熊林さんの演出で、よりストレートに本題に向き合う作品になる気がします。

「熊林さんが野田さんの戯曲を演出するって聞いたとき、少し意外だと思いました。これまで西洋の翻訳劇を演出している印象があったし、どちらも肉体先行型の演出をされる方だと思いますが、その方向性がまったく違うんです。たとえば野田さんの場合は、体を動かしながら早口で喋ることで、あの大量の言葉たちを転がしていく感じがあって、言葉と体が相乗効果を生んでいく演出なのかなって気がします。でも熊林さんは、言葉を転がしたり説明したりする動きというよりは、愛してるって言いながら殴り合う…といったような体と言葉が相反する動きをさせることが多いと思います。言葉にたくさんの意味が生まれるし、強い言葉を発せられる。そんな感覚です」

そう話すのは、舞台『狂人なおもて往生をとぐ』で熊林演出を経験した門脇麦さん。過去には野田作品への出演も果たしているが、今回の作品は「難しくてまだ語れるところまではいけていなくて…」とぽつり。物語は、太平洋戦争開戦前夜の長崎と、遥か遠い昔の古代王国の2つの時間軸で展開されていく。そこに長崎の原爆や天皇制などのモチーフが複雑に絡まり、時空を超えて描かれるのは重厚で壮大な世界。

「日本の演劇は、小さな空間で見せる物語に魅力的なものが多いと思うんです。でも、野田さんの舞台の特徴のひとつは、大きな空間をめいっぱい使っても広さを感じさせないこと。それだけスケール感のある作品を生み出せる方って、あまりいないと思います」

それが熊林演出によって、「艶っぽくなるし、重心が重くなって、よりストレートに本題に向き合う作品になるんじゃないかと思う」と話す。

「熊林さんが描く女性って、どこか生々しさがあるんですよね。野田さんとの一番の違いはそこだと思います。私自身はたぶん艶っぽくない人間ですが、言葉の重力と相反する肉体の動きを取り入れることで、逆の効果が生まれる気がするんです」

さまざまな映像作品で引っ張りだこの門脇さんだけれど、数年に一回は舞台に立つ機会を作っているそう。

「舞台に立つと、自分の実力不足を映像よりダイレクトに感じられて、とても貴重な時間です。映像の現場は撮り終えたら次のシーンに進むけれど、舞台は毎日同じシーンと向き合わなきゃいけない芝居の訓練って感じ。でも、いろんな試みができる嬉苦しい作業でもある。私、出番直前の、袖に立つ瞬間が好きなんです。ジェットコースターに乗っているときのゾワゾワッてする感覚に似た高揚感があるんですよね」

『パンドラの鐘』 太平洋戦争開戦前夜の長崎で、考古学者のオズ(金子)は巨大な古代の鐘を発掘。一方、古代王国では兄の死によりヒメ女(門脇)が王位を継承。王の埋葬を依頼された葬式屋のミズヲは、棺の中に隠された死の秘密を知ってしまう。彼は、処刑される代わりにヒメ女にある任務を命じられる。長年隠されてきた古代王国の謎が長崎の地で明らかに…。4月14日(水)〜5月4日(火) 池袋・東京芸術劇場 シアターイースト 作/野田秀樹 演出/熊林弘高 出演/門脇麦、金子大地、松尾諭、柾木玲弥、松下優也、緒川たまきほか 一般7000円ほか(4月13日にプレビュー公演あり。一般6500円ほか) 東京芸術劇場ボックスオフィス TEL:0570・010・296 大津、西宮、金沢、水戸、名古屋公演あり。

かどわき・むぎ 1992年8月10日生まれ、東京都出身。最近のおもな出演作に、大河ドラマ『麒麟がくる』や映画『さよならくちびる』など。出演映画『あのこは貴族』が公開中。また、今年冬に全世界同時配信予定のNetflix映画『浅草キッド』にも出演。

ニットベスト¥35,200 Tシャツ¥18,700(共にキャバン/キャバン 代官山店 TEL:03・5489・5101) プリーツスカート¥33,000(エストネーション TEL:0120・503・971) イヤリング、ベルトはスタイリスト私物

※『anan』2021年4月14日号より。写真・小笠原真紀 スタイリスト・吉田 恵 ヘア&メイク・石川奈緒記 インタビュー、文・望月リサ

(by anan編集部)