■他車運転危険補償特約はどんなときに役立つ?
【事例】
Jさん(25歳・会社員)は友人のKさん(25歳・フリーター)に頼まれて自慢の新車を貸すことになった。Jさんはあまり運転の上手くないKさんに愛車を貸したくなかったのだが、人から頼まれると断れない性格のJさんは、内心嫌々ながらも車をKさんに貸してしまった。

翌日Kさんから連絡があり、なんと「停まってる車に追突してしまったので自動車保険で対応してほしい」とのことだった。

嫌々愛車を貸した上に傷つけられて、さらに次の自動車保険の継続時に保険料がアップするとなっては、Jさんもたまらない。JさんはKさんに、自分で事故を起こしたのだから、相手への損害賠償はもちろんクルマの修理代も払うように求めた。

友人の愛車をぶつけて事故を起こしたことは悪いと思っているKさん。しかし、自分で責任を取ってくれと言われても困ってしまう。相手の車も壊してしまった上に、事故の相手はケガもしている。さらに双方の車の修理代金は、貯金がほとんどないKさんにはとても負担できる額ではない。

Kさんは自分で支払うことは無理であることをJさんに伝え、保険を使わせてもらうよう再度頼んだ。気持ちの上で納得のいかないJさんはこれに応じず、事故の相手をさしおいて、クルマを貸与した者同士でいざこざが起きてしまった……。

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この事例のように、友人知人の間で車を貸し借りするのは比較的あることではないかと思います。仮に自分が愛車を友人に貸して人身事故などを起こされたら、全くの知らぬ顔というわけにはいきません。

親しい関係だからこそ起こりえるトラブルなのです。

■事故の責任は誰にあるか?
事例ではJさんは車をKさんに貸しただけで事故を起こしたわけではありません。しかし車の所有者であるJさんにも何らかの責任が発生することがあります。

自動車損害賠償保障法(自賠法)では、「運行供用者」(自動車を自分の思いどおりに使用できる状況で、自動車を運行することが自分の利益となる人)がその車で他人を死傷させた場合、損害賠償の責任を負わせています。

運行供用者であるかの判断は「運行による支配」と「運行による利益」の2つをもとにします。この場合、自動車の貸主(所有者)は運行供用者にあたります。被害者に対して事実上の無過失責任に値する責任が課されており、逃れることはできません。

■他車運転危険補償特約とは?
仮にKさんの同居の両親などが車を所有しており、自動車保険の契約があるとします。今回の場合だと、その自動車保険から事故の損害を補償できることがあります。

保険の対象となっている者(被保険者という)等が自ら運転者として運転しているの他の車を契約している車とみなして保険金を支払います。これを他車運転危険補償特約(他車運転特約、他者運転危険担保特約)などと言います。

※損保会社、自動車保険商品によって多少言い回しが違います。

現在発売されている個人向けの自動車保険には、一般的に付帯されている特約です。

■他車運転危険補償特約で対象となる車と人は?
一般的に、「契約している車の車種・用途が自家用普通乗用車、自家用小型乗用車、自家用軽四乗用車などの自家用8車種」というような制限があります(保険会社によって多少異なることがあります)。また保険の対象となる人(記名被保険者)が個人である場合に適用されます。

【他車運転危険補償特約の記名被保険者】
・記名被保険者
・記名被保険者の配偶者
・記名被保険者またはその配偶者の同居の親族
・記名被保険者またはその配偶者の別居の未婚の子

その家の自動車保険の契約者であるご主人・奥さん・同居している親・自分の子ども、などとイメージすると分かりやすいでしょう。

■他車運転危険補償特約の注意点は?
便利な特約ですが、保険である以上、保険金が支払われない場合もあります。主なものをいくつか挙げてみましょう。

●保険の対象となる人(記名被保険者)が所有する自動車、および常時使用する車は対象外

例えば、自分の子どもが所有する車で起こした事故を、親の車の他車運転危険補償特約で補償することはできません。記名被保険者が所有する車や常時使う車を「他車」とは見なさないということです。

●保険の対象となる人(記名被保険者)が他の車の使用について、正当な権利を有する人の承諾を得ないで他の車を運転した場合

今回の事例でいうと、KさんがJさんの承諾を得ずに勝手に車に乗ってしまい、Jさんが知らなかった場合などが該当します。

●保険の対象となる人(記名被保険者)が役員となっている会社所有の車を運転したとき

●自動車修理業者等が業務として受託した他の車を運転したとき

これらの場合に起きた事故も対象外となります。

また、この特約を利用する自動車保険契約に、特定の人しか運転できないような限定特約が付帯されていると、利用できないことがあります(運転者本人限定など)。

他にも、この特約が付帯されている自動車保険に車両保険があるかどうかもポイントです。もとの自動車保険が5年前に買った軽自動車で、運転する他車が新車で300万円する車なら金額が不足することも考えられます。

この特約が適用されるか、そして補償内容は必ず契約先の保険会社に事前確認してください。意外とこの特約の存在は知らない人が多いです。

■自分や家族で自動車保険がなく他人の車を借りる場合の対処法
事例のケースで自分あるいは同居の家族などの自動車保険があれば、他社運転危険補償特約が使えるとお話ししました。しかし自動車保険契約がなければ事故の損害を自分で払うか、車の所有者の自動車保険を使わせてもらうしかありません。

このようなケース、他に対処する方法はないのでしょうか。ここ数年いくつかの損保で発売が始まっている「1日だけから加入できる自動車保険」を利用する方法があります。

自動車を持っていない人が、他の人の自動車を借りるときなどに利用する自動車保険です。友人の車や帰省した際に実家の親の自動車に乗る際などに利用することができます。

500円くらいの保険料から加入できるので、事故で車の持ち主にあれこれ気を使うことを考えれば高い出費ではないでしょう。以前にはなかった自動車保険ですが、数社の損保が発売していますので、人の車を借りる人で他社運転危険補償特約を使えない人は一度みておいてください。

平野 敦之