女性にとって心が躍る瞬間といえば、好きな服を好きなように着ているとき。そこで今回ご紹介するオススメの映画は、クリスチャン ディオールが手掛けたきらびやかなドレスが次々と登場する注目作です。

『ミセス・ハリス、パリへ行く』

【映画、ときどき私】 vol. 532

舞台は、1950年代のロンドン。家政婦として働くミセス・ハリスは、愛する夫が戦死したことを知らされる。それでも気丈に振る舞っていたハリスは、ある日クリスチャン ディオールのドレスに出会い、一目惚れしてしまう。

その美しさに魅了されたハリスは、500ポンドもする高級ドレスを手に入れるため、資金を調達してパリに向かうことを決意。無事パリに降り立った彼女は、ディオール本店へと向かうが、威圧的なマネージャーのコルベールに追い出されそうになる。果たして、ハリスは“夢のドレス”を手にすることができるのか……。

夏に公開されたアメリカでは、大作が並ぶなか1000館以下の公開作品としては唯一トップ10にランクインするなど幅広い層から高い支持を得た本作。そこで、こちらの方にお話をうかがってきました。

アンソニー・ファビアン監督

アメリカで生まれたのち、本作の舞台でもあるフランスとイギリスで思春期を過ごし、現在はロンドンを拠点に活動しているファビアン監督。今回は、映画化するうえでのこだわりやディオールの裏側、そして作品を通して伝えたい思いなどについて語っていただきました。

―もともとは原作である『ハリスおばさんパリへ行く』を手掛けたポール・ギャリコがお気に入りの作家だったそうですが、この作品についてはどういったところに魅力を感じましたか?

監督 あとから振り返ったときに、いろんなところが自分に響いていたんだなと気づかされましたが、最初に心をつかまれたのは主人公のチャーミングさ。ものすごく正直で、はっきりとした道徳観を持っていますし、何よりも彼女のポジティブさには共感するところがありました。

―今回は監督としてだけでなく、脚色する権利も取得していますが、その理由を教えてください。

監督 僕は7歳のときに家族と一緒にパリに移り住んだ経験があるので、フランスに対しては深い知識があると思っています。そんな僕からすると、イギリスやアメリカのフィルムメイカーたちが描くフランス人のキャラクターには違和感を覚えることがあったので、フランスにいたことのある自分ならもっとリアルなものが作れると考えました。

まず決めていたのは、フランス人の役は絶対にフランス人の俳優に演じてもらうこと。この原作は過去にテレビ向けの作品として映像化されたことがありますが、そのときはフランス人の役に1人もフランス人が起用されていませんでした。

本作はおとぎ話のようなストーリーではありますが、同時にリアリズムにも基づいている作品。ファンタジーのなかにもリアルな要素というのがしっかり描かれることが重要だと思い、そのあたりのバランスはこだわっています。

ディオールが愛した花や要素を取り入れている

―ほかにも、映画オリジナルのキャラクターや映画ならではの設定を加えていますよね。

監督 僕にとって、この作品を脚色することはひとつの挑戦でもありました。というのも、原作では主人公の道のりにあまり壁がなく、わりと簡単に夢を叶えてしまうところがあるので、映像化するにあたってはもう少しそこに立ちはだかるものを加えたいなと。そうすることでより重層的な物語になりますし、観客にとっても豊かな視聴体験になると考えました。

具体的には、労働者の権利についての描写を入れたり、ディオールのマネージャーであるコルベールと心が通じ合うまでに時間をかけたり、という部分を付け加えています。

―本作の大きな見どころは、現在の貨幣価値で250〜400万円ほどになる美しいドレスの数々。今回はディオール全面協力のもとで一緒に仕事をされましたが、そのなかで感銘を受けたことはありましたか? 

