ロシアによるウクライナ侵攻は、日本にも安全保障の確保という重大な課題を突き付けた。岸田文雄首相は米欧諸国と共にロシアと真正面から対峙する道を選んだが、中長期的な展望は見通せない。将来を見据えた首相の決意と指導力が問われている。(共同通信編集委員 内田恭司)

 ▽娘への制裁に「プーチンは激怒」

 「国際社会と連携して、ロシアに対して強固な制裁を講ずる」。松野博一官房長官は、ロシアへの追加制裁を閣議了解した12日の記者会見で述べた。

 7日の先進7カ国(G7)首脳声明を踏まえ、ロシアの関係者計398人の資産凍結などを盛り込んだ措置には、プーチン大統領の2人の娘も含まれていた。

 「プーチンは激怒しただろう。岸田首相は完全に舵を切った。日本も『新冷戦』下に入ったと言っていい」。外務省幹部は話す。首相がここまで思い切った理由を、幹部は「米国の強い要請もあったが、ドイツの劇的な方針転換が決定的だった」と説明する。

 日本と同じ敗戦国として平和主義の道を歩んだドイツがウクライナへの軍事支援を明確にし、2月末には軍備増強の方針も打ち出した。

 中国や北朝鮮の脅威を抱える日本としては見逃せない変化だった。それも左派主導のショルツ政権が踏み切ったことへの驚きは大きかったという。

 「日本の平和と安全のためには、米国や欧州との連携を強化し、ロシアと対決していくしかない。最終的に官邸で方針を確認した」。幹部が語った。

 ▽「平和秩序を守る正念場」

 実際のところ、日本は即座に米欧との結束強化に動いた。侵攻から1カ月の3月24日、ベルギーで開かれたG7首脳会合に岸田首相が出席。林芳正外相は、その後の北大西洋条約機構(NATO)の外相会合にも参加した。

 経済制裁では、ロシア中央銀行の資産凍結や、国際的な資金決済網からの排除、最恵国待遇の撤回といった厳しい措置を次々と決定し、米欧にほぼ追随した。外交官の日本追放、ウクライナへの防衛装備品供与にも踏み切った。

 5月下旬にはバイデン米大統領を日本に迎え、強固な日米同盟をアピールする。プーチン氏の「核の脅し」を念頭に、両首脳が被爆地の広島か長崎を訪れる構想もある。

 防衛力強化の面では、国家安全保障戦略や防衛計画大綱など3文書の見直しに着手。5・4兆円と過去最大を更新した防衛費は、さらに増加する見通しだ。

 自民党の防衛相経験者は「バイデン氏は、民主主義と権威主義の戦いは長い戦いになると結束を呼びかけた。日本もコアメンバーとして勝ち抜くしかない」と強調する。

 首相は4月8日の記者会見で「非道な侵略を終わらせ、平和秩序を守るための正念場だ。ロシアによる暴挙を決して許さず、日本がウクライナと共にあることを断固たる行動で示していく」と述べ、国民に理解と協力を求めた。

 ▽懸念は米国内の深まる分断

 しかし、行く先には難題が待ち受ける。一つは中国の動向だ。習近平国家主席とプーチン氏は2月4日北京で会談し、「無制限の協力」を確認した共同声明を発表した。両国間で天然ガスや食料、貿易などを巡る15もの経済協力文書も交換した。

 アジアやアフリカ、中南米諸国の動きも読みにくい。国連人権理事会からロシアの追放を決めた4月7日の緊急会合では、米欧日など93カ国が賛成したのに対し、中国やベトナムなど24カ国が反対し、インド、ブラジル、エジプトなど58カ国が棄権した。

 米欧日は「対立のエスカレートは避けながら、制裁でロシアを追い込み、体制を変革させるか、交渉の席に着かせるシナリオを描いている」(外務省幹部)という。

 だが、実際は世界が三分されるような国際情勢の中、中国がロシアを支援するだけでなく、「第3の勢力」への影響力を増せば、米欧日が押し込まれる展開はあり得る。

 深まる国内の分断で政治の機能不全が指摘される米国が、この先も民主主義陣営の中核として中ロに対抗していけるのかとの不安もある。

 大統領選はわずか2年半後だ。バイデン・ファミリーによるウクライナ疑惑が再燃したり、共和党のトランプ前大統領が再選したりすれば、政策の不透明さは増す。

 米国際政治学者のイアン・ブレマー氏はウクライナ侵攻後、朝日新聞紙上で、ロシアや中国の脅威に直面するNATO諸国や、日本などアジアの同盟国に対して、米国に依存していくことは「より多くの不確実性を生み出す」と警鐘を鳴らした。

 ▽来年はG7議長国に

 岸田政権はどうするのか。一度どこかで立ち止まり、日本の針路はこれでいいのか問い直すのだろうか。ただ確実に言えることは、日本にとって核で威嚇までするロシアと融和する選択肢はありえないし、米国と欧州も同じだろうということだ。

 そうであれば、「新冷戦」の終結が何年後なのかも分からない過渡期の間、米欧日がいかに分断されることなく結束を保つことができるかが、当面の課題になってくる。

 国連を中心とした国際世論の形成やウクライナ支援の呼びかけ、ロシアによる「戦争犯罪」の追及もさることながら、経済的優位性の確保や経済安全保障の推進も必要だ。ロシアが常任理事国として拒否権の行使を続ける国連安全保障理事会の改革も訴えていく必要がある。

 駐米大使を経験した外務省OBは「米国が困難を抱えていれば、同じ民主主義の国として支えていくことが、日本にとってのベターな選択になる」と話す。

 日本は来年、G7議長国として首脳会議(サミット)を開催する。今年6月のドイツサミットはロシアとの対決一色になるのは確実だ。流れを引き継ぐ日本の役割は大きい。どのように結束を強めていくのか、構想力が問われることになる。