ロシアのウクライナ侵攻から半年が過ぎた。主権国家に対する一方的な侵略行為の影響は軍事・安全保障の領域にとどまらず、人道危機、世界経済、歴史認識など多岐にわたる。ロシアとウクライナはどこへ向かうのか。国際社会は何を目指すべきなのか。日本の識者に尋ねた。(聞き手、共同通信=小熊宏尚)

▽小泉悠・東京大専任講師「覚悟の欠如、長期戦招く 専守防衛へ態勢づくりを」
  この戦争は簡単には終わらない。ロシアの火力は分厚いが、戦時動員をかけていないため兵力が足りない。ウクライナは動員しているので兵力はあるが練度が怪しい上、火力不足だ。こうした構造的問題が変わらない限り、次の半年も、その先も膠着(こうちゃく)が続くだろう。
 

 お互いに勝ち方は分かっている。しかし、政治的理由でその方法を選択できずにいるのだ。
 ロシアはプーチン大統領が腹をくくり、動員をかければよいが、来年秋ごろには大統領選が公示され、内政モードに入る。そうなると国民の不興を買うようなことはできない。戦争に勝てずにいるとは認められないし、国民や経済を戦争のために動員できない。プーチン氏は今も「皆さんの生活はこのままで大丈夫」と装おうとしている。
 ウクライナを支える西側は軍事援助を大幅強化し、東部での侵攻を食い止めた。ウクライナ軍は7月からは南部ヘルソン州で大規模攻撃をかけ始めた。この戦争で初めてウクライナ側が主導権を握ったのは画期的だ。
 しかし、西側は侵攻開始の2月24日前の状況までロシア軍を追い出すために必要な、まとまった数の戦車や飛行機を送っていない。負けさせまいとしているが、勝たせる覚悟がないのだ。
 戦車を送ればロシアは怒り、天然ガス禁輸などの報復や戦時動員などの軍事力拡張、場合によっては核兵器の使用も懸念される。それでも支援を決意するなら、ウクライナに勝機が出てくる。
 ただ、ロシアも核兵器を使うのはあまりにリスクが高いと認識している。核を使えず、動員もできず、ロシアは戦争に完全にかたをつけるオプションを失っているようだ。だから占領した4州で住民投票を行い、併合するという政治的な動きを進め、戦争を泥沼化させる気なのではないか。
 ロシアは一昨年の憲法改正で領土割譲を禁止したので、占領地が一度「ロシア領」とされると交渉不可能になり、争いがいつまでも続く。
 もちろんウクライナにそれは受け入れられない。(ロシアが2014年に併合した)クリミア半島への最近の攻撃は、ロシア軍の拠点をたたくという純軍事的な目的はあろうが、クリミアのように、ヘルソン州などを「併合した」としても軍事力行使を続けるとのメッセージだと思う。
 この戦争は、古典的な大戦争が21世紀でも排除できないと証明した。だからこそ外交は重要だし、戦争を違法とする国際法の維持も繰り返し確認すべきだ。しかし、それでも抑止は破れうる。それが日本で起きたら、どう対応するのか。
 今の日本は専守防衛をできる態勢になっていない。ある軍事ブログによると、ロシア軍の戦車の損失は既に900両。自衛隊は戦車300両(現防衛大綱)を保有しているので、半年で陸自の戦車の3倍がなくなったことになる。弾薬もロシアに比べ、圧倒的に少ない。つまり、現状では自衛隊は今回のような戦争に耐えられない。
 ウクライナは最初の1カ月を耐え抜いたからこそ軍事援助が入り、ロシア軍と渡り合えている。日本は日米同盟があるにせよ、何らかの理由で米軍が1カ月間介入できないかもしれない。それでも石にかじりついてでも戦える態勢をつくっておかないと、抑止の信ぴょう性(しんぴょうせい)に疑義が生じ、結果的に専守防衛政策が機能しないことになる。(8月18日取材)
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 こいずみ・ゆう 1982年、千葉県生まれ。早稲田大院修了。外務省専門分析員、東京大先端科学技術研究センター特任助教を経て、今年1月、同センター専任講師

▽合六強・二松学舎大准教授「『かりそめの停戦』には重い代償 ロシア占領地、抵抗運動は続く」 

 ロシアはウクライナ侵攻で中長期的には国力と、責任ある大国としてのレピュテーション(評判)を失う。軍事力を消耗し、経済規模の大きな国から制裁され孤立が進む。中国やインドのように制裁しない国もあるが、ロシアへの信頼ではなく目先の利益から関係を維持しているに過ぎない。 

