【AFP=時事】香港の医師、アルフレッド・ウォン氏は、新型コロナウイルスの患者を治療する過酷なシフトを終えると、ホテルの部屋で持ち帰りの食事を食べながら孤独感を味わい、妊娠中の妻と引き離される苦しみと闘っている。

 ウォン氏は、後から招集されて、今後2か月のうちに控える娘の誕生に立ち会えなくなるのを避けるため、「汚染チーム」と呼ばれる隔離病棟の医療スタッフへの参加を自ら名乗り出た。

「いま私にできることは、自分自身を守り、家族や友人と距離を置くよう心がけることだ」。ウォン氏はAFPに対してそう語った。チームにいる間は、愛する家族との接触を最小限に抑えるように決めているのだという。

 2月初めにチームに参加して以降、ウォン氏は病院から徒歩圏内にあるホテルに寝泊まりしている。身体と防護服に隙間ができないように髪も短くした。たまに、自宅の玄関先に妻が置いてくれた手作りの弁当を受け取っているという。

 ウォン氏は、頻繁に洗い過ぎてかゆくなった手をこすりながら、「私が(妻に)与えられる一番のプレゼントは、おそらく、生きている夫でいることだ」とブラックジョークを飛ばした。夫婦は、バレンタインデーにお互いが見える別々のテーブルで食事のできる、静かなレストランを探していた。

 数百人の医師や看護師らがウォン氏と同じように、家族と隔離された生活を送っている。

 香港では15日午前0時までに56人の感染が確認され、うち1人が死亡している。人数こそ少ないものの、公立病院では隔離病棟の約60%を感染者、または感染の疑いのある患者が占めており、700万人もの人口が密集した香港の病院にとって大きな負担となっている。

■「誰かがしなければ」

 ウォン氏と14人の同僚医師たちが働いている隔離病棟には現在、感染が確認された2人の患者と、感染した疑いで経過観察中の40人がいる。その全員を感染者として扱わなければならない。

 ウォン氏によると、「新型のウイルスであるため、毎日それぞれの患者を2回ずつ訪ね、患者の経過についてチームの臨床会議を3回開かなければならない」のだという。

 マスクやフェースバイザー、手袋などの防護資材が底を突きかけており、焦りが募る。

 香港当局は、医療従事者用マスクの在庫があと1か月分しかないと認めているが、医療関係の諸団体は、現状のペースでマスクが消費されれば当局の見込みより大幅に早く在庫がなくなる恐れがあると警告している。世界的にマスク不足の状況だが、香港当局は追加輸入を検討している。

 親中派の香港政府は、十分なマスクの備蓄を怠り、中国本土からの入境制限措置を取るのも遅れたとして医療関係者から批判されてきた。今月初めには数千人規模の医療関係者が、本土との境界を閉鎖するよう求めるストライキを実施。ウォン氏はこのストには参加しなかったが、支持はしていたという。

 香港では2003年、重症急性呼吸器症候群が流行し299人が死亡。ウォン氏が勤める病院でも8人の医療従事者が死亡した。現在のウイルス流行が「単なる歴史の繰り返し」であることを考えると、政府はより周到に準備しておくべきだったとウォン氏は指摘する。

 SARSの流行当時医学生だったウォン氏は、今回の新型コロナウイルスの対応に名乗り出たことについて後悔することになるかはまだ分からないと語る。「誰かがこの仕事をしなければならない。そしてわれわれは、この仕事をするために訓練を受けてきた」 【翻訳編集】AFPBB News