体に響くような大音量のビートとレーザー光線が会場に飛び交う。ステージでは8人のダンサーがキレのある動きで跳びはねる。それを追う何台ものカメラ。ダンスのプロリーグ「Dリーグ」が今年1月に発足した。9チームが6月までのレギュラーシーズンを戦っている。若い人たちに人気のダンスを素材にスタートした新しい形態のイベントには、先進的で意欲的な取り組みが詰まっている。(共同通信=山﨑恵司)

 個人で活動するプロのダンサーは珍しくない。Dリーグが違うのは、企業がダンスチームを所有し、個々のダンサーと年俸契約を交わすことだ。Dリーグの運営全般を担当する神田勘太朗最高執行責任者(COO)は「イベント単体でのプロダンサーの出演は当たり前にあるが、こういう形は初めてではないか」と説明した。サッカーのJリーグ、バスケットボールのBリーグを参考にして、最低年俸も定めているそうだ。

 ▽ファンの評価重視

 ダンサーとしての評価が年俸に盛り込まれるのは当然だ。Dリーグの場合、ダンスの実力だけではなく、会員制交流サイト(SNS)の影響力も評価に加味されるという。ダンサー個人だけでなく、チームもSNS上の人気、フォロワー数を重視して、ファン拡大を競っている。

 審査方法にも、ファンの評価が取り込まれている。チームに順位を付ける審査をするのは、技術的な面を中心に見るダンサージャッジ4人と、印象度などから評価するエンターテナージャッジ4人の計8人。それぞれが10点満点で採点するが、さらにDリーグの公式有料アプリ会員も投票できる。「オーディエンスジャッジ」と呼ばれるもので、会員の投票をポイントに換算し、20点満点で採点。先の80点と合わせ、計100点満点で順位を争う。最後に発表されるオーディエンスジャッジの採点で順位が入れ替わることもある。

 ダンス界でも「カリスマカンタロー」のニックネームで有名な神田COOは、Dリーグを「エンターテインメントとスポーツの領域を併せ持った“アートスポーツ”」と位置付ける。オーディエンスジャッジについて「eスポーツも含めて、スポーツ業界のあり方が再考されている中で、オーディエンスの点数が入るとか、評価が一定入るようなことはあり得ると思う。Dリーグがそのはしりになれたら面白いと思っています」。インターネットの双方向性を生かしてファンとの結び付きを強め、取り込んでいく方向性を示した。

 ▽5Gの先進技術でダンスの魅力を

 新型コロナ感染拡大の事情もあって、多くのファンは月額550円の公式有料アプリを購入して動画を楽しむ。テクノロジーの面で、Dリーグを支えるのはソフトバンクの第5世代(5G)移動通信システムだ。Dリーグの広報によると、計12台のカメラで、ダンスパフォーマンスを撮影。ソフトバンクは臨場感たっぷりの仮想現実(VR)と拡張現実(AR)、それにさまざまな角度で楽しめる自由視点の3通りの映像を提供するほか、天井からの映像でフォーメーションも把握できる。

 ソフトバンクがトップスポンサーとしてDリーグに関わるのは、ダンスというコンテンツを題材に、サービスが本格化した5Gの普及を促進しようとの経営戦略があるようだ。

 ソフトバンクの広報担当によると、ダンスの市場規模は大きく、2024年パリ五輪でダンススポーツのブレイキンが正式種目にも採用された。「ダンスを間近に見るという観点で、ソフトバンクが5Gを見据えて展開するVR、ARなどのxR配信と相性がいいと考えている。小中学校でも義務教育として導入されており、教育の場でもダンスは広がっている。xRのダンス映像は“見て楽しむ”だけでなく、指導の際の教材としても今後活用されていくと考えている」と説明する。迫力ある映像でダンスの魅力を届けたいDリーグと、5Gの普及を促進したいソフトバンクの思惑が一致した形だ。

