September.24 – September.30, 2021

Saturday Morning

Title.
Looking For A Brand New Game
Artist.
The Eight Minutes 20代の一時期、世田谷の区立小学校の向かいに住んでいたことがあります。まだ独り身で、アメリカやイギリスとの頻繁な往来で忙しかったぼくは、いわゆるファミリー的な一切とは無縁のリズムで生活していました。朝になってようやく眠りに就くころに、学童たちが元気な声をあげて校門に駆け込んでいく。1973年にリリースされたこのキッズソウルを聴くと、あのころのいびつな日々を思いだして胸がちょっとヒリヒリします。ソウル史の重要人物として語り継がれるNYのラジオDJフランキー・クロッカーが好んでプレイした曲で、当時はシングル盤しかリリースされなかった曰く付きのナンバーですが、いまではこの曲を収めたコンピレーションアルバムをわりと容易に入手できます。加えてサブスクリプションサービスでも聴けるようになりました。便利な時代になったものですね。あのマンションから住まいを移すこと6回、いまぼくはふたりの子の父親です。
アルバム『The Best of Perception & Today Records compiled by DJ Spinna and BBE Soundsystem』収録。

Sunday Night

Title.
別れた人と
Artist.
デューク・エイセス 小学生のころ偶然に出会って頭を撫でてもらって以来、ずっと憧れの存在の永六輔さん。多岐にわたる活動で知られましたが、なかでも有名なのは日本を代表する作詞家という顔でしょう。なにしろ「上を向いて歩こう」は半世紀近くも前に全米チャートを制したのです。早いもので旅立たれてから5年が過ぎました。彼と最も関わりの深かったグループ、デューク・エイセスも2017年に解散し、62年間の活動に終止符を打ちました。1960年代、いや昭和40年代前半に、永さんと作曲家いずみたくさんのおふたりが日本中を旅して全都道府県ゆかりのご当地ソングを作り、デュークが歌うという意欲的な試みがありました。そこからは「いい湯だな」(群馬)、「女ひとり」(京都)のようなヒットも生まれましたが、ぼくが耳を奪われるのは兵庫編、神戸を舞台にしたこの曲。別れた恋人と再会して情交を結んだものの、嗚咽を堪えてそれぞれの日常に戻るという哀歌。ここでの永さんとデュークは、広く流布する善人イメージを裏切って、聴く者の胸に黒ずんだざらつきを残します。肌寒さを感じる日曜の夜に聴きたい一曲です。さて、ぼくは大人になって運よく永さんと再会、デュークのみなさんともお仕事をご一緒する機会に恵まれました。愉快なお話をたくさん聞かせていただいたのですが、迂闊にも『にほんのうた』について伺い損ねたのが悔やまれます。でも、だからこそ、いまでもこの曲にずっと夢を見つづけていられるのかもしれません。
アルバム『にほんのうた 第一集』収録。


『&Premium』特別編集
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音楽プロデューサー、作詞家、作曲家 松尾潔

1968(昭和43)年、福岡市生まれ。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。その後、プロデューサー、ソングライターとして、久保田利伸、平井堅、CHEMISTRY、SMAP、東方神起、JUJU等に作品を提供。楽曲の累計セールス枚数は3000万枚を超す。日本レコード大賞「大賞」(EXILE「Ti Amo」)など受賞歴多数。『松尾潔のメロウな夜』(NHK-FM)、『関ジャム完全燃SHOW』(テレビ朝日)などに出演中。今年2月、初の長編小説『永遠の仮眠』(新潮社)を上梓した。