いよいよクリスマスまであと1か月ほどとなり、今年はどんなふうに過ごしたいかと考え始めている人も多いのでは? そんななかご紹介する映画は、衝撃的なクリスマスの夜を描いた話題作です。

『サイレント・ナイト』

【映画、ときどき私】 vol. 531

イギリス人夫婦のネルとサイモンと3人の息子たちは、田舎の屋敷でクリスマスのディナーパーティを開こうとしていた。そんな彼らのもとに集まって来るのは、学生時代の親友たちとその伴侶。子どもを含む12人の男女は、久々の再会を楽しんでいたが、今年はいつものクリスマスとは違っていた。

なぜなら、あらゆる生物を死に至らしめる謎の猛毒ガスが地球全土を席巻し、明日にもイギリスに到達するという。パーティを満喫した後、大人たちは政府が配布した自殺用の薬を飲み、ともに“尊厳ある死”を迎えるという協定を結んでいたのだ。度重なるトラブルが勃発するなか、毒ガスの脅威は間近に迫っていた……。

夫婦役を演じたキーラ・ナイトレイとマシュー・グードをはじめ、『ジョジョ・ラビット』の天才子役ローマン・グリフィン・デイヴィスやリリー・ローズ・デップといった豪華キャストが集結している本作。今回は、こちらの方にお話をうかがってきました。

カミラ・グリフィン監督

これまでにいくつかの短編映画を手掛けたのち、ついに念願の長編映画監督デビューを果たしたグリフィン監督。実は、本作に出演しているローマンと双子の弟たちの母親でもあります。そこで、現場での様子から子育てで大切にしていること、そして日本の女性たちに伝えたい思いなどについて語っていただきました。

―劇中では、一年でも一番楽しいとされるクリスマスと人類滅亡の日が同時に起こる様子が描かれており、その組み合わせがとても皮肉に感じましたが、どうしてこのような設定を思いついたのでしょうか。

監督 クリスマスというのは、家族が集まったり、「しばらく会っていないあの人は元気かな」と考えたりするので、楽しい時間であると同時にセンチメンタルな気持ちになる時期。そんなふうに、いろんな感情が高まる日でもあるので、一見反対のようですが、攻撃を受けるにはぴったりの日ではないかと感じてクリスマスにしました。

―本作はコロナ禍の前に制作していたオリジナル作品ですが、実際に劇中と同じようなパンデミックが起こり、さらにロシアの陰謀に関する描写もあります。いろんなことが現実とリンクしていますが、いまの社会情勢のなかで公開されることをどう受け止めていますか? 

監督 「こういう状況で映画を公開したら当たるんじゃないか」みたいな考えは一切なく、むしろコロナ禍もロシアの状況もあまりにも現実と近すぎてすごく慌てているというか、悲しい気持ちでいます。ただ、ロシアではこの作品はとても好評だったので、もしかしたらロシアの方々はこういう問題を自分たちでも考えたかったという思いがあったのかもしれません。

いろんな状況が悪くなってはいますが、パンデミックが起きたことによって、世界中のあらゆる問題がよりはっきりと見えてきた部分もあったのかなと。私はそれを予期していたわけでも、予想していたわけでもありませんが、これから起こるであろうことについて話をすることは健全だと思っています。とはいえ、この作品が観る方を傷つけたり、トラウマを与えたりするようなことにだけはなってほしくないと願っているところです。

同じ野心を持っている俳優をキャスティングした

―非常に豪華なキャストが顔を揃えていますが、現場での裏話などがあれば、教えてください。

監督 今回は、ひとつのテイクが終わるごとに次の準備をし、俳優たちのところに行っては彼らの調子をチェックしていました。そのなかで、政治に関して感情的なディベートをしているときもあれば、冗談を言い合っているときもあったり、また競馬をしているときもあったり、本当にみんないろいろでしたね。

ただ、私がキャスティングをするうえで大切にしていたのは、この物語に共感できるかどうか。私の考えを理解してもらえること、そしてみんなで同じ野心を持っていることを大切にしていました。それが難しい俳優はキャスティングしていませんし、結果的に同じ思いを持った人たちに集まってもらえたと感じています。

―息子であるローマンくんの演技は素晴らしかったですが、親子ならではの演出もあったのか、それともあくまでも一俳優として向き合われたのでしょうか。

監督 ローマンは9歳のときからずっと俳優になりたいと言っており、自然に備わった才能もあったので、まずはそれを邪魔しないことが大事だと感じていました。しかも、彼は非常に感受性が豊かで、年齢のわりに成熟しているところがあるので、現場では俳優として接しています。

とはいえ親子なので、当然お互いに分かり合えるところはありましたし、ほかの俳優よりもきつく言ってしまうこともあれば、撮影の合間に抱きしめてあげるようなこともありました。でも、彼はプロの俳優で、これまでもプロとして仕事をしているので、今回は私もプロの俳優として彼を演出しています。

子育てで意識しているのは、自由を与えること

―子どもたちの才能を伸ばすために、子育てで意識していることはありますか?

