意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「ザータリ難民キャンプ」です。

内戦が終結しても難民キャンプの課題は山積みです。

今年の初めに僕はヨルダンにあるザータリ難民キャンプに行ってきました。シリア国境に近い広大な敷地に、8万人近い人が暮らしています。2011年から始まったシリアの内戦。昨年、トランプ政権は、シリアからアメリカ軍を撤退させると決め、軍事的には現アサド政権の勝利で終わろうとしています。内戦後の復興の話も出てきており、中国の企業が名乗りを上げているとか、海外から投資を呼び込んでいるなどと報道されていますが、「戦争が終わってよかった」という単純な話ではありません。反政府軍の拠点である北西部のイドリブではまだ激しい戦いが続いていますし、ザータリ難民キャンプのシリア人難民はさまざまな理由で行き場を失っています。

難民キャンプは難民の一時的な保護の場なので、内戦が収束に向かっているのであれば自国に帰るよう促すことが、難民条約には書かれています。しかし、シリアの内戦は、政府が反政府側の市民を弾圧して激化しました。難民として国外へ逃げた人の中には、国に戻れば不当に逮捕される恐れのある人もいます。また、現政権は徴兵制を敷いているため、男性は帰国すると兵にとられ、参加したくもない戦争に駆り出され、同胞に銃口を向けなければいけない状態になるかもしれません。

アメリカからの国連への拠出金も引き下げられ、予算は縮減。キャンプ内の学校でも資金が打ち切りになり、シリア人の先生は解雇されていきました。子どもたちの教育の機会は縮小され、診療所も閉鎖。遊んでいて額から血を流した子どもが、救急箱目当てにNGO「国境なき子どもたち」に集まってきているのを目の当たりにしました。

日本では中東のニュースはほとんど流れません。シリアも難民キャンプも遠い存在です。でも、現地で僕は「ヤバーニ(日本人)!」と大歓迎されました。アメリカと戦い、原爆を落とされた不幸な歴史を背負っているが、中東のために経済力を役立ててくれる尊敬する国、という意識でいるのです。日本政府や民間がこれまでODAで積み重ねてきた功績の結果です。絶え間ない支援活動が、日本の安全保障につながることを改めて感じました。

ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN

※『anan』2019年3月13日号より。写真・中島慶子 イラスト・五月女ケイ子 文・黒瀬朋子

(by anan編集部)