスコート部門賞」は、クラブツーリズムの東京駅を発着し2泊3日で豪雨被災地の熊本、鹿児島両県を巡る1人での参加者向けの商品「〈ひとりの贅沢(ぜいたく)〉『九州鉄道三昧〜4社共同特別企画くまもと応援編〜3日間』が選ばれた。

 この商品は20年10月以降に催行し、20年7月に九州などを襲った豪雨で大きな被害を受けて全線で運休している第三セクター、くま川鉄道(熊本県)を訪問。また、豪雨後に一部区間が不通になった肥薩おれんじ鉄道(熊本、鹿児島両県)で沿線食材を生かした料理を楽しめるレストラン列車「おれんじ食堂」に乗車して東シナ海を眺めながら夕食を楽しんだり、16年の熊本地震で被災して一部区間の不通が続く三セクの南阿蘇鉄道(熊本県)のトロッコ列車に乗車したりして復興を応援する。旅行代金は1人当たり17万9千円(観光支援事業「Go To トラベル」適用後で15万1千円)に達するが、売り上げの一部を支援金として各社に支払った。

 JR九州の人気観光列車「A列車で行こう」や「はやとの風」なども楽しめる行程で、企画担当者は「一つ一つ不可能を可能にする針穴に糸を通すような作業の積み重ねで実現した」と振り返る。

 筆者は鉄旅オブザイヤー実行委員会に送った審査表で「社会的意義が大きく、地域貢献にも資するツアーなのを高く評価しました。東京発着の2泊3日の行程で、新型コロナ感染防止対策を施しながら、よくぞこれほど多くの観光列車の乗車を組み合わせたと感心しました。ツアー企画者の労力と工夫がにじみ出ている“鉄旅の職人芸”です!」とコメントした。執筆時点で他の審査員の評価は入ってきていないため、本稿では審査員のコメントは筆者だけになることをお許しいただきたい。

 ▽JR豊肥線全線再開の起爆剤に

 個人旅行商品を対象にした「パーソナル部門賞」は、JTBの「豊肥本線に乗ろう!阿蘇・熊本」が選ばれた。熊本地震で大きな被害を受け、20年8月8日に約4年4カ月ぶりに全線が再開したJR豊肥線の利用促進と沿線観光地の活性化に向け、関西発着で旅行代金を1人当たり2万5千円から4万円と比較的手頃に設定。運転席を2階に設けることで前面展望を楽しめるようにしたJR九州の観光列車「あそぼーい!」の乗車を提案した。

 筆者は「JR九州豊肥線の全線再開は熊本地震からの復興の象徴であり、本プランは新型コロナ禍による旅行者激減に直面した熊本県・阿蘇などの沿線観光地を盛り上げる起爆剤になったと受け止めています」と評価。その上で、豊肥線全線再開時に共同通信福岡支社編集部次長として報道に携わった立場から「被災地に旅行客を送り続ける長期的視点の復興支援を続けてほしいと、地球の反対側のワシントン支局に異動した今も強く願っています」と期待を込めた。

 また、JR旅客6社と地元自治体が開催する大型観光企画「デスティネーションキャンペーン」(DC)が20年度に開催された地域を対象にした「DC部門賞」は、日本旅行の「せとうち広島デスティネーションキャンペーン JRで行く!瀬戸内スペシャル」が選出された。パンフレットではJR西日本の観光列車「ラ マル ド ボア」や「etSETOra(エトセトラ)」の乗車、広島県と愛媛県を結ぶ「瀬戸内しまなみ海道」のサイクリングといった幅広いモデルコースを提案した。

 初任地が松山支局だった筆者は「瀬戸内地方は鉄道も観光資源も豊富で、奥深い文化と歴史に包まれているためどこへ足を運ぶのか迷いますが、私は勤務先の初任地だった松山市の道後温泉を訪れることを強くお薦めします。温泉はもちろん、人も温かくて癒やされます!」と売り込んだ。

 ▽グランプリの本命は…

 それでは、まだ決まっていないグランプリにはどのツアーが輝くのか?筆者が「本命」と予想しているのが、鉄道ファンの参加を意識したツアーが対象の「鉄っちゃん部門賞」に輝いた「三セク鉄道のオリジナル印“鉄印”がもらえる『鉄印帳』付ツアー 9つの列車をツナグ!みちのく鉄道周遊」だ。

 鉄印は御朱印の鉄道版で、第三セクター鉄道等協議会(東京)に加盟する40の三セク鉄道を訪れて乗車券と記帳料(300円以上)を支払って「鉄印帳」という専用の冊子に集めていく。鉄印は各社によって図柄が異なり、手書きやスタンプ、プリントなど様々だ。40鉄道の鉄印を全て収集すると、「鉄印帳マイスターカード」を発行してもらえるというコレクター心理をくすぐる仕掛けだ。鉄印は大きな話題を呼び、専用の冊子「鉄印帳」は売り切れが続出。19年度決算で経常損益が赤字だったのは8割の32社に上り、新型コロナ禍に旅客源で総崩れの様相を呈している三セク鉄道にとって収入を補う“福音”となった。

 「鉄っちゃん部門賞」を受けたツアーは20年9月に始まり、第三セクター鉄道等協議会、読売旅行、旅行読売出版社、日本旅行が催行。旅行中に岩手県の三セク鉄道の三陸鉄道とIGRいわて銀河鉄道、秋田県の秋田内陸縦貫鉄道の鉄印を収集でき、東日本大震災で被災後に復旧を果たした三陸鉄道では社員が震災時の様子を説明するなど社会学習の要素も採り入れた。

 筆者は新型コロナ禍が追い打ちを掛けた三セクの経営環境は「非常事態」に直面しているとの危機感を抱いており、干天の慈雨となった“鉄印ブーム”に火を付けたことを評価してこのツアーに60点満点で58点というほぼ満点を付けた。筆者は「第三セクター鉄道等協議会加盟40社を巡る鉄印集めを一時的な流行に終わらせず、四国八十八カ所お遍路のように定着させ、旅行者呼び込みの柱に育つことを大いに期待しています!」とコメントした。

 ▽ベストアマチュア賞は最年少受賞

 DCが翌年度に開かれる地域への旅行を対象とし、一般個人や団体から「こんな鉄道旅行ツアーがあったらいい」という夢の企画を募集する一般部門には過去最多となる81件の応募があった。受賞者は過去最年少となる9歳(応募時点)の東浦拓斗さんで、作品名は「四国の三兄弟に会いに行く!小学生が考えた四国全県制覇の旅!!」。賞金5万円とJR協賛による記念品が贈られる。

 今回は、旅行部門に応募があったツアーを対象にした二つの特別な賞も用意された。国土交通省鉄道局長賞にはクラブツーリズムの「とどけよう元気 東日本応援企画 お座敷列車華で行く館山日帰りの旅」、「旅に出よう!日本を楽しもう」賞には小田急トラベルの「北海道から九州まで!日本列島鉄道縦断ツアー」がそれぞれ選ばれた。

鉄旅オブザイヤーのホームページはこちら

https://www.tetsutabi-award.net/

※「鉄道なにコレ!?」とは:鉄道と旅行が好きで、鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」の執筆者でもある筆者が、鉄道に関して「なにコレ!?」と驚いた体験や、意外に思われそうな話題をご紹介する連載。2019年8月に始まり、ほぼ月に1回お届けしています。ぜひご愛読ください!