遠くのファンタジーではなく、この人はちゃんと存在している。どんな役柄を演じてもそう思わせる、ブレることのない確かな存在感を持つのが俳優・若葉竜也だ。

大衆演劇の家系に生まれ、選択する間もない1歳3か月という若さで初舞台を踏み、以後芝居の世界で生き続ける彼だが、「役者以外の道で生きていきたい」と思っていた時期も長かったとか。そんな彼が今やNHK連続テレビ小説『おちょやん』の助監督・小暮真治役で視聴者を“小暮沼”へと誘い、映画『街の上で』で初主演を果たす。『愛がなんだ』『有村架純の撮休』『あの頃。』とタッグが続く今泉力哉監督との関係についても聞いた。

――一度は役者から離れたいとあがいていたという若葉さんが、この道で生きていこうと思うきっかけってあったのでしょうか。

役者以外だったら何でもいいとは思っていたんですけど、25歳くらいのときに物理的にほかの道が途絶えていっているのを感じて。例えばボクサーや棋士でも、プロになるまでの年齢制限があるじゃないですか。やりたいものはいくつかあって、バンドもやってたんですが、メンバーが就職してしまって、続けるのは無理だなと思ったし、専門学校に通うことも考えましたけど、それも大変だしお金もないし。それで、一番飯の食える確率が高いのは昔からやっていた、このものをつくる仕事だなと思ったんです。だから、諦めに近いかたちだったと思います。でも、その頃から仕事に対する姿勢は変わりましたね。

――NHK連続テレビ小説『おちょやん』に出演されてから、世間の注目度も今まで以上にアップしたと思いますが、それを肌で感じることはありますか?

僕自身はあまり実感がなくて。単純に、『おちょやん』という企画が面白いと思ったし、女優さんとして杉咲花さんにとても興味があって、ご一緒したいと思ったのでお受けしたのですが、蓋を開けてみたら反響がこれだけ大きいので、なるほどな、そりゃみんな出たいと思うよなと。でも、一回も顔バレしてないんです。この間、丸亀製麺でうどんを食べていたときも、目の前に座っていた奥さまたちが『おちょやん』の話をしていて、バレるのかなと思っていたら、全くで(笑)。ま、だから実感はないですね。

――『街の上で』で4度目のタッグとなる今泉監督作品の魅力を、若葉さんはどう捉えていますか?

主人公が最後まで一切成長しないところがすごく好きです。特に『街の上で』は何も起きない映画で、それでも130分間観せ続けられるものになったんじゃないかなと。もしこの作品がうまくいけば、映画業界全体がいい変わり方をしていってくれるんじゃないかと僕は思ったりしているんです。

――明確な答えを提示したがる業界への問いかけになりそうですよね。以前インタビューで、「ブレてる人が好み」とおっしゃっていましたが、今泉作品に出てくる人たちも人間らしくブレてますよね。

やっぱり、主人公が成長を遂げる物語は観ていて爽快だし、そういう映画が好きな人もいると思うけれど、僕にとってはどこか夢物語というか、自分とは全く違う生き物の話のように感じてしまう。人はそんなに簡単に変わらないと思ってしまうところがあるので。そんな中でも今泉さんが描く人間は直線的に泣いたり怒鳴ったりしないですよね。人の目を気にせず泣いたり怒鳴ったりできる人間って、強いと僕は思うんです。でも、現実だと泣きたくても泣けないし、怒りたくても怒り方がわからないことのほうが大半で。そういう弱さや凡庸さを自分も体現したいし、今泉さんの世界観であればそれが実現できる気がするというか。

――感情もですが、まっすぐにうまくはいかない恋愛の描かれ方も、リアリティがありますよね。

今泉さんの描く恋愛って、必ず不均一が起きている。思いが必ずしも50:50じゃない。でも人間の恋愛とか思いなんて均一にならないものでしょ? と、ある種冷酷に投げかけていて、僕もそれが本当なんじゃないかと思ってるんです。お互い同じ比率で思い合っている多くの恋愛映画に対するアンチテーゼな気もするんですよね。

――映画の中で、「友達のまま恋愛関係になれたらいいのに」というシーンが出てきますが、若葉さんは共感しますか?

友達のまま恋愛関係になるって、成立はすると思うんです。あとは照れをどう対処するかの問題だと思っていて、それまで「お前さぁ」と喋っていたのに、どのタイミングで手をつなぐの? って困るじゃないですか。僕の場合は、そこで、ちょっと怖いなと思ってしまいそう。手をつなぐという行為もどこか恋愛に酔っている自分がいるからできることのような気がするので、友達関係だと照れが勝っちゃってまず無理ですね(笑)。

――現場の今泉監督は、冷徹な面もあるとか。

すごく冷徹だと思いますね。「今のいいシーンだったね!」とみんなで盛り上がることに対してすごく不安を抱いていると思うし、内輪ノリで絶対OKを出したりしないので。みんなが盛り上がったカットって、映画館で観たときに興醒めするシーンになっていたりするんですよ。なので、僕も現場での客観性はすごく意識しています。映画は、現場にいる僕らが観るものではなくて、他者が観るものなので、その意識は忘れてはいけないなと思っています。

――若葉さんと今泉監督は少し似ているのかもしれないですね。

今泉さんは「似ている」と言うんですけど、僕はあんなに駄目じゃないです(笑)。でもあの駄目さがキュートだなと思ってしまう自分もいるんですけどね。『街の上で』は古着屋さんを舞台に真夏に撮影していたんですけど、長袖を着ていた今泉さんが、暑いからと売り物のTシャツを着ようとしたんです。「あとでちゃんとお金を払うから」って。「駄目でしょ。それじゃ、コンビニで支払い前に商品食べ始めちゃう迷惑系のYouTuberと一緒になっちゃうから」って止めましたけど(笑)。

――ご自身は、そういう破天荒さはあまりないタイプですか?

僕は、本当に月並みだと思います。小さい頃からわりと大人の世界で過ごしてきているので、自分が子どもということを理解していましたし、子どもならどこまでなら許されるかもわかっていたので。昔から、あまり可愛くない子だったかもしれないです。

わかば・りゅうや 1989年6月10日生まれ、東京都出身。作品によって違った表情を見せる幅広い演技力で数多くの作品に出演。2016年、第8回TAMA映画賞 最優秀新進男優賞を受賞。’20年後期放送の『おちょやん』でNHK連続テレビ小説に初出演。’21年の出演作に、今泉力哉監督 映画『あの頃。』(公開中)、松居大悟監督 映画『くれなずめ』(4月29日公開)がある。

『街の上で』で若葉さんが演じるのは主人公の荒川青。下北沢の古着屋で働き、たまにライブを観たり、行きつけの古本屋や飲み屋に行ったりしながら、生活圏は狭く、下北沢を出ることはない。そんな彼のもとに、自主映画への出演依頼という非日常的な出来事が舞い込む。4月9日(金)より全国ロードショー。

ジャケット¥60,000(Azuma./Sakas PR TEL:03・6447・2762) シャツ¥32,000 パンツ¥32,000(共にmando/STUDIO FABWORK TEL:03・6438・9575)

※『anan』2021年3月31日号より。写真・NAE.JAY スタイリスト・タケダトシオ(MILD.Inc) ヘア&メイク・FUJIU JIMI インタビュー、文・小川知子

(by anan編集部)