この1年ほど、自宅で過ごす時間が増え、自然と台所に立つ機会が多くなった、という方も多いのではないでしょうか。段取りよく料理をするための設備や配置、道具や器の収納はもちろんのこと、この場所で過ごす時間もまたベターライフには欠かせません。台所を大切にしている人たちを訪ね、使い勝手と居心地のよさの工夫を見せてもらったから、ここでは大きな窓から庭を見渡す開放的なキッチンを楽しむ、加賀江広宣さん、加賀江ひとみさんの自宅を紹介します。

 

加賀江夫妻が暮らすリビングの窓辺。1.5×1.5mの大きな窓にDIYで棚板をつけて、緑豊かな景色を見渡せるスペースにお茶の道具を並べた。

家族の笑顔を想像して考え抜いた動線と景観。

 

 右を見ても、左を見ても広大な畑が見える、曲がりくねった細く長く、続いていく田舎道。自然豊かな土地には、春の訪れを感じさせるウグイスのさえずりが、静寂のなか心地よく響いている。ここ鹿児島市の北西部に位置する、農業地域ののどかさに魅せられた加賀江広宣さんは、8年前に28坪の小さな家を建てた。

「僕にとって『気持ちいい』とか『落ち着く』という感情は、外の景色からもたらされることが多いんです。もともとはクヌギ林だった土地を整え、程よく木々を残し、自分で設計をして家を建てました。大きい家だと外を遠くに感じてしまうけれど、小さい家は家のどこにいても外が近くなる。キッチンで過ごす時間も、然を身近に感じられるように、1 階リビングの北と南に大きな窓を作りました。家とキッチンの建材は、窓から見える緑豊かな景色に馴染むように木材で統一して。自然を主役にしたくて、キッチンは控えめな印象になるコンパクトサイズに。スムーズな動線も意識しました」

 

28坪の家に合わせて設計したコンパクトキッチン。天板は水に強いオーク材。
妻のひとみさんが作ったパウンドケーキ。〈アラビア〉のカップにコーヒーを淹れて。
妻のひとみさんが作ったパウンドケーキ。〈アラビア〉のカップにコーヒーを淹れて。

 

アイランドキッチンは、広宣さんが勤める住宅会社〈シンケンスタイル〉が作ったオリジナル。天板の木材は経年変化を楽しめる、風合いのあるオーク材を選んだ。カウンターの高さは、妻のひとみさんの身長153㎝に合わせ、一般的なシステムキッチンの規格である85㎝よりも3㎝低めにデザインした。

「体に合わせて高さを計算したキッチンは、すっと馴染んで作業がしやすいですね。アイランド型は視界が広く、ひとり黙々と作業している感じにならないのが嬉しい。庭やリビングにいる家族の様子を眺めながら皿洗いできますし、子どもたちはその様子を間近で見ているので、率先して手伝ってくれるようになりました。夫は以前住んでいた市営住宅では、ぐうたらお父さんだったけど(笑)、いまは皿洗いやコーヒーを淹れる作業を楽しそうにやってくれるのでとても助かっています」とにこりと微笑むひとみさん。

 

コンロ台の壁にシナ合板の棚板を 2 段固定。木の温もりを感じるカゴやザル、ミ ントブルーの〈イッタラ〉の皿や〈シャスール〉の鍋など美しい道具を陳列。
アイランドキッチンには、炊飯器を隠しながら収納できるワゴンを造作。スリットを入れ、動かしやすくした。
よく使う食器類を収納。「アルミの器 は、小さい子どもたちでもラフに使え て重宝しています」とひとみさん。
外張り断熱を採用したことで、壁面を有効活用できるように。調味料を収納する細長い棚を設えた。
アイランドキッチン脇にラックやタオルハンガーを取り付けた。よく読む料理本、調理道具などをまとめて。

 

 さらなる工夫として、火元で作業する人とシンクに立つ人がぶつからないよう、立ち位置をずらし、通路幅に程よい距離を設けたそう。「コンロ台とシンクの間は75㎝。通路幅が広いほうが使い勝手が良い、という発想になりそうですが、ギリギリの広さのほうが一つ一つの動作が大げさにならなくて、ちょうどいい」。そう話す広宣さんは、妻や子という太陽のような存在を優しく見守る静かな月のよう。配慮が行き届いた小さなキッチンが、家族の日常を支え、笑顔を守っている。

 

アイランドキッチンからは左右の窓の先の庭を見渡すことができる。天気の良い日は大きな窓を開放し、清々しい風を呼び込む。

加賀江広宣/加賀江ひとみ
会社員/主婦

広宣さんは木の家を造る〈シンケンスタイル〉に勤務。暮らしのことをInstagramで発信中。ひとみさんは、カフェをやるために畑を始めたところ。

photo : Mitsugu Uehara edit & text : Seika Yajima
※『&Premium』No. 91 2021年7月号「やっぱり、台所は大切です」より

 

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掲載号はこちらPRACTICAL KITCHENS 03