大阪を本拠地とする日本維新の会。参院選では「全国政党化」を目標に掲げて臨み、立憲民主党を約100万票上回る野党最多の比例票を獲得した。一方で、選挙区での当選は神奈川、大阪、兵庫のみ。最重点区と位置付けた東京や京都では、「二枚看板」の松井一郎代表(大阪市長)と吉村洋文副代表(大阪府知事)ら党幹部を集中投入したものの、他の野党候補に競り負けた。「限界を示した」との指摘も上がるが、実態はどうだったのか。維新の選挙戦略を振り返り、今後を占ってみる。(共同通信=広山哲男、木村直登)

 ▽「不毛の地」でも票掘り起こし

 6月4日、京都市のJR京都駅前。維新の馬場伸幸共同代表の横でマイクを握った歌手の中条きよし氏はこう訴えて声を張り上げた。「生きている限り命かけられます。チャンスをください」。この日の演説会で一番の盛り上がり。駅に向かおうとしていた女性もスマートフォンで写真を撮り、演説に聞き入っていた。
 1週間後の6月11日、長崎市中心部。元陸上選手の松野明美氏がランニングウエア姿でビラを配る姿に、2人組の女子生徒が興奮した様子で足を止めた。松野氏はこの日、福岡市のJR博多駅前でも演説。軽快なトークで聴衆の笑いを誘った。

 維新は全国的に知名度の高い中条氏や松野氏のほか、元東京都知事の猪瀬直樹氏、元プロ野球選手でスポーツライターとして活躍した青島健太氏ら26人を比例代表で擁立し、8議席を得た。比例の得票率を昨年の衆院選と比べると、37都府県で上昇する結果に。3ポイント以上増えたのは計9県で、山梨の7・5ポイント上昇がトップ、秋田で5・4ポイント、熊本で3・9ポイントと続いた。山梨、秋田は維新にとって地方組織が存在しない「不毛の地」。だが維新は、元山梨県知事の後藤斎氏、元秋田放送アナウンサーの松浦大悟氏と、それぞれの県内ではよく知られる候補者を立てていた。
 「後藤さんと改革マインドの維新との相性が良かった。自民党と立民が強い地域で第3の選択肢を示せた」(後藤氏陣営)、「今回の選挙を受け、維新から地方議員になりたいという若手が集まってきている」(松浦氏陣営)。後藤、松浦両氏は当選できなかったものの、両陣営の関係者は「想像以上に比例の票が出た」と驚きを隠さなかった。
 維新はほかにも、「地元に足場がある」(松井代表)各地の議員経験者らを比例候補として積極的に擁立。自民党に比べて地力が乏しい弱点をこうした候補で補うとともに、全国的に知名度のある候補が街頭で改革メッセージを訴えて有権者を引きつける戦略を描いた。維新関係者は「知名度と足腰の片方が欠けてもだめ。(比例候補が当選するには)両方が必要だった」と振り返る。

 ▽「どうすんねん」続く誤算

 維新は3月27日、党大会で東京、神奈川、京都、大阪、兵庫を「最重点選挙区」と明記した活動方針を採択した。松井氏らは、参院選公示前からこれらの選挙区で支持拡大に奔走。しかし、5月20日に最初の誤算が起きた。れいわ新選組の山本太郎代表が東京選挙区から立候補すると表明したのだ。山本氏は、それまでどの選挙区から出馬するか明言を避けていた。このため出馬の可能性がささやかれていた神奈川や兵庫などで当落線上にあるとみられる候補を抱える各党は、戦々恐々としていた。
 「どうすんねん、これ?」。記者団から山本氏出馬の受け止めを問われた松井氏は、失望感をあらわにした。東京選挙区の改選数は6。松井氏は指を一つずつ折りながら「自民の現職と立民の蓮舫さんは確定やろ。公明党も確定。(2020年の)都知事選であれだけ(約65万票)得票した山本さんもか。あと二つしか残ってないやろ…」とつぶやき、厳しい表情を見せた。結果は山本氏が56万票余りを得て6位で当選。維新候補は約3万5千票差で次点となった。
 東京以上に熾烈を極めたのが、改選数2の京都選挙区だ。自民新人の吉井彰氏、5期目を狙う立民現職の福山哲郎氏、維新新人の楠井祐子氏と、事実上の三つどもえの戦いとなり、報道各社は連日、「激しく競り合う」「横一線」と僅差の情勢を報じていた。
 松井氏は京都での街頭演説で、岸田文雄首相をこき下ろした。岸田氏が電気料金の高騰を防げなかったとして「聞く耳はあるが(原発再稼働を)決断しない」と訴え、大阪市では夏場の水道料金減免を図るという「維新政治」の実績をアピール。聴衆の受け止めは好意的で、陣営は手応えを感じていた。「演説を聞いて、京都も大阪みたいになってくれたらいいなと思った」と語る20代女性もいた。

