心の凹みを埋めてくれる自分だけの処方箋を。

精神科医の奥田弘美先生によれば、“癒し”は医学用語としては使われないが、世間的な認識にヒントがあるという。

「一般的に、疲れや悩みなどでマイナスに揺らいだ状態から心を浮上させ、さらに緩やかにプラスにできるモノやコトに癒しを感じるといえるでしょう。ロックコンサートなどで感じる激しい興奮ではなく、じんわりと心にエネルギーがチャージされるイメージです」

癒しを感じる対象は、人によって、またその人が置かれている状態によっても変わる。

「切り花を美しいと感じる人もいれば、枯れるのを見るのが苦痛な人もいます。海が好きでも、暑い時期は出掛けたくなくなることも。誰もが必ず癒される特定のモノはまずないので、ご自身をマイナスに揺らがせている心や体の原因を探ると、ぴったりの癒しが見つかるのではないでしょうか」

癒しは、活動と休息のメリハリある生活から。

「癒しの原点は休息にあります」

と、自律神経研究の第一人者である小林弘幸先生。

「休息を感じるには、しっかり活動をしていることがポイントになります。仕事や運動中は交感神経がしっかりと上がり、睡眠時にはちゃんと副交感神経が優位になる。このメリハリこそが、癒しを感じるには大切ですが、ストレスが強く、生活リズムが崩れがちなコロナ禍により、多くの人の自律神経はトータルパワーがかなり下がっています。自分は大丈夫と思い込まず、自律神経が乱れていると考えたほうがいいでしょう」

自律神経を整える基本は規則正しい生活にある。

「そこには当然、食事も含まれており、腸内環境を整える食生活、適度な運動、良質な睡眠を軸に、呼吸も安定させると自律神経が整い、癒しも感じやすくなります」

癒しにまつわる素朴なギモンを解消!

深呼吸をしたらリラックスできたり、思い切り泣いたら心が落ち着いたり。癒しと関係している気はするけれど、メカニズムはよくわからない。そんな、癒しにまつわる素朴なギモンをおふたりにぶつけてみました。きっと、癒しを感じるためのヒントになるはず。

癒しの第一歩は呼吸ってホント?

呼吸が整えば、自律神経も自ずと整います。(小林先生)

仕事や人間関係のストレスに晒されたり、ネガティブな情報が大量に入ってきてイライラしたりと、交感神経が優位な状態が続きがちな現代人。「そういう時はたいがい、呼吸が浅くスピードも速くなっています。ゆっくりと深く、吸う時間の倍の時間かけて息を吐いてみてください。呼吸を安定させると自律神経も整い、血流も良くなって心地よさを感じられます。ヨガや太極拳が癒しをもたらすエクササイズといわれているのも、呼吸法を非常に大事にしているからです」

自分に合った癒しを見つけるコツは?

心の声に従うのが一番の近道です。( 奥田先生)

癒しスポットとして紹介されて行ってみたけど、イマイチ…。そんなことも少なくない。「世間でいいといわれていることや、たとえ自分が好きなことでも、その人の置かれている状況や心の状態によっては、ストレスになることもあります。大事なのは、今の自分は何を求めているのか。ご自身の心の声に素直に耳を傾け、興味を持ったことを試してみるのは、自分なりの癒しの方法を見つけるのにとてもいいこと。ただ、少しでも合わないと感じたら、無理に続けないで」

子猫や赤ちゃんに老若男女誰もが癒されるのはなぜ?

幸せホルモンが関連しています。(小林先生)

癒しをもたらすキーワードに、“幸せホルモン”や“愛情ホルモン”と呼ばれるオキシトシンがある。「いわゆる“癒しの行動”をすることでオキシトシンが分泌されると、幸せを感じられ、心が安らぎます。その行動としてもっとも知られているのは、パートナーや子供とのハグやペットを撫でるといったスキンシップ。それ以外にも、大切な人と食事を共にして会話を楽しんだり、小さい子供や動物など、かわいいと脳に記憶されているものは、見るだけでも分泌されます」

癒しを感じれば対象はなんでもいい?

依存になっていないか、注意が必要かも。( 奥田先生)

癒しを感じる対象やシチュエーションは十人十色。「小さい頃から大切にしているぬいぐるみや、応援しているアイドルやキャラクターに愛着を感じるのであれば、ぜひ大切にしてください。ただし、大量のスイーツやアルコールなど、一般的に健康によくないといわれているものは、その時は癒されたと感じられても、心身の健康状態を長い目で見ると大きなマイナスになってしまいます。金銭的に際限なくなるものは要注意。特にギャンブルは依存のリスクが高いので避けて」

涙を流したり、笑うと癒しにつながる?

ポジティブな感情で発散しよう。(小林先生)

感情がニュートラルな状態を保てれば、心を消耗しないで済むが、感情を溜め込むと、心は疲弊するばかり…。「時には感情に任せることも大切です。感情をうまく外に出せない人は、感動的な映画を観て涙を流す、良質なお笑いを見て思い切り笑うといったことを意識的に行ってみましょう。頭でアレコレ考えず、素直に感情を出すという行為によって、呼吸も安定します。ただし、怒りや嫉妬といった負の感情は心を不安定にさせるだけ。ポジティブな感情を意識しましょう」

奥田弘美先生 精神科医。産業医として働く人の心身のケアをサポート。日本マインドフルネス普及協会代表理事も務める。著書に『「会社がしんどい」をなくす本』(日経BP)など。

小林弘幸先生 順天堂大学医学部教授、日本スポーツ協会公認スポーツドクター。自律神経や腸内環境を研究。近著に『マンガでわかる自律神経が整う5つの習慣』(宝島社)がある。

※『anan』2022年9月14日号より。イラスト・カラシソエル 取材、文・小泉咲子

(by anan編集部)