中国新疆ウイグル自治区では、イスラム教徒の施設への大規模収容などの人権弾圧が指摘されている。欧米などに逃れたウイグルの人々が相次いで証言してきた。中国政府は弾圧の存在自体を否定し続けているが、日本でも新たに2人のウイグルの女性が取材に応じ、いずれも「兄の行方が分からない」と話す。中国の外にいても、顔を出して実名で訴えるのはリスクを伴う。本国にいる家族が危険にさらされる恐れがあるためで、彼女たちも治安当局からの圧力めいた動きを感じたという。それでも声を上げるのは「大切な家族を取り戻すために私が唯一できることだから」。(共同通信=上松亮介)

 ▽1日何回も死ぬような感覚
 千葉市に住むグリニサ・アブドレヒミさん(41)は、兄アブドハリリ・アブドレヒミさん(48)の解放を求めている。昨年6月に中国で警察に逮捕され、消息不明になったという。「兄のことを考えると、仕事中でも自分が何をしているのか分からなくなる。1日に何回も死ぬような…。言葉で言い表せない感情です」と涙を浮かべた。
 兄は1999年から千葉大でウイグル語の機械翻訳などを研究し、2010年に帰国した。突然の消息不明に、グリニサさんは困惑している。「政治活動や独立運動、逮捕されるようなことには関わらず、ただ研究者として生きてきた兄がなぜ?」。今年3月には兄の裁判が開かれたとも伝え聞いたが、罪名すら分からないままだ。
 兄の消息を確認するため、グリニサさんは仕事の傍ら時間を見つけては東京都港区の中国大使館前に何度も足を運んだ。ファクスや電話でも繰り返し問い合わせたが、大使館からは「中国国内のことは分からない」「新疆の警察に届け出ればいい」と突き放され続けた。
 兄との関連は不明だが、中国の治安当局者と思われる人物からの連絡もあった。あるとき、通信アプリ「微信(ウィーチャット)」にウイグル語で見知らぬ男がメッセージを送ってきた。男は「家族と連絡を取らせてやる」と話し、ほかの在日ウイグルの人々に関する情報を提供するよう求めたという。
 グリニサさんはロシアのウクライナ侵攻と中国新疆ウイグル自治区の状況を重ね、こう話した。「武器を手に取れるなら私は戦いたい。ウクライナの人はまだいい。ウイグル人はそれすらもできない状況になっているんです」

 

 ▽中国政府は一貫して「真っ赤なうそ」
 ウイグルの収容に関する証言は2018年以降、欧米諸国に亡命した人々を中心に広がった。日本国内ではNPO法人「日本ウイグル協会」の副会長、レテプ・アフメットさん(45)が19年に訴え出たのを皮切りに証言が続く。共同通信の取材にはこれまで計9人が応じた。
 中国政府はこうした訴えに対し、一貫して「真っ赤なうそ」などと徹底的に非難。収容施設の存在については、過激派対策や職業訓練を施すことで「再教育するため」と説明してきた。今年2月にあった北京五輪の開会式では、国際社会からの批判をかわすためか、ウイグル出身の選手を聖火リレーの最終走者に選び、融和を演出した。
 日本でも在大阪中国総領事館が4月、新疆ウイグル自治区の魅力を発信する日本人向けのイベントを開催した。総領事館の公式ウェブサイトは「ここ数年、新疆をめぐるデマやうそが後を絶たず、大きな誤解を招き、新疆や中国のイメージを大きく損なった」などと記載している。

 ▽現地の家族から「行動を慎め」と忠告
 首都圏に住むレイハンさん(42)は、中国政府の姿勢について「平和の祭典を開催する一方でウイグル人のごく普通の暮らしを奪ってきた」と怒りをあらわにする。
 故郷の自治区カシュガルに暮らす兄エイサジャン・アブレットさん(46)は中学校で教師として働いていたが、2017年6月9日に出勤したまま行方不明に。約1年後、カシュガル近郊の収容施設にいることが漏れ伝わってきた。家族が面会できたのはさらにその2年後で、それも施設内のモニターを介してだったという。
 レイハンさんは2019年、ツイッターに兄の解放を訴える動画を投稿したところ、現地の家族から連絡があった。中国当局の圧力を受けたとみられ、さらなる行動を慎むよう忠告されたという。当局が自分の動向を把握していることに恐怖を覚えた。それでも訴えるのは「これはいわば私の闘いです。真実を話すことが兄のために私が唯一できることだから」と話した。

 ▽「あなたにも子どもがいるでしょう」
 欧米諸国は中国に対する批判を強めているが、東京大大学院の阿古智子教授(現代中国)はその効果は出ていないと語る。「ウイグルの状況が好転したとは思えない」。ウイグルの人々が危険を冒して証言しているのは「変わらない現状を踏まえた苦渋の選択ではないか」とみている。
 一方で、中国側が批判をかわすため「情報戦」に躍起になっていることもうかがえるという。一例として、日本でもオンライン会議などを開催し、日本人の中国研究者に弾圧の存在を否定させる発表をさせたと指摘する。
 阿古さん自身も以前、研究で炭鉱労働者の現地調査を行った際、当局関係者から「あなたにも子どもがいるでしょう」と言われた。家族の存在を引き合いに当事者に圧力を加えるのは中国当局の一般的な手法だと話し、ウイグルの人々を思いやった。「名前や顔を出しての訴えは相当な犠牲を払う。家族の消息が分からず訴え出たくても、ためらいを感じている在日ウイグル人ははるかに多いはずだ」