 維新は、国政選挙では選挙戦後半に支持が伸びる傾向が見られる。開票日が2日後に迫った8日は『二枚看板』がそろって京都入りしてラストスパートをかけるはずだった。ところが、8日午前11半ごろ、衝撃が走った。安倍晋三元首相が奈良市での街頭演説中に銃撃され、死亡。松井、吉村両氏はその後、この日に予定していた京都の遊説を全て取りやめた。
 菅義偉前首相と気脈を通じていた松井氏は、安倍氏とも近い関係だった。安倍氏が首相、菅氏が官房長官だった当時は、両氏らと「忘年会」も開いていた。
 8日昼過ぎ、松井氏は記者団の取材に「もう、ショックです。個人的には非常によくしていただいてお付き合いしている人ですから」とやつれきった表情で話した。選挙前に安倍氏と電話で「お互い頑張ろう」とエールを送り合っていたことも明かした。

 翌9日。松井氏は、団地などに向かって演説する「壁打ち」を含め、京都府内の10カ所以上で遊説を再開。「昨日ちょっとダウンしました。メンタルがだいぶやられました」と聴衆に語りつつ「選挙は民主主義の根幹。みなさんにこの国の将来を選んでもらう大事な判断の場だから、テロ行為には屈しない」と訴えた。
 京都選挙区の結果は、自民の吉井氏がトップ当選。維新の楠井氏は2位の立憲・福山氏に約1万7千票差で敗れた。維新関係者は「事件で全て吹き飛んだ。しょうがないことだが…」と悔しさをにじませた。

 ▽「完敗」も「スタートライン」に

 

 今回の参院選で維新は選挙区で4(神奈川1、大阪2、兵庫1)、比例で8の計12議席を獲得した。17議席の立民には及ばなかったものの、非改選の9議席を合わせると参院は21議席となり、予算措置を伴う法案提出が可能となった。衆院議員を合わせると国会議員が60人を超えた。
 「自民党の第2派閥ぐらいの勢力を得た」(維新幹部)と評価する声もある。ただ、維新の勢力拡大を警戒する永田町関係者の一人は、今回の選挙結果を冷ややかに見つめる。「1人区で勝てるぐらいの勢力になって野党第1党、政権交代を目指せるという話になってくる。現状の複数人区だけで当選を拾っていくやり方では党勢拡大は厳しいだろう」
 松井氏も投開票日の7月10日夜、「躍進ではない。負けを認めざるを得ない」と語り、藤田文武幹事長も「完敗」と言い切った。
 松井氏は13日の記者会見で参院選の結果を改めて振り返り「今回は野党第1党になるスタートラインに立てた」と総括。党勢拡大を左右する来春の統一地方選を念頭に「今回の全国比例の結果を見ながら、どこのエリアで地方議員を増やせるのかという可能性を見いだして人材を確保するべきだ」と先を見据えた。

 ただ、党の屋台骨だった松井氏は代表辞任を表明し、8月にも次期代表選が実施される見込みだ。知名度の高い吉村氏は既に代表選への不出馬を表明。ある幹部は、後継の選定が党存続や全国政党化に直結するとして「次期代表候補者らに将来像をガチンコで議論させる場にしなければならない」と危機感をあらわにしている。