六本木のサントリー美術館で、『歌枕 あなたの知らない心の風景』が開催中です。本展では、日本人が繰り返し詠んできた和歌の「歌枕」にフォーカス。和歌が記された美術作品をはじめ、名所絵や器など日本人が伝えてきた美しい文化に出会える展覧会です。

どんな展覧会?

「歌枕 あなたの知らない心の風景」展示風景 ©田山達之

【女子的アートナビ】vol. 254

『歌枕 あなたの知らない心の風景』では、日本美術のさまざまな作品をとおして歌枕の世界を紹介。平安時代の貴重な古筆や江戸時代の屏風絵、陶磁器や茶道具、工芸品など多彩な美術品を見ることができます。

そもそも「歌枕」とは、なんでしょう。あまりなじみのない言葉ですよね。辞書を見ると「和歌に詠み込まれる名所や旧跡」と載っています。

古くから、日本人は自然の美しさやさまざまな物事について感動したとき、自らの思いを和歌に詠んで表してきました。

とりわけ美しい風景に出会うと和歌に詠まずにはいられなかったようで、繰り返し詠まれた土地には特定のイメージが定着。しだいにその土地は日本の名所として知られるようになり、実際にはその場所に行ったことがなくてもイメージを共有できるようになりました。

歌枕には千年以上の歴史があり、おもに平安時代に成立したといわれています。歌枕で共有された土地のイメージは、和歌に詠まれるだけでなく絵画や工芸デザインにもなり、時代を超えて伝わっていきました。

歌枕の例として、一番わかりやすいのは「吉野」。今も桜の名所である吉野は、桜のイメージと結びつく歌枕です。

では、実際に作品を見ながら歌枕が描かれた世界に入ってみます。

美しすぎる…! 歌枕の絵画たち

《吉野龍田図》(右隻)六曲一双 江戸時代 17世紀 根津美術館 展示期間:8/3〜8/28

第一章「歌枕の世界」では、見ごたえのある大きな屛風絵で歌枕のイメージを体感できます。

《吉野龍田図》の右隻には画面いっぱいに桜が描かれ、吉野の春を表現。作品のところどころに短冊の絵が見えますが、そこには吉野を詠んだ和歌が書かれています。

《吉野龍田図》(左隻)六曲一双 江戸時代 17世紀 根津美術館 展示期間:8/3〜8/28

いっぽう左隻では、秋の龍田川(=紅葉)を表現。この「龍田川」も歌枕のひとつで、和歌でたびたび詠まれている場所です。有名なのは、百人一首の「ちはやぶる神代もきかず龍田川からくれないに水くぐるとは」(在原業平)。

この作品を見るだけで、昔の人は紅葉の名所・龍田川に行った気分になれたようです。

ほかにも、歌枕をモチーフにした美術作品が日本にはたくさんあります。

例えば、「武蔵野」という歌枕を題材にした作品にはススキが茂る原野に月が沈む様子が描かれ、「宇治」では川にかかる橋や柳・水車など、「住吉」や「因幡山」では松の名所などが描かれます。

和歌や歌枕を知っていれば、日本美術をさらに深く楽しむことができそうです。

歌枕でバーチャル旅行!?

《西行物語絵巻 著色本》(部分)三巻のうち中巻 室町時代 15世紀 サントリー美術館 全期間展示(ただし場面替えあり)

和歌が生活のなかに根づいていた昔の人たちは、実際に旅ができなくても、歌枕によって日本各地の美しい風景を思い浮かべることができました。

例えば第四章「旅と歌枕」の展示室にある《西行物語絵巻》では、日本の名所や風景が描かれ、絵巻を見るだけで西行法師の旅を追体験できます。

昔の人たちは、歌枕を題材にした名所絵や絵巻で想像をふくらませ、バーチャル旅行を楽しんでいたのかもしれません。

おしゃれ! 歌枕ファッション

「歌枕 あなたの知らない心の風景」展示風景 ©田山達之

最後の第五章「暮らしに息づく歌枕」では、歌枕がデザインされた工芸品が勢揃い。

家具や調度品、硯箱などの工芸品や、着物、女性の髪を飾る櫛など身につけるものにまで歌枕のモチーフがデザインされています。

身の回りに歌枕デザインがある生活、ステキですよね。桜の着物を着て「吉野」を思い浮かべたり、紅葉デザインの皿を使いながら「龍田川」をイメージしたり。昔の人たちは想像力が豊かで、洗練された生活をしていたことがわかります。

すごいよ昔の日本人…!

《色絵龍田川文向付》尾形乾山 六口 江戸時代 18世紀 公益財団法人阪急文化財団 逸翁美術館 全期間展示

「歌枕」のような短い単語だけで美しい景色をイメージできるなんて、考えてみたらすごいこと。「宇治」という言葉だけで「柳や水車」を思い浮かべることができるのですから、歌枕そのものがアートのようです。

しかも、平安時代に生まれた歌枕が時代を超えて伝わり、江戸時代の人たちでも歌枕デザインの工芸品を使い、歌枕をモチーフにした浮世絵などを楽しんでいたのです。

現代では、和歌や歌枕を身近に感じている人は少なくなり、恥ずかしながら私は「宇治」という文字を見てもカキ氷の宇治金時しかイメージできませんでした……。

昔の人たちが残してくれた美しい日本の文化に気づくことができる展覧会、ぜひ夏休みに訪れてみてください。8月28日まで開催しています。

Information

会期    :〜8月28日(日)※休館日は火曜日(8月23日は開館)
会場    :サントリー美術館
開館時間  :10:00〜18:00(金・土は10:00〜20:00)※8月10日(水)は20時まで開館
       ※いずれも入館は閉館の30分前まで
       ※開館時間は変更の場合があります
       ※最新情報などの詳細は展覧会HPをご覧ください
入館料  :一般 ¥1,500、大学・高校生 ¥1,000、中学生以下無料