 日米欧は(二度と侵略しないよう)ロシアにしっかり対応しなければならない。仏独仲介でウクライナ東部紛争の停戦と和平への道筋を決めた2015年の「ミンスク合意」がそうだったように、ロシアは停戦後に、攻撃的行動を取る可能性もある。停戦が一直線に和平につながるという考えははなはだ疑問だ。
 ウクライナでは領土を譲歩してでも平和を達成すべきだという考えへの支持は大変低い。ロシアがクリミア半島を併合し、ロシアに支えられた東部の親ロシア派武装勢力と紛争が始まった14年以来「口先の停戦には意味がない」と学んでいる。それゆえ、より確かな「安全の保証」も同時に求めている。「かりそめの停戦」では意味がない。
 また今回の侵攻では、ロシアにいったん占領されたブチャなどの地域で虐殺が起きた。非人道的行為を目の当たりにし、ウクライナを支援する米欧の停戦へのマインドも変わった。停戦にこぎ着けても被占領地域が残れば犠牲はむしろ増えるかもしれない。ロシアに占領されている地域では、今でもウクライナ人のレジスタンス(抵抗運動)が続いている。14年以来の8年間でウクライナ人としてのアイデンティティーは高まり、抵抗しないと国が滅ぶという思いも強まった。
 ウクライナ国内では、戦争を継続することにほぼコンセンサスがある。抵抗の意思が米欧の支援や武器供与を引き出した。武器支援継続は戦争の長期化を招くが、ウクライナ自体が抗戦継続を望む以上は、支援し続ける必要があると思う。
 ただ、戦況が膠着し、メディア報道が減ると、支援国の世論が「成果が出ていない。支援に意味があるのか」と言い出しかねない。「ウクライナ疲れ」が出てくるのだ。エネルギー高、食料高も影響するだろう。だからこそウクライナは期限を示しつつ軍事的成果を出したい。
 ロシアは天然ガス需要が高まる冬にかけ、欧州の有権者にガス供給停止などの脅しをかけ、パニックを誘う恐れもある。制裁を強化する時には合意がより難しくなるかもしれない。ウクライナを支援する国々もまた民主主義国家としてのレジリエンス(強靱さ)が問われることになる。(7月18日取材)
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 ごうろく・つよし 1984年大阪府生まれ。慶応大大学院後期博士課程単位取得退学。2015〜16年ウクライナ滞在。専門は欧州安全保障

 

▽兵頭慎治・防衛省防衛研究所政策研究部長「ジレンマ抱えるプーチン氏 国内世論意識、軍には不満も」
 ロシアのウクライナ侵攻の当初目標は全土を軍事掌握した後、ゼレンスキー政権を退陣させ、ロシア寄りの政権をつくることだった。これは失敗した。簡単に掌握できるという甘い見通しで開始した。軍の裁量は限定的で、作戦全体を描いたのはプーチン大統領ら旧国家保安委員会(KGB)系の人々。政治側からの押しつけで兵士が多数死亡し、軍には相当な不満があるだろう。
 

 現在は政治の圧力が多少和らぎ、ロシア軍は東部ドンバス地域の完全制圧に専念しているが、侵攻の最初の1カ月で制圧地を広げて以降、ルガンスク州をほぼ制圧したものの、大幅拡大はない。ロシア軍が優勢とされるのは局地的で、ロシア軍は火力、兵力を一点集中させている。戦況全体を見れば、支配地を急拡大できるとは思えない。
 プーチン氏はジレンマを抱えている。戦況を改善するためには「戦争宣言」をし、国家総動員を掛けて戦力増強しないと難しい。本当は5月9日の対ドイツ戦勝記念日に宣言したかったが、国内世論を気にして宣言に踏み切れなかったようだ。
 2024年のロシア大統領選は来年9月、与党「統一ロシア」党大会で本格的に始まる。プーチン氏は8割の支持率を維持してはいるが、過去の反プーチンの動きを見ると、徐々に(動きが)出るわけでなく、これまでは下院選不正問題(11年)など、何かのきっかけがあると噴出してきた。
 プーチン氏が最近、自らを(近隣国と戦い、国土を拡大したロシア皇帝)ピョートル大帝になぞらえたのも「特別軍事作戦」の正当化といえる。厭戦気分が高まらないよう、現在の作戦が大切だと国内向けに言わなければならない状況の裏返しだ。
 ロシアはウクライナ南部の占領地での通貨ルーブルの導入など「ロシア化」を進めているが、これもロシアの想定より遅れている。州単位でなく、支配できた部分から(ロシア編入の)住民投票を行おうとしており、焦りを感じる。
 ロシアが軍事的に敗北し、プーチン氏が権力を失うほど追い込まれれば「窮鼠猫をかむ」かたちで戦術核を限定使用する可能性があるが、使用のハードルは極めて高い。戦争状態の宣言もできないぐらい世論を気にしているなら、核を使うのは難しい。(6月17日取材)
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 ひょうどう・しんじ 1968年愛媛県生まれ。上智大大学院修了。防衛研究所米欧ロシア研究室長などを経て現職