監督 まず、ディオールの人たちはメゾンの歴史というものをとても誇らしく思っており、アーカイブだけを集めたビルがあるほど。今回は、そこのトップが映画のプロジェクトに歴史的観点から関与してくれることになりました。幸運なことに、過去に作られたドレスを見せていただくことができたので、そのときに見た手縫いのビーズやベルベットからインスピレーションを得て、劇中の「テンプテーション」というドレスを作っています。

当時は女性らしいフォルムを祝福するようなドレスが数多くあり、なかには何メートルもの生地を使った贅沢なドレスもあったほど。どれも興味深いものばかりでしたが、そういったものを参考にしながらディオールが愛した花や彼ならではの要素を取り入れていきました。ディオールすべての歴史にアクセスさせていただくことができ、本当にありがたかったです。そんなふうに、ディオールに関することは、実際にあったことを忠実に描くように心がけました。

「ありのままの自分でいいんだ」と感じさせてくれるはず

―また、ハリスは非常に魅力的なキャラクターですが、あんなふうに自分らしく好きなものを追い求めることはなかなか難しいことです。もし、彼女のようになれるヒントがあれば、教えてください。

監督 アメリカで公開されたときには、「ハリスはこの夏一番のスーパーヒーローだ」と評価してくれたメディアもあったほどですが、彼女のスーパーパワーというのは、人々が被っている“仮面”を取ってくれるところ。「ありのままの自分でいいんだ」とみんなに感じさせてくれるキャラクターだと思っています。

とはいえ、ハリスも最初は周りから言われることに対して受け身の女性。ただ、パリでの冒険を終えて成長した彼女は自分自身に自信を持ち、自分の意見をしっかりと伝えられる強さを持てるようになるのです。

それは、ありのままの自分でいることによって周りがどんな反応をするのかを目の当たりにしたからではないでしょうか。そんなふうに社会で報われることを知ったからこそ、自分に正直でいることの大事さを学ぶことができたのです。

これはまさにこの映画の中心的なメッセージでもありますが、ハリスからみなさんに向けて「あなたもありのままの自分でいたらどうですか?」という挑戦状でもあります。ぜひ、日本の素敵な女性たちにもそのことを伝えたいです。

年を重ねることの美しさを感じてほしい

―確かに、他人の目を気にしがちな日本の女性たちには感じてほしいところです。ちなみに、日本に対してはどのような印象をお持ちですか?

監督 日本には何度か行ったことがあり、そのたびに日本の文化や国自体に魅了されています。歴史がありますし、豊かさに感銘を受けているところです。やはり欧米とはまったく違う文化なので、そういったところに面白さを感じて惹かれているのかなと。もっと日本の慣習についても知りたいなと思っています。

また、普段から大好きでよく食べているのが日本食。日本に詳しい友人もたくさんいるので、日本食のレストランに行くときは、シェフが日本人かどうか、お客さんに日本人が多いかどうか、といったところをしっかりと見極めながら、なるべく本物の日本食に近いものを選んで楽しんでいます。

―それでは最後に、ananweb読者に向けてメッセージをお願いします。

監督 この映画では、他人からどう見られているかどうかについても深く掘り下げて描きました。僕からすると、女性はある程度の年齢になると存在を忘れられてしまうようなことが多いと感じていましたが、本来大事にすべきなのは、年齢とともに得られる賢さではないでしょうか。

そういったこともあり、年を重ねることの美しさを祝福するような映画にしたかったので、ぜひそのあたりも感じていただけたらうれしいです。

諦めない気持ちが奇跡を起こす!

先行き不安な時代のなかで、夢を見つけること自体が難しいと感じるときはあるものの、いくつになっても夢を追いかける大切さを教えてくれるハリスの姿。どんなに苦しいときでも、勇気と優しさを持って一歩を踏み出せば、きっとあなたの人生も美しいドレスのような輝きを放つはずです。


取材、文・志村昌美

胸がときめく予告編はこちら!

作品情報

『ミセス・ハリス、パリへ行く』
11月18日(金) TOHOシネマズ シャンテ、渋谷ホワイトシネクイントほか全国ロードショー
配給:パルコ、ユニバーサル映画

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