今季メジャー初戦となる「ワールドレディスチャンピオンシップ サロンパスカップ」は山下美夢有の大会史上初となる完全優勝で幕を閉じた。7戦4勝で乗り込んだ西郷真央が予選落ちするほどの難セッティングのなか、なぜ唯一の二桁アンダーを出すことができたのか。上田桃子らを指導するプロコーチの辻村明志氏が勝因を語る。


■コースのポテンシャルが生み出した超高速グリーン

2018年以来となる西コースで行われた今大会。選手の行く手を阻む木々、長いラフ、舞う風、難易度の高いピン位置…。メジャーらしいセッティングで行われたなかでも、最も選手に牙を向いたのが13フィートを超える超高速グリーンだった。それは、マスターズの会場で行われるオーガスタ女子アマに出場した安田祐香が「同じくらい速い」というほど。

「きれいな絨毯(じゅうたん)の上でプレーしているように感じていると思います。これだけきれいであれば、ちゃんと打ち出せた人はきれいに転がってショートパットを外しません。ここまでのスピード、きれいな仕上がりのグリーンを作れるのもコースのポテンシャル、そしてキーパーの技術があってこそです。

加えてグリーン周りの刈り込みテクニックが素晴らしい。ショートサイドに外すとグリーンから離れていくようになっている。日本でここまでのコースはなかなかありません。また、初日から考えられるピンポジションも難しい要素でした。総じて(コースセッティング担当の)茂木宏美さんが素晴らしかったですね」(辻村氏)

全ての崩れるきっかけは絨毯から始まる。グリーンが硬く速いからフェアウェイからでなければ止まらない。そういったティショットへのストレスはもちろん、こんな部分でも難しさが。

「どの選手も“手前から攻めないと”ということは分かっています。では、どうするかというと番手間の距離は長めの番手で軽く、ではなく短めのクラブでしっかり打つ、という選択をします。そうなるとどうなるか。いつもとは違う力感で打ち続けることとなる。そしてどんどん力が入っていってしまうんです」

バーディを狙えるホールが少ないことも攻めの感情を狂わせる。「手前から攻めていてもボギーは来るもの。そこで“獲り返そう”と思ったら、待っていましたと言わんばかりに3パットが待っています」。イーブンパーで14位タイ。いかにパーセーブが難しかったかが分かる。

■山下美夢有が流れに乗れるわけ

そんなコースで誰よりも輝いたのが山下だった。何といっても爆発力が光った。初日にコースレコードとなる「64」をマーク。2日目こそ苦しいゴルフになったが、雨が降った3日目に再びベストスコアとなる「67」をマークしてメジャータイトルをつかんだ。

なぜ、山下は流れに乗れたのか。辻村氏は理由を2つ挙げる。

「まずは全てにおいてリズムがいい。ルーティンからフィニッシュまでよどみのないスイングリズムは元より、胸を張って堂々と歩くリズム、キャディさんとの会話のリズムといったプレー全体のテンポとリズムが抜群です。だから、流れをつかんだときには離さない。組全体でノッていくことができるんです。そしてプレッシャーがかかった場面でも同じプレーができる」

もう一つは他人と比較をしないこと。「ほかの選手のスコアを見てのプレーとなればどうしても“1点差”の戦いになる。でも、山下さんは敵と戦っているのではなく、自分の目標と戦っていました」。同組の選手たちを見ていれば3日目に6打差もつけることはできなかっただろう。接戦に持ち込まずにいけたのは、その思考法が大きい。

■スイングは曲がらない要素がたくさん!

もちろん、リズムだけではメジャーの舞台でレコードを出すことはできない。「山下さんはショットが曲がらない要素がふんだんです」というしっかりとした技術の裏付けがある。

「まずはスイングプレーンがすごくいい。なぜかといえば、両腕が常に体の前にあり、クラブが上げたところに下りてくる。かつ、フェース面の開閉が少なく入ってくるときと出ていくときが一緒。これらが長いインパクトゾーンを生み出し、点ではなく線でのインパクトを生み出す。だから左右のズレがない」

さらに前述した通り、山下はアドレスからフィニッシュまでよどみがない。「ミスしようが最後まで振り切れている。これがすごく大事」。それでも、今大会まで3試合連続で予選落ち。最後のピースは、微妙なズレを直し、話題となった『ボールの後方からリーディングエッジを飛球線と同じ方向に合わせ、両足を広げて構えたらボールに正しくヘッドを構えてグリップを握り直す』ルーティンだ。

「ターゲットに対してアライメントをうまくとれていなかったのだと思います。大事なのはこのルーティンをしながら山下さんはヘッドを入れてくるイメージをしていたこと。ただ、フェースを向けているわけではないということです。取り入れる方はその辺りも意識してみてください」

大会史上初の完全優勝は必然。獲るべくして獲ったビッグタイトルだった。

解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、松森彩夏、吉田優利などを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。

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