 同社の広報担当の談話にもあったが、ダンスは11年から小学校で、12年からは中学校でも必修科目とされた。若い世代に浸透し、一般社団法人ストリートダンス協会によると、競技人口は600万人。18年にブエノスアイレスで開催された夏季ユースオリンピックのブレイクダンス(ブレイキン)で女子金、男子銅とメダルを獲得した。24年パリ五輪では正式種目に加えられることになり、一気にメダル有望種目となった。

 ▽若いファン層に接点求め

 Dリーグのデータによると、18年、国内のビッグイベント「ダンスアライブ」に来場した観客の平均年齢は26・9歳。神田COOにファンの平均年齢を尋ねたら「22、23歳だと思う」。いずれにしても、20代前半から20代半ばがメインのファン層になる。若い世代への接点を求める企業からすれば、Dリーグは魅力的なコンテンツだといえる。

 「他のスポーツはファンの高齢化で悩んでいる。お客さんの平均年齢を見ても、40歳を超えてくるようなプロリーグが多い。お金を持っているという点では、年齢が高いファンの方がいいかもしれないが、ダンスは若い子が中心。若い子たちへのタッチポイントはこれから、どの企業にも切実な問題だと思うが、そこはDリーグは強いかな」。神田COOはこうみている。

 Dリーグのタイトルスポンサーは第一生命。ダンスチームのオーナー企業にはエイベックスやセガサミー、サイバーエージェント、カドカワなど音楽、IT、人材派遣などの会社が名を連ねた。発足1年目は9社だったが、来季はウェブサービスと不動産情報サービス、2社の参入が決まっており、計11チームとなる。

 ▽権利確保で海外展開も

 動画投稿サイト「ユーチューブ」や写真共有アプリ「インスタグラム」などSNSの隆盛で、音楽とマッチしたインパクトの強いダンスの動画が幅広く拡散されるようになった。そうした状況で、神田COOが意識するのはダンス動画の権利だ。「ダンスがバズる(多くの人に視聴される)時代じゃないですか。見てもらうことでお金になるチャンスが、SNSのおかげで出てきた。ダンス動画のコンテンツ自体が権利化されていないので、それを権利化するためのDリーグでもある」。

 ダンスは音楽に合わせて踊るが、既存の楽曲を使用した場合、楽曲には著作権が発生している。そのダンス動画を配信しようとすると、ダンスがメインであっても、音楽の権利処理を行う必要が生じる。そこで、Dリーグが権利を持つ独自の楽曲で、Dリーグ各チームが競う形を目指す。来季以降は全曲、独自のものになるので、Dリーグのダンス動画を海外へ販売、配信することが可能になる。

 Dリーグは「日本発・プロダンスリーグ」とうたっているが、「日本初」ではなく「発」としているところがミソ。海外展開の意気込みが込められている。ダンス動画は、動きと音楽でアピールするため、言葉の壁を越える可能性を秘める。夏季ユースオリピックでメダルを獲得したように、日本のブレイクダンスは世界レベル。Dリーグのダンス動画は海外でも人気を呼ぶかもしれない。動画だけでなく、チーム同士が争うリーグ戦というフォーマットの輸出も、神田COOは頭に描いているようだ。

 Dリーグは12ラウンドからなるレギュラーシーズンを戦い、通算成績の上位4チームがチャンピオンシップに進出する。各ラウンドの動画の権利はDリーグに帰属するが、各チームがそれぞれ独自の動画を制作してユーチューブやインスタグラムで配信したり、ダンサー個人が動画を配信したりすることは認められている。というより、リーグ全体のファン拡大につながるため、各チーム、ダンサー個人のこうした活動が評価の対象になるのは前に述べた通りだ。

 5Gの新しい技術やSNSを駆使し、ファンを取り込んでいくDリーグ。若い世代のマーケットを意識する企業も巻き込んで、最初のレギュラーシーズンは大詰めに向かう。6月に残り2ラウンドを開催し、7月1日のチャンピオンシップで初代王者が決まり、記念すべき最初のシーズンは幕を閉じるが、来季に向けてさらに変貌を遂げ、成長していくだろう。