厳しすぎる難民認定と、非人道的な収容が、日本の法制度と運用の実態です。連載第3回では、政府が今国会に提出した入管難民法の改正案を検討します。何を、どのように、変えようとしているのでしょうか。(共同通信編集委員=原真)

 ▽「収容長期化を解決」と法相

 「退去強制令書(国外退去処分)を受けたにもかかわらず、送還を忌避する者が後を絶たず、収容が長期化する要因ともなっている。さまざまな方策を組み合わせ、パッケージで問題解決を図る」

 上川陽子法相は今年2月19日、閣議決定した入管難民法改正案について、記者会見でこう説明した。

 出入国在留管理庁(入管庁)は、不法滞在などで国外退去が決まっても、出国を拒否する人が2020年末時点で約3100人に上り、入管施設での収容が長期化している、と主張する。

 ▽ムチとアメ

 入管庁によれば、送還を拒む人の多くは、難民認定申請を繰り返している。現行法には、難民申請中は強制送還を停止するとの規定があり、日本にとどまるために、それを乱用しているというのだ。そこで、政府案では、難民申請を同じ理由で3回以上行った場合などは、認定・不認定の結論が出る前でも、送還できるようにする。

 また新たに、飛行機内で暴れたり、大声を出したりして送還を妨害した人には、懲役1年以下の罰則を設ける。

 一方、不法滞在などで摘発された外国人が、自発的に出国すれば、再来日ができない期間を原則5年から1年に短縮し、帰国を促す。

 ムチとアメの両方を用意して、送還を徹底しようというわけだ。

 ▽収容に代わる「監理措置」

 さらに、政府案では、不法滞在者らを全員収容する原則は維持しつつ、病気などのため一時的に収容を解く「仮放免」とは別に、収容に代わる「監理措置」を導入する。入管庁幹部は「収容されていた人に、なるべく外で生活してもらう」と解説する。

 逃亡や不法就労の恐れが少ない外国人については、家族や支援団体が「監理人」となり、本人の生活状況などを入管職員に報告、本人が300万円以下の保証金を納めることなどを条件に、社会での生活を認める。ただし、国外退去処分後は就労を認めず、逃亡したら懲役1年以下の刑を科す。

 このほか、政府案では、「補完的保護対象者」という制度も新設する。難民条約上の難民とは、政治的意見などを理由に母国で迫害される恐れのある人を指すが、これらの理由に該当しなくても、迫害の恐れがあれば、補完的保護対象者に認定し、難民に準じて保護する。入管庁は、例えば、内戦を逃れてきたシリア人らが、この補完的保護対象者に当たる、と解説する。

 ▽帰国すれば処刑も

 以上が政府案のポイントだ。もし、この通りに入管難民法が改正されたら、どうなるのか。

 まず、入管庁は、難民申請を繰り返す外国人を強制送還できるようになる。

 しかし、現在の法制度の下では、何度も申請して、ようやく難民と認定された人が少なくない。さいたま市在住のイラン人モラディさん(56)も、その1人だ。

 07年、母国でビザが取りやすかった日本に脱出し、難民申請した。イスラム教からキリスト教に改宗しており、「イスラム共和制のイランに戻れば、背教者として迫害され、処刑される可能性もある」と訴えた。実際、イラン政府は近年、キリスト教徒への弾圧を強めている。

 ▽認定手続きは放置

 ところが、難民とは認められず、申請を3回、法相相手の提訴を2回重ねた末に昨年、東京高裁で勝訴した。13年がかりで難民認定され、「ただ耐える日々を過ごしてきたので、生まれ変わった気がした。一生この国で暮らしていくつもりです」と、穏やかな笑顔で話す。料理上手の妻をイランから呼び寄せ、リサイクル会社の正社員として働く。

 日本弁護士連合会によれば、10〜18年に難民と認定された人のうち、複数回申請していた人は約9%、19人に上る。モラディさんの代理人の浦城知子弁護士は、政府案では、モラディさんと同じく保護されるべき難民が、送還される恐れがある、と訴える。「他国なら難民と認められる人が、日本では認定されていないのに、そこは改正されない」。国際的に批判されている難民認定手続きの厳しさが放置されることに、浦城弁護士は強い危機感を抱く。

