海外メジャー2戦目「全米女子オープン」には15名の日本勢が参加したが、残念ながらトップ10に一人も入ることができなかった。歴代でもトップレベルのメンバーたちは、なぜ苦戦することになったのか。上田桃子らを指導し、今大会ではキャディも務めた辻村明志氏が原因を語る。


■多士済済の精鋭たちを苦しめた、日本にはない“亀の甲羅”

米国を主戦場とする選手だけでなく、日本ツアー勢も多く出場した今大会。今季の日本ツアーで10戦5勝の西郷真央、すでに勝利を挙げている上田、小祝さくら、21歳ながらメジャー優勝経験もある西村優菜ら実力者が揃って参戦した。なぜ、そんな百戦錬磨の選手たちは苦しんだのか。辻村氏はハッキリと言った。

「ずばり日本にないタイプのコースだからです。違いが多い分、手こずったと思います。特に日本から来た選手が短期間で合わせるのは難しかったでしょう」

一番はやはりグリーンだ。名匠ドナルド・ロスの設計らしい“シルクハットグリーン”と呼ばれるドーム型のグリーンは、辻村氏の言葉を借りれば「亀の甲羅」のようになっており、グリーン上にボールを留めるには、実際のグリーンの3分の2から4分の3ほどしか狙える場所はない。それ以外の部分に乗せても傾斜でこぼれていってしまう。「どこにボールを置くか、というゲームになっていました」というほどショットの精度が求められた。

ひとたびこぼれてしまえば、グリーンに戻すことすら難しい。刈り込まれている分、日本のように「ウェッジ一本で」というわけにはいかない。ウェッジを基本としてパター、時にはユーティリティとするなど、様々なクラブでの寄せが求められる。渋野日向子が「奈落の底」と評したのは言い得て妙で、日本勢だけでなく世界トップクラスの選手ですらアプローチでグリーンをオーバーしたり、戻ってきたり、という光景も多く目についた。

寄せられたとしても、奥に行けば「返しは大体尾根を越えるパットが残る。上り下りは難しいうえに、カップを過ぎればさらに奥の傾斜、というパターン。尾根を越えなければいけないアプローチも多かった。芝目もきつかったですしね」と、傾斜のきついグリーンも難易度を上げた。

さらにヤーデージブックには日本ほど詳細な傾斜が記載されておらず、自分でメモしていかなければいけない状況。それらが重なった結果、辻村氏の「急に来て戦うのは難しい」となるわけだ。

■上位の選手だって基本は「グリーンセンター」 では、なぜスコアが出るの?

そういったコースに対して日本勢の多くは「グリーンセンターに置く」という攻め方で戦っていった。だが、畑岡奈紗以外の選手はバーディを重ねることができず防戦一方に。しかし上位陣は同じコースでも平然とバーディを獲り、2桁アンダーに乗せている。どこに差があるのか。

「海外の選手も基本はグリーンセンターですよ」と辻村氏は言う。「予選ラウンドで2日間60台を出したモリヤ・ジュタヌガーンと回りましたが、彼女も基本的にはセーフティな攻めでした。ただ、自分の得意距離とウェッジの距離になったときに一気に攻めていく。その駆け引きがハッキリしているし、もちろん精度も高いからチャンスを作れる」。行くところ行かないところの徹底が日本勢よりも明確だった。

海外勢だってボギーを打たないわけではない。だが、多くの日本勢が「攻めどき守りどきが難しい」というなかで、マネジメントや決め事の部分にレベルの差があった。「このコースではほぼバウンスバックができない。しようとしたら本当にボギーが止まらなくなる。ボギーが来たからと言って決め事を変えてはいけない」。獲り返さなければ…という欲を断ち切ること。出場した選手たちはショット力も豊富で、日本では獲り返せてきたからこそ徹底が難しかった。

■ドライバーの正確性は日本勢のほうが上 だが…

ただ、客観的に見ても日本勢のほうが分があるところもあった。「ドライバーの正確性は明らかに日本の選手のほうが上でしたね」と辻村氏は言う。「調子がいい選手がきていることもありますが、日本の選手のほうが曲がらない。こっちの選手は結構曲がっている」。しかし、そこからゲームを作れるのだ。「曲がり慣れているからか、トラブルショットが本当にうまい。そこから!?というところから平気でグリーンに乗せてくる」と驚愕するプレーも多かった。

見ていて海外勢はほとんどドライバーを練習しないと感じたという。「ただショートゲームはものすごい量を練習していますね。それも朝の練習から毎日やる。距離感は毎日変わりますからね。そこも徹底している」。例えばチェ・ヘジン(韓国)は朝の練習から10ヤード刻みで目標を置いて100ヤード以内の距離を徹底してやっていた。

ショートゲームという部分ではこういったコースに慣れているのもあるだろう。「ウェッジ以外にもグリーンの外でパターを持ったとき、ユーティリティを持ったときのイメージが豊富ですよね。日本ではまず使わないからなかなかイメージを出すことが難しい」。アプローチで迷わずにパターを持つ選手も少なくない。慣れているから、迷いがないのだ。

ウェッジでのアプローチでは、こんなところにも差を感じた。「ボールの拾い方がうまいんですよね。日本の選手はヘッドを差し気味に打ちますが、こちらの選手はバンスをうまく滑らせる。だから出球の速度が柔らかいんですよね。ロブショットでなくてもゆっくりと飛ばす。フェースに乗せている時間が長いんです」と違いを解説する。

総合的に見ても日本勢には厳しい状況だった今大会。それでも辻村氏は「これからも様々な選手に挑戦してもらいたいですよね」という。「経験することはすごく財産になると思います。コースも、同組でプレーする選手も勉強になることばかり。それは来てみないと分かりませんから」。多くの選手が試合後に「学ぶことがたくさんあった」と言った今大会。苦しい結果に終わったとしても、それらはきっと無駄ではないだろう。

ちなみに、と最後に辻村氏が付け加える。「優勝したミンジーさんのキャディを務めたジェイソン・ギルロイドさんは、2007年にここパインニードルズで行われたときに優勝したクリスティ・カーのキャディを務めていたそうです。パインニードルズを誰よりも知り尽くしてたのは彼だったのかも知れませんね」と締めくくった。

解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、松森彩夏、吉田優利などを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。

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