米西部サンフランシスコ中心部で11月12〜17日にかけ、アジア太平洋経済協力会議(APEC)など自由貿易を推進する一連の国際会議が開かれた。ロシアのウクライナ侵攻や中東情勢の対立で注目される中、首脳会議は各国の立場の違いから「分裂状態」に陥り、成果を表明する宣言や声明は三つが乱立。議長を務めたバイデン米大統領のリーダーシップの弱体ぶりを象徴するものになった。

 一方で、会場の外では反グローバル化の大規模デモが繰り広げられ、なぜか「釜ケ崎解放」のTシャツを着た米国人たちの姿もあった。混迷を深める世界情勢が凝縮された現場から報告する。(共同通信ワシントン支局 金友久美子)

 ▽妥協を重ねたAPEC首脳宣言。新冷戦と新興国隆盛で世界は多極化
 日本や米国、中国など21カ国・地域が参加するAPECは今年、アメリカが12年ぶりに議長を務め、岸田文雄首相や中国の習近平国家主席も参加した。サンフランシスコの会場で、バイデン大統領は「アメリカのアジア太平洋地域への関与は揺るぎないものだ」と繰り返した。

 しかし、APEC首脳会議最終日に採択された首脳宣言では、バイデン氏の意気込みとは裏腹に、ロシアのウクライナ侵攻やガザの人道問題に言及がない「形だけのもの」に。昨年のタイ・バンコク会議ではウクライナについて指摘しており、大幅に後退した。バイデン氏は議長声明を別途公表し「大半の参加国はウクライナへの侵略を強く非難した」などと明記することでお茶を濁した。

 背景にあるのは、新冷戦と呼ばれる中国との緊張関係や、APECに参加するロシアの存在、新興国の隆盛による世界の多極化がある。

 ウクライナ侵攻の記載はロシア、中国が反対したと伝えられる。それに加えて、インドネシアとマレーシア、ブルネイの3カ国は独自の共同声明を発表し「ガザ地区における敵対行為の停止につながる即時かつ永続的、持続的な人道停戦を求める」と訴えた。いずれもイスラム教徒を多く抱える国で、イスラエルを支援するバイデン政権との立場の違いが鮮明となった。首脳宣言と議長声明、3カ国の共同声明が入り乱れ「APEC三分裂」の様相を呈した。

 ▽対中包囲網の役割を失いつつあるIPEF
 日本政府にとって今回の外交ウイークのヤマ場は、バイデン氏が提唱し、日本が全面協力する新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の首脳会合だった。トランプ前大統領が環太平洋連携協定(TPP)からの離脱を決め、バイデン政権になっても国内世論の反発から関税引き下げ交渉は難しい状況の中で米国にとっては「中国が権勢を強めるインド太平洋地域で自国のプレゼンスを示す貴重な枠組み」(米国務省関係者)だ。

 だがこれも1年超にわたって交渉を進めてきた全4分野のうち、目玉であるはずの「貿易」分野では合意できなかった。背景にはデジタル協定により大手IT企業だけが私腹を肥やすと批判する米民主党左派や、労働者の権利強化を訴えるバイデン氏の支持層の存在がある。参加国は協議を継続することで一致したが、大統領選が近づく来年以降、交渉の勢いはさらに衰える可能性がある。

 ▽存在感を示したのはレモンド米商務長官。将来の大統領候補との声も
 米政府の中で存在感を示し続けたのが、IPEFで合意に至った分野を率いたジーナ・レモンド米商務長官だ。期間中には新興国への脱炭素化に向けた巨額の基金創設も発表。各国の閣僚からは「ジーナに再度、わが国を訪問してほしい」とラブコールが相次いだ。西村康稔経済産業相との夕食会では、日本産水産物の輸入停止措置を講じた中国を念頭に、北海道産ホタテを口に運んだ。米東部ロードアイランド州の知事を務めた経験から「バイデン政権の閣僚の中でもとりわけ政治が分かる人物」(米大手メディア記者)と言われる。

 商務長官として力を入れた半導体補助金制度では、各企業に女性の雇用促進を要求。日本政府外交筋は「52歳と比較的若いが、民主党内の将来の有力な米大統領候補となる可能性がある」として、今後の動向を注目していると話す。

 ▽1999年のシアトル反WTOから続く反グローバル化運動
 低調だった国際会議とは裏腹に、会場の外では多くの反対派が集まり、お祭りのようなにぎわいを見せていた。

 11月12日にAPEC会場近くで開かれた「NO TO APEC」(APECにノー)による数千人規模の大規模集会。主催者の一人である米国人、ドナ・デニーナさん(46)は取材に「現在の自由貿易は雇用を生み出すことはできるが短期的なもの。米企業に利益が集まり、労働者保護もほとんどない」と語った。

 過去の反グローバル化の運動では、1999年末に米シアトルで開かれた世界貿易機関(WTO)閣僚会議に対して、世界中の非政府組織(NGO)などから5万人が集まった大規模抗議デモが知られる。スターバックスなどの店舗が破壊され、開会式が開けない騒ぎとなった。

 2001年のジェノバ・サミットには20万人規模の参加者が集まった一方、弾圧も激しく、警察との衝突でデモ参加者が亡くなる事態になった。

 これ以降、反グローバリゼーション運動は縮小したと考えていた筆者に対し、シアトル出身でWTO反対デモにも参加したというデニーナさんは「参加者数は当時の規模には達していないが、今回も数万人が集まる予定だ。新自由主義による人々の暮らしへの悪影響は増している。運動は世界中に拡大していると思う」と話した。

 ▽「KISHIDA」に抗議の声「日米韓の関係強化は軍事同盟の構築」
 主催者によると11月12日のAPEC反対デモは全米からのほか、少なくともメキシコやチリ、フィリピン、中国、韓国、ミャンマー、ミクロネシア連邦の市民らが参加した。

 日本からの参加者には会えず、これも国際社会における日本のプレゼンス低下の一端を見た気がした。ただ、デモの最中には「釜ケ崎解放」と日本語で書かれたTシャツを着る参加者に何人も出会った。釜ケ崎は、日雇い労働者の多い大阪市の地域の旧地名だ。Tシャツを着た米国人男性に聞くと、ホームレス支援活動をする米国の活動家たちが日本を訪れ、東京や大阪など各地を巡って意見交換したときに日本の団体からプレゼントされたものだという。

 ガザでの停戦を求める参加者も多く、16日には市内で最も交通量の多い橋を占拠する抗議活動も起こった。加えて目立ったのが、フィリピンからの参加者だ。フィリピンでは中国への警戒感から米国や日本などとの安全保障協力が強化されてきた。「フィリピンの国内基地に、米軍が関与しやすい政策が進められている」と懸念する声が続いた。

 日本の参加者が見当たらなかったにもかかわらず、岸田首相を批判するスピーチも相次いで驚いた。スピーチした一人、西部オレゴン州のケイティ・コンフォートさん(29)は取材に対し「最近の日米韓の関係強化は軍事同盟を築こうとしているように見える。慰安婦問題など解決されていない歴史問題もまるでなかったことにされてしまいそうだ」と語った。