 ▽審査改善すれば乱用防止に

 難民申請の繰り返しを防ぐには、真の難民を強制送還しかねない法改正ではなく、難民審査の在り方を抜本的に改善するべきだ、と難民支援者らは異口同音に語る。難民と的確に認定されるようになれば、何度も申請する必要はなくなるからだ。法改正をしなくても、入管庁の担当職員を増員することなどによって、申請から認定・不認定の処分が出るまでに平均2年以上(審査請求の結果が出るまでなら計4年4カ月余り)かかっている審査を迅速化すれば、就労目的などで申請するメリットはなくなり、乱用防止にもつながる、と指摘されている。

 ▽日本人と結婚しても

 また、政府案が可決されれば、送還に応じない外国人は、刑罰を科されることになる。

 だが、帰国を拒んでいるのは、難民申請者や、日本に家族のいる人、日本に長く住み続けている人が多い。中には、日本で生まれ育った子どもや若者もいる。

 アフリカ出身で30代の男性ナナさん(仮名)は13年に来日した。民族間の紛争を理由に、難民認定申請しようとしたところ、到着したばかりの羽田空港で収容された。

 その後、仮放免中に知り合った日本人女性と結婚しても、在留は許可されなかった。19年には、難民申請が退けられるのと同時に、成田空港に連行され、旅客機に乗せられた。入管職員がナナさんを押さえつけているのを見た機長が、飛行機には乗せられないと判断、かろうじて強制送還を免れた。ナナさんは入管職員から暴行されたとして、国家賠償などを求め裁判中だ。

 現在は仮放免で、茨城県に住んでいるが、入管庁はナナさんを計3回、約4年間も東京出入国在留管理局や東日本入国管理センターに収容し、帰国を迫った。「私にとって一番重要なのは安全。母国の民族対立は続いており、帰国することはできない。とはいえ、収容所では明日どうなるかも分からず、とてもとてもみじめで、苦痛だった」と嘆く。

 ▽「差別を助長」

 ナナさんを支援する大橋毅弁護士によると、政府案が成立すれば、ナナさんは送還妨害の罪に問われかねないが、服役後は再び収容される可能性が大きい。日本人なら刑が終われば社会復帰できるのに、ナナさんは入管施設と刑務所を行ったり来たりし続ける恐れもある。大橋弁護士は「政府案は、日本に保護を求めている人を、社会にとって危険であるかのように扱い、差別を助長している」と批判する。

 そもそも、国外退去処分になった外国人のほとんどは、自主的に出国している。自費で帰ろうとしない人は、入管庁が国費でチャーター機などを用意し、文字通り強制送還している(注3)。何としても日本に残ろうとしているナナさんのような人は、ごくわずかだ。

 ▽在留特別許可を

 在日外国人の実情に詳しい国士舘大の鈴木江理子教授(社会学)は「強制送還を拒み、長期収容されている人の多くは、難民申請しているか、長年日本で暮らして生活基盤ができており、帰国できない事情がある。罰則を設けるなど、力ずくで強制送還しようとしても、問題は解決しない。既に日本が居場所になっている人には、在留特別許可をするべきだ」と提言する。

 (注3)入管庁によれば、2019年に国外退去処分になった外国人は9218人で、送還されたのは9597人。送還されたうち、自費出国が93・4%を占め、国費送還は5・4%にとどまる。国外退去処分より送還の方が人数が多いのは、処分の翌年以降に出国することもあるためだ。年ごとの単純比較はできないものの、過去10年間の平均では、処分を受けた人の97・3%が送還に応じた計算になる。入管職員が付き添ったり、チャーター機を仕立てたりすれば、文字通り強制送還できるはずだが、入管庁幹部は「送還忌避者全てについて、チャーター機などで送還するのは、予算的にも人員的にも困難」と釈明する。

(続く)

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