和歌山県みなべ町清川にある本誓寺の「ふるさと道場」に、金色に塗られた木彫りの涅槃(ねはん)像が贈られた。長さが約2・2メートルで重さは300キロ以上もあり、道場で他の仏像と一緒に安置されている。「世界平和への願い」が込められた仏像で、同寺は「この思いを後世に伝えていきたい」という。

 像を贈ったのは秋田県の元高校教諭、中川信行さん(79)。1986年に同寺の前住職、赤松宗典さん(73)が特産の梅をPRしながら全国を行脚していることを新聞で知り、秋田県内の百貨店に会いに行ったことで知り合った。その頃、中川さんは粘土の焼き物で地蔵を作っており、「すごい人物。この人に託そう」と地蔵を赤松さんにもらってもらうことを決意。自宅に招き入れた際、赤松さんが地蔵一体一体に手を合わせてくれたことに感銘し、その後も作って贈り続けることにした。毎年100体以上作って贈り、10年間で約1200体になった。
 そんな交流が続いていた1990年、赤松さんの娘、真理子さんが9歳で亡くなったことを知り、死を悼んで初めて木像を彫り、赤松さんに贈った。それ以来、仏像だけでなく、赤松さんから不幸に遭った人の話を聞いては、その人の姿を木彫りして贈っている。これまで40体を超え、ほとんどがほぼ等身大。その中には赤松さんが師匠と慕う花園大学の元学長、大森曹玄や世界的な博物学者・南方熊楠の木像もある。
 今回の涅槃像は5年ほど前、直径約1メートルのカツラの原木を見た際「中に涅槃の姿が見えた」と、その原木を買い求め、制作を始めた。「周りの物を払いのけて外に出してあげればいい」と作業に入ったが、2年ほどして大病を患い中断。その後に再開したが、体の調子を見ながらの作業で順調には進まず、今年になって完成した。クリやスギ、ヒノキを使って台も作った。
 涅槃像は入滅する釈迦(しゃか)の姿を表しており、中川さんは「カツラの木は堅く、彫るのに力が要ったが、やっと完成させることができた。釈迦は80年で入滅した。それに合わせて80歳までに完成させたいと思っていたので、なんとか間に合ってよかった」と感慨に浸る。仏像は平和のシンボルであり、争いのない世界になるよう願いを込めたという。
 現在も制作途中の仏像が何体かあり、「体調を見ながら彫り続けたい。赤松さんとのご縁は仏像で始まった。仏像とともにご縁は続いていく」としみじみと語る。
 赤松さんは「中川さんは柔道有段者で体力は人一倍あるかと思うが、これまでのご苦労を思うと感謝してもしきれない。空手や剣道などの稽古のためにふるさと道場にやって来る人たちを見守ってくれるだろうと思う」と話している。