菅内閣の支持率は、新型コロナウイルス感染者数の増加と反比例するように下落してきた。菅義偉首相はどんなタイプの政治家か、与党とはどういう関係なのか。長く永田町を取材してきた政治ジャーナリストの後藤謙次氏に聞いた。

 ―菅政権は安倍晋三前首相の突然の退陣を受け、2020年9月に発足した。

 急だったため「次の自民党総裁」選びは消極的選択にならざるを得なかった。最大派閥細田派の事実上のオーナーである安倍氏と、政権ナンバー2の麻生太郎副総理が納得できる据わりのいい人となると、政策の継続性から見ても、安倍政権を官房長官として支えてきた菅義偉氏しか選択肢はなかった。

 ―自民党総裁選では圧倒的な強さを見せた。

 当時の菅氏は自民党の二階俊博幹事長、林幹雄幹事長代理、森山裕国対委員長と定期的に集まり、政権や国会の運営方針を擦り合わせていた。

安倍官邸とは別の、政府与党の司令塔とも言えるこのシステムは、菅氏が「総理総裁」を目指す際にうまく作動し、総裁選で勝利の流れをつくる大きな原動力となった。

 ―内閣発足当初は支持率60%台が続き、安定政権としてスタートを切った。

 かつて中曽根康弘元首相も党内基盤が弱かったが、世論の追い風を利用して政権を維持しようとした。菅首相も世論調査の内閣支持率には非常に敏感だ。まさにそこが自らの生命線だとよく分かっている。総務省官僚の接待問題でも関係者の国会招致を容認し、総務省幹部を更迭した。世論を見ながら対応する政治というのが、菅政権の特徴と言えるだろう。

 ―政策的にはどんなタイプか。

 歴代首相は、大きな国家像を前面に出して政策に落とし込む「総論型」と、個別政策の実現を追求する「各論型」に分類できる。菅氏は各論型だ。各論型の首相には消費税を導入した竹下登氏、郵政民営化の小泉純一郎氏らがいるが、いずれも痛みを伴う大改革だった。

 ―2人に比べると、菅首相の看板政策は小粒な感じがする。

 首相が掲げたのはデジタル庁設置や不妊治療の公的支援。携帯電話料金の値下げなどは、本来なら民間で対応する話だ。スケール感が違い、「理念なき宰相」という、ありがたくないレッテルを貼られてしまった。いきなり総裁候補に担ぎ出され、準備が間に合わなかったのだろう。

 ―内閣支持率は一時30%台に落ち込むなど苦闘している。

 各論の一つとして取り組んだコロナ対策で、なかなか事態を切り開けないからだ。昨年末、多くの国民は早く緊急事態宣言を発令した方がいいと感じていたのに、首相は収まると思った。結局、年明けに首都圏知事の要請を受ける形で宣言発令に追い込まれた。

 ―3月の緊急事態宣言解除も、首都圏の感染が再び拡大に転じる中での決定だった。

 首相と世の中のスピード感が違うので、ちぐはぐな状況が生まれてしまう。さらに、緊急事態宣言前には会食などを通じて入ってきた外部の情報が閉ざされてしまった。面会相手は厚生労働省と外務省が突出している。霞が関だけ、それも一部を相手にした政治に陥っているのではないか。

 ―菅首相の政権運営を「菅一存」と評しているが、どんな見方なのか。

 全てを自分が知っていなければ納得しないという首相の手法が、ものを言い出せない雰囲気を政権内につくり、危うさを招来してしまっている。政権運営は良く言えばユニークだが、悪く言えば組織というよりは個人プレー。自らプレーヤーとしての比率が大きいプレーイングマネジャー的な首相だ。

 ―その政治手法はどこから来ているのだろう。

 菅氏は孤高の政治家。秋田から東京に出てきて徒手空拳、刻苦勉励、岩に爪を立てるようにして人生行路を歩んできた。信じた道、わが道を行く。群れるのは性に合わない。徒党を組まない成功体験があり、一人で政治の荒波を乗り越えてきたから、これまで側近やブレーンは要らなかった。

 ―首相になると今まで通りにはいかないのか。

 あらゆる情報をまんべんなく耳に入れ、絶えず高い見地から判断するのが首相の仕事。そのギャップで、非常に苦しくなってきている。

 やっぱり派閥を持たないという弱点は、いかんともしがたい。首相は自民党内の無派閥の議員集団に支えられているが、無派閥というのはいざという時、親分のために命を懸ける人がいない。

 ―安倍政権当時は、情報収集や危機管理にたけた「強い官房長官」と見られていたはずだが。

 役所や組織を使った危機管理は命令一下できるが、政治家としての危機管理にはこれまであまり直面してこなかったのではないか。派閥内で総裁候補になるためにライバルとしのぎを削ったというような経験はない。

 ―とは言っても党内に人脈を張り巡らしている。

 当選同期の山口泰明選対委員長、佐藤勉総務会長といった人たちが心のよりどころ。横のつながりだ。その中で首相は富士山みたいな独立峰。官邸の中でも屹立(きつりつ)していて、周りが情報を入れにくい雰囲気が出てしまう。首相にしてみれば、「援軍来らず」の心境なんだろう。

 ―衆院解散の判断が菅政権の今後を左右する。

 就任早々の内閣支持率が高かった時に自民党内では解散期待が膨らんだものの、首相は一顧だにしなかった。結果を出して選挙に臨むという「菅流」を貫いた。ただ、衆院議員の任期満了は残り半年に迫り、解散権の行使はますます難しくなっている。

 米ワシントンでの同行記者との懇談で「コロナ対策をしっかりやることが大前提」と語っているが、あと半年以内にそれを実現するのは相当困難だ。無派閥故に解散権を行使するには安倍、麻生、二階の各氏や公明党の了解を得る必要があり、ハードルは高い。東京五輪・パラリンピックもあり、結局は任期満了に限りなく近づきつつある。

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 ごとう・けんじ 49年東京生まれ。早大卒。政治ジャーナリスト。共同通信社の政治部長、編集局長を務めた。著書に「ドキュメント 平成政治史1〜3」など。

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