岸田新政権が発足した。岸田文雄首相は4日夜の記者会見で「私の内閣は、新時代を共につくる『共創内閣』だ」と胸を張った。だが、多くの人は「安倍・麻生傀儡(かいらい)」内閣と受け止めただろう。「長老支配」「論功行賞」との評がつきまとう今回の人事。首相に先を見据えた深謀遠慮はあるのだろうか。(共同通信=内田恭司)

 ▽外された意中ポスト

 「安倍さんにとっては50点くらいではないか」。安倍晋三元首相に近い自民党中堅議員は閣僚、党役員の布陣を見て、意外にも世論とは違った見方を示した。

 内閣の要の官房長官に、安倍氏の出身派閥である細田派(清和政策研究会)の松野博一氏が就任。実弟の岸信夫防衛相は留任し、側近の萩生田光一氏は経済産業相として横滑りするなど、細田派からは最多の4人が入閣した。

 麻生太郎前副総理兼財務相が率いる麻生派も、麻生氏の後任財務相に鈴木俊一氏、経済再生相に山際大志郎氏が就くなど、3人が入っている。

 党役員の方はどうか。枢要ポストは幹事長など「党四役」と国対委員長だが、幹事長には甘利明氏、総務会長は福田達夫氏、政調会長と国対委員長には、高市早苗氏と高木毅氏がそれぞれ就任した。

 甘利氏は安倍、麻生両氏と関係が深く、高市氏は安倍氏が総裁選で強力に支援した。福田氏と高木氏はそろって細田派の所属だ。こうして見ると、新政権の人事は安倍氏に十分な配慮をしているように見える。

 だが、なぜ「50点」なのか。先の中堅議員によると、安倍氏にとって真の意中ポストは外された上に、「細田派に手を突っ込んだ人事になった」からだという。

 ▽「福田派」再興の動き?

 安倍氏は官房長官に萩生田氏、幹事長に高市氏の起用を望んだが、いずれも実現しなかった。松野氏は細田派とはいえ、安倍氏とは距離があり、今回の総裁選でも高市氏ではなく、当初から岸田首相を支持した。高木氏も同様だ。

 安倍氏が最も不快に感じたのは福田氏の抜擢(ばってき)だろう。かつて安倍氏と対立した福田康夫元首相の長男で、派内では「清和会のプリンス」と目される。

 総裁選では、党内の衆院当選3回以下の若手による「党風刷新の会」の代表世話人として、安倍政権への批判を交えて党改革を訴えた。しかも総裁選では岸田氏に投票した。

 事務の官房副長官人事にも失望したに違いない。当初は第2次安倍政権で側近の官邸官僚としてならした北村滋・前国家安全保障局長の起用が検討されたが、射止めたのは、福田康夫首相の秘書官を務めた栗生俊一元警察庁長官だったのだ。

 こうしてみると、岸田首相は、細田、麻生両派のラインを政権基盤の主軸と定め、双方から主要な人材を要所に配置。同時に、細田派からは安倍氏と距離のある議員も取り込み、安倍氏の影響力を減じようとしたとも受け取れる。同派内からは早速、「福田派再興に向けた動きだ」(若手)との声も出る。

 ▽「10年は宏池会政権を」

 「大宏池会」構想の枠組みも気になるところだ。同構想は、元来は同根の岸田派と麻生派、谷垣グループが再結集し、「保守本流の名門派閥」である宏池会を再興する構想だ。麻生氏が提唱し、岸田派として宏池会を継承した岸田氏も理解を示す。合流すれば100人超の規模になり、清和会に張り合うが、これまで実現してこなかった。

 日本の戦後政治は、大ざっぱに言えば、経済重視で国民生活に立脚する路線と、国力向上と主権の強化を目指す路線が二大潮流となってきた。

 それは、そのまま宏池会と清和会の姿に重なる。麻生氏らにしてみれば、リベラルと保守の二大派閥が交互に政権を担っていくのが理想であり、それ故に宏池会の再結集が必要というわけだ。

 この枠組みで自民党の新執行部をみると、副総裁に就いた麻生氏と、甘利氏、遠藤氏、河野氏が大宏池会系であり、党運営のラインを形成していることに気付く。内閣では岸田首相、鈴木財務相、金子恭之総務相、山際経済再生相ら7人がそうだ。

 こうした布陣を練るにあたっては、麻生氏が深く関わっているとみていい。党は麻生、甘利両氏で切り盛りして目前の衆院選に勝利し、政権基盤を安定させた上で、来年夏の参院選も勝利を確実にする。大宏池会結成はその先にあるのだろう。