 

▽池田嘉郎・東大准教授「プーチン氏『世界戦」に高揚感 帝国の命運握るウクライナ」
 ウクライナとロシアはプーチン大統領から見れば本来一つの世界。緊密な関係を取り戻すのが当然と考えている。帝国時代と同じような発想だ。
 

 英歴史家ドミニク・リーベン氏が言うには、ロシアがウクライナと緊密に結びついている間は「巨大な帝国」は滅びない。しかしウクライナが離脱を決めると、ロシア帝国であれソ連であれ、解体してきた歴史がある。
 だからプーチン氏にとってウクライナの離反は大変厄介な問題。(対ロ関係重視の政権を崩壊させた)2014年のマイダン革命でプーチン氏の怒りは強まった。その後のウクライナ政権はナチスであり、ロシア系住民を虐待しているというが、大変誇張されている。
 ウクライナ側を「ナチス」だと決めつければ、(戦闘や虐殺で)肉体的に抹殺することに抵抗感がなくなる。ソ連共産党も農業集団化に反対する人を「ブルジョア」「クラーク(貧農を搾取する富農)」と、実態と無関係にレッテルを貼って弾圧した。プーチン氏は(ソ連情報機関)国家保安委員会(KGB)出身。やり方がよく似ている。
 戦争を続けるプーチン氏に対する7〜8割の支持率は、大きな傾向としては当たっていると思う。今(ソ連崩壊後)のロシアの輪郭ではなく「巨大な帝国空間の盟主」というのがロシアの国民意識。ロシアが世界帝国だというイメージと、ウクライナを応援する米国や北大西洋条約機構(NATO)と戦うというのは、彼らの頭の中ではうまくかみ合っている。
 プーチン氏はウクライナとの戦争を「グローバル戦争」という。世界と戦っているとの高揚感がある。本気でウクライナ侵略をソ連が戦った「大祖国戦争」(第2次大戦)と同列に位置づけようとしている。
 ロシア正教会のインターネット番組も「ロシアを救え」「ナチスからの解放を」と強力に宣伝している。若者は正教会のテレビは見ないかもしれないが、政府が後押ししている「知識」という名称の団体がここ5、6年、優秀で意欲的な子供たちを集めて「ロシアがいかに偉大か」という愛国教育を行っている。ロックコンサートも催す。これは大きな影響力を持っていると思う。
 戦争が終わったらロシア国民の8割は(愛国心で)結束が固まり、2割が外国のエージェントだとしてスケープゴートのようになっていくのではないか。戦後のロシアを国際社会にどう回収するのか。難しい問題だ。(5月18日取材)
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 いけだ・よしろう 近現代ロシア史研究者。1971年秋田県生まれ。東大大学院で博士号取得。新潟国際情報大講師などを経て現職

 

▽服部倫卓・ロシアNIS経済研究所所長「ウクライナ、分断国家化も 命運握るオデッサ支配」
 ロシアのウクライナ侵攻は想定外に苦戦し、プーチン政権は当初計画していたスケジュールや手段を変えたが、東部ドンバス地方と南部一帯を支配下に入れるという最低限の目標は変えていない。将来の停戦ラインを境に、ロシアの支配下に入る「南東ウクライナ」と、独立は維持するが弱体化した「北西ウクライナ」に国が分断される恐れもある。
 

