見た人が思わず感想を語り合いたくなるような、今までにないドラマを次々と世に送り出す佐野亜裕美さんに、根掘り葉掘りインタビュー。“面白いドラマ”が生まれる源とは?

テレビドラマプロデューサー佐野亜裕美さんに尋ねるドラマの作り方。

ドラマ作りは自分が本当にやりたいと思うかが第一。

最近、話題になっているドラマや映画のクレジットに、女性クリエイターの名前を見る機会が増えていて、その活躍と勢いが感じられる。なかでも佐野亜裕美さんは、秘密を抱えた男女4人のコミカルな会話劇で視聴者を惹きつけた『カルテット』や、旧来的な枠組みに囚われない登場人物たちの関係性や生き方に共感が広がった『大豆田とわ子と三人の元夫』(以下、大豆田とわ子)、SFに現実社会の歪みが投影された『17才の帝国』など、ドラマ好きの間で語られることの多い作品を手がけてきたプロデューサー。ドラマ作りの根幹となる企画を考える立場でもあるが、その選定はどのようにしているのだろう。

「気になる題材は常に自分の中に複数あって、そのどれが花開くのかは、作家さんなど人との出会いや、自分の人生のステージによっても変わってきます。でも一番大きいのは、それを自分が本当にやりたいと思うかどうか。私はドキュメンタリーを見るのも好きなのですが、そこで取り上げられていた問題を、ドラマのテーマとして掘り下げることもあります。これまであまり注目されてこなかった問題が、より多くの人に伝わるように、切り口を“面白く”工夫する。それはエンタメだからこそできることだと思います」

自分がやりたい企画をもとに、佐野さんは脚本家とたくさんの意見交換を行うが、その結果、物語のカギとなるエピソードが生まれることもしばしば。坂元裕二さんと初めてタッグを組んだ『カルテット』にもそれはあり、SNSでも話題になったあるシーンは、佐野さんの体験談が元になっている。

「唐揚げにレモンをかけるのが当たり前かどうか、登場人物たちがモメる場面です。私の場合は水餃子にパクチーみたいな話だったんですけど、こういう個人的な経験が、作家の手によって広く届くようなエピソードになることがある。心に響く物語って、万人向けみたいなところからは生まれなくて、むしろ個人的であるほど強いと思うんです」

坂元さんと2度目のタッグとなった『大豆田とわ子』にも、個人的な経験が生かされている。

「ヒロインのとわ子には、かごめという親友がいるんですけど、かごめのモデルになったのは、私の仲のいい友人です。彼女は美人でオタク。たぶん結婚する気がなくて、本人はそれでいいのに、周りからは『早く結婚しなよ』とか言われてしまう。すごく生きづらそうだなと思ったんです。そういう話を坂元さんにして、彼女が生きやすくなるような社会になってほしいという思いを伝えたら、それをどう表現できるか考えて、キャラクターに込めてくれました」

確かにかごめは“誰もが恋愛するもの”という考え方の加害性を、浮き彫りにするような存在だったといえる。そんな作風とはガラリと変わるのが、『17才の帝国』。

「もともと“アニメと実写の間のようなSFを作る”というコンセプトがあったので、それまで私が作ってきたドラマらしさみたいなことをあえて外した作品です。17歳の少年・真木が、AIによって実験都市の総理に選ばれるという物語ですが、真木の理念は、このキャラクターならこう考えるだろうという、あくまで劇中での思考実験の結果。そこに作り手の『こんな国になってほしい』みたいなメッセージは込められていませんし、この作品に限らず、登場人物に自分の思いを代弁してほしい、みたいなことは全然ないんです」

万人ではなく実態のある誰か一人に届いてほしい。

佐野さんが何を描きたいかというと、それは、「単純に言語化できない問題意識や、ひと言では表せない複雑な感情」なのだという。

「連続ドラマは、10話とかある程度長い時間をかけられるからこそ、そういう繊細な部分も描き切れると思うんです。単純なメッセージを伝える、というようなことはあまり考えたことがありません」

ただ繊細ゆえに、視聴者に気づいてもらえないこともあるのでは。

「どう受け取られるかは自由なので、たとえ気づいてもらえなくても、残念に思うことはありません。でも一つだけ、これを達成できたら御の字という目標があって、それは“一人でいいから、何か届いた”と実感できること。例えば『大豆田とわ子』は、生きづらそうにしている友人が、面白がってくれたらいいなと思って作ったし、『17才の帝国』は、若い人に政治に興味を持ってほしいと思って作ったんですけど、私の友人の小学2年生の子どもが、これを見て、『総理大臣って何をする人?』とか聞いてくるようになったと。もうそれだけで、このドラマを作った意味があると思います」

そんな佐野さんが新たに取り組んでいるのは、実際の冤罪事件をモチーフにした社会派ドラマ『エルピス』。10月期に放送開始予定で、脚本は朝ドラ『カーネーション』などで知られる渡辺あやさん。

「5年ほど前から渡辺さんと温めていた企画ですが、題材となっている冤罪事件を初めて知った時の衝撃が大きくて、これはフィクションで伝えるべきではと。今作でプロデューサー人生悔いなしと思うほど頑張って作っているので、ぜひ見てもらえたら嬉しいです」

SNSが考察で沸いた、大人の恋愛×ミステリー。

TBS『カルテット』(2017)

松たか子、松田龍平、満島ひかり、高橋一生が演じるのは、それぞれ弦楽器をたしなむ演奏家。4人は偶然出会い、カルテットを組むことになるが…。「伏線というより、坂元さんは当て書きの方なので、役者さんの芝居で描きたいものがどんどん変わっていくんです」

とわ子と身近な人たちとの緩やかな関係が心地いい。

カンテレ『大豆田とわ子と三人の元夫』(2021)

ヒロインは、松たか子演じるバツ3のとわ子。元夫たち(岡田将生、角田晃広、松田龍平)との緩やかで愉快で、時に面倒くさい関係が愛おしいドラマ。かごめを演じるのは、市川実日子。「『カルテット』以降、坂元さんとまた一緒にドラマを作りたいと話し続けて実現」

社会を変える可能性への気づきを、若者に提示。

NHK『17才の帝国』(2022)

NHKが世界への発信を目的に制作したドラマ。脚本はアニメでの活躍が知られる吉田玲子。主演は神尾楓珠。「この作品で、若い人が政治に興味を持ってくれたらいいなと思うと同時に、政治に主体的に関わることで、社会を変えられる可能性があることも提示したかった」

さの・あゆみ 1982年生まれ、静岡県出身。テレビドラマプロデューサー。2006年、TBSに入社後『99.9‐刑事専門弁護士‐』『カルテット』など手がける。’20年にカンテレへ移籍し『大豆田とわ子と三人の元夫』をプロデュース。次回作『エルピス』は、カンテレ・フジテレビ系で10月放送予定。長澤まさみ、眞栄田郷敦、鈴木亮平ほか。

※『anan』2022年8月10日号より。写真・岩澤高雄(The VOICE) イラスト・Green.K 取材、文・保手濱奈美

(by anan編集部)