「女性が読んで楽しめるものを書きたかったんです。従来のミステリーで描かれがちな、男性に都合のよい美人ではなく、女性が憧れる女性を主人公にしたかった」

精神的にも経済的にも自立、バリバリ働きがっつり稼ぎ、10億円くらいじゃなびかない――突き抜けすぎていて痛快な女性弁護士、剣持麗子。新川さんの「このミステリーがすごい!」大賞受賞作にしてデビュー作の主人公である。新川さん自身も弁護士として働いてきたが、ずっと小説家を志望していたという。

「司法試験に受かった後に弁護士事務所に入ったのですが、残業が多くて書く時間がなくて。転職し、2年ほど前から本格的に書き始めました。ジャンルはこだわっていなかったのですが、『このミステリーがすごい!』大賞に応募したものが一次にも通らずに悔しくて、そこからちゃんとミステリーに取り組みました」

麗子の元彼で製薬会社の御曹司が死去。その遺言は、「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る」という奇妙なもの。麗子は知人に依頼され、分け前をもらうべく犯人を仕立て上げようと奮闘。犯人を捜すのでなく作る、というのが斬新な設定だ。

「過去の受賞作や選評を読み、ミステリーとして新しい謎を用意する、キャラクターを立てる、といった要素が必要だと考えていきました」

強気で聡明な麗子の人物像は、インパクトを狙っただけではない。

「自立したいと思ってゴリゴリ働いてゴリゴリ経済を回している女性はたくさんいるのに、エンタメ小説にはあまり出てこない。だからこそ主人公像はそこを起点に考えました」

かといって、いわゆる“女を捨てている”タイプではなく、恋愛だってしている。

「仕事と恋愛って二者択一じゃないですよね。今は仕事もしつつ女性としても楽しんでいる人が多い。小説に出てくるキャリアウーマンは男勝りで肩ひじ張っている形で描かれやすいけれど、現実はその先をいっている、という思いがあります」

元彼の親族やら元カノやら、個性あふれるキャラクターが登場し、物語は意外な方向へ。女性も多数登場するが、安易に麗子と対立構造にならないのも従来のエンタメとは違う。

「女の敵は女、という言葉がありますが、私は嘘だと思っています。私のまわりではそんなことは全然起きなくて、みんな立場の違う相手を尊重しています。そうした、私に見えている世界を書きたかった」

それにしても遺言の真意は何か。法律上有効なのかも気になるが…。

「ありえなくはないギリギリのラインを考えました。ハッタリ芸です(笑)。ただ、一応私も法律家なので、あからさまな法的誤りがないように考えています」

発売前から評判だった本作、すでにシリーズ化が決定。

「応募した時に続編はまったく考えていなかったんです。なので編集部から提案されて最初は焦りましたが、今は3作目まで構想しています」

今年の秋までには2作目を刊行したいという。麗子も大物だが、新川さんも今後、驀進していきそうな予感大。超大型新人にご注目を。

しんかわ・ほたて 1991年、テキサス州生まれ、宮崎県育ち。東京大学法学部卒業。弁護士として働きながら本作で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞しデビュー。

『元彼の遺言状』 凄腕の弁護士の剣持麗子。学生時代の恋人が奇妙な遺言を残したため、莫大な遺産の分け前をもらうべく行動を開始するのだが――。宝島社 1400円

※『anan』2021年2月3日号より。インタビュー、文・瀧井朝世

(by anan編集部)