【汐留鉄道俱楽部】東武鉄道の蒸気機関車(SL)の“進化”が止まらない。栃木県の日光地区でSL列車「大樹」の運転が始まったのは2017年。20年12月からSLが2両に増え、大樹が2編成走る日には、SL同士のすれ違いシーンが実現した。4周年を迎えた21年夏以降は大樹の毎日運行、重連運転の実施など、SLが2両あればこその楽しみを立て続けに編み出してくれた。思いがけない副産物として、日光地区の外で回送の客車列車が走るようになり、とてもフォトジェニックな存在だ。

 

 「日光地区の外」に注目するのには理由がある。大樹が走る日光地区の線路は豊かな自然に囲まれているものの、がけや森林、建物が線路際まで迫る場所が多く、のびのびとした鉄道写真を撮れる場所は意外と限られている。その点、下今市以南の線路は田園地帯を突っ走るので、沿線には視界が開けた場所が多い。

 

 もう一つ理由がある。以前はSLが検査に入ると、ディーゼル機関車(DL)が客車を引っ張る「DL大樹」という列車がある程度のペースで走っていた。ところが、SLが2両に増えてからDL大樹はめっきり減ってきた。回送列車のDLはほぼ大樹のヘッドマークを取り付けたまま走るので、見かけはDL大樹と同じ編成だ。

 

 なぜ回送列車が登場したのか。鉄道ファンに見せるためではない。大樹に使われるSLとDLの基地である下今市機関区は、日光線と鬼怒川線が分岐する下今市駅に隣接しており、大樹の客車も機関区の前にある留置線を拠点にしている。大樹が2編成とも連日で走るときには、客車は2編成とも下今市で宿泊する。ところが、1編成だけが走る日は、走らない方の1編成が昼間に留置線を独占したままだと、他の電車が休憩できなくなってしまう。

 

 代わりの留置線を探そうにも、日光は日本を代表する観光地とあって列車の本数が多く、下今市の近くの留置線は空いていない。そこで白羽の矢が立ったのが、下今市から約40キロ離れた栃木市の新栃木と、これもまた約77キロ離れた埼玉県久喜市の南栗橋だ。それぞれ車両基地があり、しばらく使われない客車はどちらかに回送されている。距離を考えれば新栃木を定宿としたいが、車両整備など何らかの事情があるときにはSL研修庫のある南栗橋まで足を延ばすようだ。

 

 回送列車は時刻表に載らないから、見たければ運転日を予想してヤマを張るしかない。筆者は新栃木から下今市に向かう回送列車を撮りに行ったつもりが、その時に乗っていた電車から南栗橋で待機する回送列車を見かけて撮影場所を変えた経験がある。同じことを考える人は多いようで、「たぶん走るだろう」という日には、沿線で三脚にカメラを構えている人があちこちに点在している。

 

 「こういう列車を走らせよう」と狙ったわけでなく、やむを得ない事情で登場した回送列車。まるで、DLファンが多いことを確かめる実証試験のように見えてしまう。東武にはDLによる夜行ツアー列車を運転した実績がある。ひょうたんから駒の言葉どおり、この人気を利用してまた新しい企画が生まれるのではないかと思うとわくわくする。

 

  ☆共同通信・寺尾敦史(てらお・あつし)映像音声部