監督 私が実践しているのは、子どもに自由を与えること。それは親に同意しない自由や親に挑戦する自由、親が間違っていると思えば疑問を呈する自由です。それくらいお互いを尊重し合えるようなオープンな関係を持ちたいと考えています。

そうすることで、子どもたちは感情的な自己というものに気づくことができると思いますし、それが大事なことなのです。うちには子どもが3人いるので、それぞれの視点が違うことによってよくケンカをしていますが、私の家ではそういうことができる自由がある環境にしたいと考えています。

―また、本作では人々がさまざまな社会的重圧を抱えるなかで、どう過ごしていくのかを追求したかったということですが、そのなかでもいま監督が危機感を抱いているのはどんなことでしょうか。

監督 毎日いろんなニュースを追っているなかで、アメリカの人種差別やウクライナの問題、そして飢えに苦しむ子どもたちなど、どれも心が痛むものばかりで終わりがないように感じています。私自身は非常に恵まれた生活をしていますが、そうではない人たちにとってはあまりにもひどくてつらい世の中ではないかという思いでいっぱいです。

特に、いまはよくなっている兆候が見えないので、自分の子どもだけでなく、その次の世代のことまで考えると心配になります。ネガティブな話ばかりになってしまい申し訳ないですが、それと同時に毎日たくさんの愛や情熱も感じているので、そういう部分は大切にしていきたいです。

ほしいものがあれば、諦めてはいけない

―日本についてもおうかがいしますが、日本にまつわるエピソードなどがあれば、教えてください。

監督 20年以上前になりますが、友達が何か月間も日本で舞台に出演していたので、実は私も一緒に1か月ほど滞在したことがありました。そのときに受けた印象は、日本というのは非常に美しくて素晴らしい国だということ。そして、日本人は自分が経験したなかでも最高のイタリア料理を作る人だということでした(笑)。いまでもあるかわかりませんが、イタリアンがたくさん並んでいるところがあり、本当においしかったです。

文化体験として驚いたのは、自転車にカギがかかっていなくても安全であったこと、それからすごく礼儀正しくて、人々がお互いを尊重しているように感じたことです。おもしろいなと思ったのは、街にホームレスや危険な人がほとんどいないのに、夜になると酔っ払いがたくさん現れること(笑)。そのときに日本人というのは、マナーがあってきちんとしていると同時に、詩的で優しい人たちなんだなと思いました。

―それでは最後に、仕事や恋愛に悩むananwebの読者たちにむけてメッセージをお願いします。

監督 私にとっての哲学は、「ほしいものがあれば諦めずに忍耐強くあること」。たとえば、私の夫は素晴らしい人ですが、ときには彼に悩まされることもあります。でも、もし彼が私を嫌になって諦めそうになっても、私は諦めませんし、彼にも諦めさせません。それは自分のキャリアにおいても言えることですが、私は何も諦めることなくやってきました。なので、諦めなければいずれよくなると私は思っています。

そして、私からすると女性というのは年を重ねるにつれて、物事がよくなっていくもの。女性であることは非常にラッキーなのではないかとさえ感じています。そのなかで、自分をサポートしてくれる友達を作り、お互いに支え合っていってほしいです。それから、自分を受け入れることと、自分の不完全さを愛することも忘れないでください。

現実とリンクして、リアルな感情が湧き上がる!

刻一刻と近づく死の恐怖がもたらす緊張感がありながら、ブラックユーモアとの絶妙なバランスも堪能できる本作。まるで未来を予言したかのような驚きの展開は、これまでのクリスマス映画とは一線を画する1本です。


取材、文・志村昌美

衝撃の予告編はこちら!

作品情報

『サイレント・ナイト』
11月18日(金)グランドシネマサンシャイン 池袋ほか全国公開
配給:イオンエンターテイメント、プレシディオ

️© 2020 SN Movie Holdings Ltd