 今後の焦点は、ウクライナ経済の生命線とも言える南部の二つの港湾都市、ミコライウとオデッサ。ここを制圧され、黒海への出口を失うと、ウクライナの一番の強みである穀物や植物油の輸出が大きく制約される。
 鉄鋼業も基幹産業だが、マリウポリの製鉄所が破壊され、鉄鋼生産の40%が失われた。停戦しても穀物や鉄鋼の輸出が再興できなければ、近年進むウクライナの出稼ぎ立国化が一層顕著になる。
 日米欧は人類史上最も網羅的で大規模な経済制裁をロシアに科した。それは評価できるが、制裁によってある国の行動を変えさせたことはあまりない。むしろ、日米欧の(侵攻への強い反対という)意思を表明し、団結を示した点が重要だ。
 ロシア経済の懐は深く、2カ月程度の制裁では音を上げないが、マクドナルドやユニクロなど各国企業が事業を停止し、撤退するのは目に見える変化。ロシア国民にも明確なメッセージとして伝わっている。
 ロシアの行動次第では(同国の主要輸出品の)石油や天然ガスを含む制裁が視野に入るが、制裁を深めていくと(輸入国の日欧は)ロシアと“刺し違える”領域に近づく。それよりは先進国と身近な経済パートナーの東南アジア諸国連合(ASEAN)などを巻き込み、制裁参加国を増やす方が効果が大きいだろう。
 戦闘が終わったとしても、日米欧とロシアは冷戦時代よりひどい対立関係が続く恐れが強い。ロシアがウクライナに謝罪して戦争犯罪人を差し出すようなことがあれば制裁が解除されるかもしれないが、そうはなるまい。ノーマルな経済関係や文化交流はまず不可能。しかし、それでも地球環境問題など、共同で取り組まねばならないテーマを明確化し、それだけは例外扱いにして協力していかなければ大変なことになる。(4月20日取材)
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 はっとり・みちたか 1964年静岡県生まれ。在ベラルーシ日本大使館専門調査員などを経て現職。共編著「ウクライナを知るための65章」など

 

▽東野篤子・筑波大准教授「全欧州の対話枠組み必要 日本は避難民支援強化を」
 ウクライナに非があって戦争が起きたわけではない。ロシアが脅威でなければ、ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)加盟を目指す必要はなかった。中東欧諸国がNATOに入ったのと構図は変わらない。NATO拡大という状況をつくったのはロシア側だ。
  

 NATOは東方不拡大という(1990年の)約束を破ったとプーチン(ロシア大統領)は主張する。確かにベーカー(元米国務長官)やゲンシャー(元ドイツ外相)は拡大しないと話したことがあるが、NATOはコンセンサスに基づく機構。2カ国が何か言ったとしても、それがNATOの意思であり約束違反だと主張するのは無理がある。
 大切なのは97年のNATOロシア基本議定書や2002年のローマ宣言。これらの機会にNATOとロシアはお互いに敵と見なさないと確認している。
 ただ、欧米側は、特に14年の(ウクライナ南部)クリミア併合の際に、ロシアとの対話を断ち切ってしまった。今思えば、プーチンの考えが(欧米に)理解不能になる前に、たとえロシアが積極姿勢を示さなくても対話の場に引きずり出し、何を考えているのかを聞く機会が必要だった。ロシアとの意思疎通は、どんなに関係が険悪になってもやるべきだったのだ。
 NATOも欧州連合(EU)も今後は防衛力強化に向けてまっしぐらに進むだろう。ロシアの隣国で中立を維持してきたフィンランドはNATO加盟の方向にかじを切った。これは完全にロシアのオウンゴール。ロシアの脅威という促進要因を得て、欧州が防衛力を増強するのは不可逆的な流れだろう。
 一方で、全欧州的な対話の枠組みも絶対に必要。ロシアが納得して加盟している欧州安保協力機構(OSCE)にロシアを呼び続けたり、ロシアを囲んで複数の国がしっかり話を聞いたりする試みは今からしっかり考えていくべきだ。
 日本は、対ロ制裁でやれることはやっている。これから行うべきは、ウクライナ支援の強化。特にポーランドなどに脱出した国外避難民の支援が重要だ。激戦地から人々が逃げるための人道回廊(の運用)はロシア任せだが、日本など国際社会は監視を強め、回廊が機能するようロシアに圧力をかけることも大切だ。(3月22日取材、肩書は当時)
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 ひがしの・あつこ 1971年、東京都生まれ。広島市立大准教授などを経て筑波大准教授(4月から同教授)。専門は欧州の国際政治。ウクライナ研究会副会長