韓国で新政権が発足し日韓関係の改善に期待が高まっている。日本が世界文化遺産に推薦した「佐渡島の金山」(新潟)を巡る対立も、その一つ。朝鮮半島出身者がかつて強制労働させられたとして反発する韓国の理解を得られれば、遺産登録に向け一歩前進するのは間違いない。ただ歴史認識の問題にばかり注目が集まり、世界遺産にふさわしい価値を国連教育科学文化機関(ユネスコ)に向けて説明する準備がおろそかになっていないか懸念する声も上がる。(共同通信=矢頭史郎)

 ▽「暗い過去がある世界遺産は珍しくない」

 韓国の主張はそもそも筋違い―。こうした主張が日本国内では根強い。「ユネスコ遺産ガイド」などの著書がある世界遺産総合研究所の古田陽久所長は「別の所で議論すべき話。ユネスコがきちんと仕切る必要がある」と訴える。

 古田所長は「世界遺産は文化的に『普遍的な価値』を評価するもの」と指摘する。登録判断では遺産の真正性や完全性のほか、それを守るための保存管理体制、地元の熱意などが基準になると解説する。
 スペインの植民地だった時代に開発された銀山で先住民が重労働に従事したとされるボリビアの「ポトシ市街」を挙げて、暗い過去がある世界遺産は珍しくないとも強調した。

 ▽「両国で話し合ってくれ」

 世界遺産検定を主催する世界遺産アカデミーの宮沢光研究員も「ある歴史的な場所を見れば、負の側面もあるのは当然。遺産の価値とは関係のない点で反発する韓国の主張には無理がある」と考える。ただ、世界遺産条約には、国際社会の協働により平和な世界の実現を目指す理念がある。ユネスコの判断で「『まず両国で話し合ってくれ』となることもあり得る」と予想する。
 その上で「江戸時代の鉱山労働は過酷だったという話がある。影の面もしっかり見つめ、その場所の全ての歴史や文化を伝えていかなければならない」と求める。

 佐渡金山の現地にはアニメ「天空の城ラピュタ」のような雰囲気を漂わせる北沢浮遊選鉱場跡など近現代の施設跡も数多く残る。しかし新潟県と佐渡市は、伝統的手工業で世界最大級の金の産出量を誇ったとされる江戸時代までに価値があると対象時期を絞った。韓国側の反発を意識して近代以降を外したとも受け止められている。

 ▽「世界最大級というが…」

 世界遺産登録はユネスコ世界遺産委員会が決めるが、その前に諮問機関の国際記念物遺跡会議(イコモス)が現地を調査して登録にふさわしいかどうか評価する。

 宮沢研究員は「残された物証と、地元自治体や文化庁による遺産価値の説明に整合性がないとイコモスから指摘される可能性があり、大きな課題だ」と懸念する。
 古田所長も山頂をV字に割ったような採掘跡「道遊の割戸」に触れ「手工業で山を割いたなんて、どういう人がどういった環境で働いていたのか説明を求められるかもしれない」と話す。「世界最大級の金の産出というが根拠を示せるのかも気がかり。文化的価値を証明する準備を万全にした方がいい」と助言した。