 参院選に勝てば向こう3年間、衆参両院の国政選挙がない「黄金の期間」(岸田派ベテラン議員)が訪れる。岸田首相は4年以上の長期政権を見据えながら、令和版「所得倍増計画」や「デジタル田園都市構想」など、目玉政策の実現にまい進できる。所得倍増計画は池田勇人、田園都市構想は大平正芳と、宏池会出身の首相の看板政策だ。

 大宏池会の枠組みで見れば、河野氏に加え、林芳正元文部科学相という有力な「ポスト岸田」候補もいる。ベテラン議員は「30年ぶりに宏池会政権が誕生した。宏池会で10年は政権を担い、日本にもリベラル政治を定着させたい」と意気込む。

 ▽巻き返しを狙う安倍氏

 だが、実際の政治はそんな思惑通りに進むだろうか。いくら刷新感を出し、理想を掲げてみたところで、安倍氏の影響力は残っており、麻生、甘利両氏が政権運営の中核となることと相まって、岸田政権が「3A支配」に見えるのは仕方がなかろう。何も変わらないと有権者に思われれば、衆院選では途端に逆風が吹きかねない。

 安倍氏の動きにも目配せが必要だ。政権運営の主導権を取り戻すために、安倍氏は巻き返しを狙うだろう。総裁選での高市氏善戦は、安倍氏を支持する保守勢力の根強さを見せつけた。

 衆院選で保守系が勢力を増やせば、安倍氏の発言力は増す。岸田首相は保守系が求める政策を推進しなければ、政権を揺さぶられるというわけだ。

 安倍氏は、アベノミクスの継承はもとより、日米豪印4カ国による「インド太平洋構想」や、敵基地攻撃能力の保持の着実な推進を求めている。何よりも憲法改正は、安倍政権で実現できなかった積み残し課題の最たるものだ。

 対韓強硬姿勢の堅持、旧宮家の皇族復帰、選択的夫婦別姓の阻止など、保守系が求める政策課題は多い。背後には日本会議や神道政治連盟といった「保守主義団体」(自民党選対関係者)が存在する。仏教やキリスト教系の一部の新興宗教団体などもそうだ。

 これらの団体は憲法や天皇制、歴史認識などで主張が重なる部分が多く、自民党のコアな支持層となっている。総裁選で基盤固めをした勢いで、次期衆院選と来夏の参院選を通じて勢力を伸ばし、自らの政策の推進を目指すのが保守勢力の狙いだ。

 ▽よもやの政界再編を警戒

 総裁選で、負け組となった菅義偉前首相はどう動くだろうか。河野太郎前行政改革担当相を党執行部に取り込まれたとはいえ、衆院選で小泉進次郎前環境相、石破茂元幹事長の「小石河連合」が活躍すれば、岸田首相もむげにできない。河野氏が総裁選の党員・党友投票で、37都道府県で1位を取った実績はやはり大きい。

 首相は衆院選について「19日公示、31日投開票」という最短日程を選んだ。新型コロナウイルス感染「第6波」への懸念や、中国巨大企業の債務リスクを起因とする国内外の経済情勢悪化への不安があったのは間違いない。

 「コロナとの共生」に失敗し、経済再生にてこずれば、内閣支持率は低下して菅内閣と同じ道を歩み、参院選を前に政局にならないとも限らない。

 先の岸田派ベテラン議員は「菅氏は勉強会をつくると言っている。何かあれば小石河連合を担ぐつもりだ。よもや政界再編を仕掛けることはないだろうが、注意は必要だ」と述べ、菅氏への警戒感を隠さない。

 若宮健嗣万博相と堀内詔子五輪相には、菅氏とパイプのある日本維新の会と、国民民主党との接点を持つ小池百合子都知事をけん制する役割もあるという。

 ▽政権の成否は「聞く耳」に

 岸田派と麻生派、旧竹下派、細田派内の親岸田氏勢力を支持基盤とし、岸田、麻生両派の政策通の若手を多数登用して大宏池会の枠組みを固め、長期政権を目指す岸田首相。一方、安倍氏の政治力はあなどれず、菅氏も復権への闘志を隠さない。

 はたして首相は政権を軌道に乗せることができるのか。会見で首相は「国民の信任を背景に、信頼と共感の政治を動かしていく」と述べた。安倍長期政権と菅政権を通じ、自民党が失っていった美徳を取り戻そうと言っているのだ。コロナ対策や経済再生を着実に進めるのは当然だ。「聞く耳」を持って、国民からから信頼され「共創社会」をつくっていくことができるか。岸田政権の成否は、まさにこの一点にかかっている。

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 47NEWS衆院選特集「衆院選2021」特別編 岸田内閣閣僚の横顔

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